響子そして(二十八)調書
2021.08.01

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します


(二十八)調書

 朝食を終えて名残惜しむ里美を、リムジンに乗せて見送った後、丁度入れ代わりに真樹さんがやってきた。今日は私服で来ている。
 一晩わたしの部屋の控え室に泊まった女性警察官が、敬礼して出迎えた。
「おはようございます」
「悪かったね。今日は帰って休み給え」
「はい。では、そうさせていただきます。あ、それから……」
 と何事か耳打ちしている。
「わかった、極力手短にするよ」
 それからわたしの前に歩み進んで、
「おはようございます、響子さん。ご気分はいかがですか?」
「ええ。ちょっと頭痛がしますが、大丈夫です」
「では、どちらのお部屋で調書を取りましょうか?」
「わたしの部屋がいいです」
「わかりました」
 わたしの居室に案内して調書を受ける事にした。
「朝早くから申し訳ありませんね。改めてわたしはこういう者です」
 真樹さんは、ショルダーバックからから手帳を出して開いて見せた。

 厚生労働省、司法警察員麻薬取締官、斎藤真樹。(写真添付)

 という記述があった。でも随分ときれいな手帳。任官されたばかりだから当然か。
{注・平成十五年十月一日より身分証が新しく変わっています}
「こっちが、あたしの正式な身分です。警察には出向で来ています」
 国家公務員が地方組織に出向ねえ、不思議だ。警察官は地方公務員であり、警視正以上になって国家公務員扱いとなるのだが、彼女は国家公務員ながらも巡査部長待遇しかないとは、やはり出向だからかな……。手帳をしまう時にバックの中に、あのダブルデリンジャーが覗いて見えた。常時携帯しているようだ。火薬の匂いが着かないように、使用後毎回丁寧に清掃しているんでしょうね。支給品じゃないだろうから、好みに合わせて個人で買い求めたものだろう。確か、麻薬取締官の制式拳銃は、ベレッタM84FSだったと思ったけど……。
 改めて、きれいな女性だと思った。しかも二十三歳の若さで麻薬取締官だなんて、よほどの才能がないと務まらないと思う。採用資格には薬剤師か国家公務員採用試験II種(行政)合格。採用されてからでも、麻薬取締官研修から拳銃の取り扱い、逮捕術の修練、WHO主催語学研修。さらには法務省の検察事務官中等科・高等科研修を受けなければならない。だからこそ司法警察員なのだが、通常ではとても二十三歳でそれらをすべてこなすことなどできない。

 それから小一時間ほど、型通りの調書を取られた。
「響子さんについては、母親の覚醒剤容疑で死んだ密売人の背後にある、密売組織をずっと追っていたんです。その過程で磯部健児やあなた自身のことを、ずっと調査していました。健児はいずれ再びあなたに対して、何らかの手段を取ってくるに違いない。遠藤明人を襲った組織は……」
 そこまで言いかけた時に思わず大声をあげてしまった。
「明人をご存じだったんですか!」
「ええ、このあたりの暴力団はすべて知っています。そして磯部ひろしという人物が遠藤明人の情婦になったという情報もね。つまりあなたです」
「そうでしたか……」
 真樹さんは続ける。
「明人を襲った組織は、健児が関係している暴力団です。そしてあなたがそこに捕われたことも判明しました」
「まさか、健児が……?」
「そは有り得ると思います。実は、響子さんが少年刑務所に収監されてしばらくして、磯部京一郎氏が娘の弘子の覚醒剤中毒と息子が殺害に至った経緯についての事情を知って、響子さんの権利復活に動きだしました。つまり先程の公正証書遺言による相続人に響子さんを指定したのです。それを知った健児が、再び動きだしました。しかも殺してしまうよりは、当初の予定だった計画を実行に移そうとしたのです。健児はあなたが性転換して明人の情婦になっている情報を得て、明人を殺し響子さんを捉えて覚醒剤漬けにして、何でも言う事を聞く人形に仕立て上げようとした。それと合わせて京一郎氏を殺害してしまえば、その財産はすべて自分のものになるとね。まあ、あくまで推測ですが……」
「結局わたしの人生は、健児によって二度も狂わせられたということね。しかも、母と二人であるいは明人と二人で、苦境から立ち直って幸せな生活を築いていきましょうとした矢先に、再びどん底に引き落とされたから、よけいにショックが大きかったわ」
「お察し致します。その件に関しましては、わたし達捜査陣が一歩も二歩も行動が遅れてしまったからに他なりません。もっと効率的に動いていれば、あなたの母親もあなた自身も救う事ができたかも知れないのです」
「もう気にしていないわ。過ぎてしまったことは仕方ありませんから。楽しい思い出だけを胸に、前向きに生きていきたいと思っています。それに秀治は生きて戻ってくるし、子供を産める女になって結婚できるようになった。そしておじいちゃんとも再会できて遺産相続も元通り。すべて最終的には結果オーライになっちゃってる。何て言うか、運命の女神は見放していなかったってとこかな」
「そうおっしゃっていただけるとありがたいです。まあ、何にしても健児とその背後の組織については、もう二度と関わることはないでしょう。ご安心ください。しかし財産を狙うものはいつの世いつの時代でも存在します。常に油断することなく交際相手は良く考えることですね。いつ何時健児や麻薬密売人のような奴が近づいてくるかもしれませんからね」
「ご忠告ありがとう」
 あ、ちょっと待てよ。
 彼女は二十三歳じゃない!
 どうして、わたしの中学生時代の事件を知っているの?
 お母さんと売人の事をどうしてそんなに詳しいの?
 それにやはり、若干二十三歳で麻薬捜査の現場に出ているなんておかしいよ。
「真樹さん、あなたの本当の年齢はいくつなんですか? わたしとそう年齢が違わないのに、中学時代の麻薬事件を捜査していたなんてありえません」
「あら、やっぱり気がついたのね」
「それくらい気がつきますよ」
「そうね……。あなたなら話してあげてもいいわね。あたしは、敬と幼馴染みの三十二歳というのが、本当の年齢なんです」
「敬というと弁護士に扮していた警察官ね」
「そうです。とにかく順を追って手短に説明します。かつて最初の事件であるあなたの母親の覚醒事件としてあの売人を捜査していました。その捜査線上に磯部健児が上がり、綿密な調査の結果、逮捕状・強制捜査ができるまでになり、上司の生活安全局長に申請しようとしました。
 ところが、健児が暴力団に関係しており、この件は暴力団対策課の所轄だとされたのです。あたし達が調べ上げた捜査資料などは握り潰され、捜査実権は刑事局暴力団対策課に移されました。実はこの局長が、警察が押収した麻薬・覚醒剤を極秘理に、健児に横流ししていた張本人だったことが後々に判明しました。健児が逮捕されれば、横流しする相手を失い、いずれ自分に捜査の手が入ると思ったのでしょう。
 あたしと敬は、研修という名目でニューヨーク市警に飛ばされ、やっかい払いされたのです。しかしこれはあたし達を日本の外で抹殺する計画でもあったのです。市警本部長も計画に加担していました。あたし達は、組織に命を狙われ逃げ回らなければなりませんでした。あたしはその銃弾に倒れて動けなくなり、命を失い掛けました。
 そんなあたしを助けてくれた人がいました。アメリカに医学の研修に来ていた産婦人科医で、臓器移植をも手掛けている名医だったのです。あたしはマシンガンで射ち抜かれてずたずたに内臓を破壊されていたのですが、たまたま医師のところに日本人の脳死患者がいて、その内臓をすべて移植して、九死に一生を得ました。その患者は、二十歳の記念にたまたまアメリカ一周旅行に来ていて、事件に巻き込まれて脳死になったということでした。

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特務捜査官レディー(二十八)蘇生手術
2021.08.01

特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)


(二十八)蘇生手術

 五分後に黒沢産婦人科病院に到着する。
 さすがに赤信号を通過できる救急車である。
「あ、そこの道を入ってください。救急はそちらなんです」
 病院の手前の裏道に入るように指示する。
 表玄関ではなく、裏に回るのを首を傾げている救急隊員。
 説明している場合ではないので黙っておく。
「その地下通路に入って下さい」
 下りのスロープに入っていく救急車。
 裏玄関の前に、先生と看護婦達が待ち構えていた。
 早速、響子さんを担架から病院側が用意したキャリアに移す。
「第一オペルームへ運ぶんだ」
 救急隊員と共に第一オペルームへ響子さんを運び込む。
 第一オペルーム……。
 以前に見せてもらったことがある。
 そこはとんでもなく最新鋭設備の整った手術室だった。
 あらゆる状態の患者をも診ることのできるすべての器械が揃っている。
 炭酸ガスレーザーなどの各種のレーザー・電気メス。
 脳神経外科用に使用する、最小2ミクロンサイズの手術を可能にするナリシゲ製極微小油圧マニュピレーター(遠隔微動装置/特注)などは特筆ものであろう。
 第一というくらいだから、手術室は他にも四つある。もちろん闇の世界が関与している場所は、絶対閉鎖空間となっていて、先生と組織員しか入れないのは言うまでもない。
 救急隊員もこれほど充実した救急施設を見たことがないらしく、目を丸くしていたが、
「それでは責務ですので……」
 ともかくも救急出動に関する報告書に記載するべき事項の確認を取っていた。
 司法警察官として立会いの確認書に署名するわたし。
「それでは、私たちはこれで失礼させていただきます」
 きょろきょろと辺りを見回しながら帰っていった。
 よほど珍しかったのだろう。
「さてと……。真樹にも手伝ってもらおうか」
「はい。喜んで!」

 手術がはじまった。
 しかしあれからだいぶ時間が経っている。
 響子さんは全身蒼白、生きているかも怪しい状態であった。
「どうですか? 先生」
「大丈夫だ。まだ生きているぞ」
「え? ほんとうですか」
「見ろ、わずかだが脳波が出ているぞ」
「ほんとうだ。波が出てる。良かったあ……。死なれたら、磯部さんに申し訳がたちません」
 先生は、心臓が動いているかよりも、脳波の状態を重視していた。
 心臓は止まっても、人工心肺装置があるし、心臓移植や人工心臓埋め込みという手段で、延命を施すことができる。何せここは、闇の臓器売買の拠点病院なのだ。いくらでも臓器は手に入る。しかし、脳波が止まってしまえばどうしようもないからだ。
「まだ、安心するのは早い。波が出ているというだけじゃ。どうしようもならん」
「先生なら、きっと助けて頂けると思って、運んできたんですから。この、あたしだって生き返らせてくれたじゃないですか」
「真樹の場合は、たまたま運が良かっただけだよ」
「お願いしますよ。何でもしますから」
「じゃあ、今夜どうだ?」
「こんな時に、冗談はよしてください」
「判っているよ。そんなことしたら、真樹の旦那の敬に、風穴を開けられるよ。しかし……素っ裸で、飛び降りるとは……、おや?」
「どうなさったんですか?」
「この娘……。性転換手術してるじゃないか」
「あ、ああ。言い忘れていました。その通りです。さすが先生、良く判りましたね」
「わたしは、その道のプロだよ。人造形成術による膣と外陰部だな」
「わたしと、どっちが出来がいいですか?」
「もちろん真樹の方に決まっているだろう。第一、移植と人工形成じゃ、比べ物にならん」
「そうですよね。どうせなら、その娘も本物を移植してあげたらどうですか?」
「免疫の合う献体がでなきゃどうにもならんだろ」
「でも、何とかしてあげたいです。あたしと敬がもっと早くに『あいつ』を検挙していれば、母親がああならなかったし、この娘がこうなることもなかったんです」
「それは麻薬取締官としての自責の念かね」
「この娘には幸せになってもらいたいです」
「そうだな……。それはわたしも同感だ」
「せめて……」
「いかん! 心臓の鼓動が弱ってきた。少し喋り過ぎた。治療に専念するよ」
「あたしも手伝います」
「薬剤士の免許じゃ、本当は手伝わせるわけにはいかないんだが、ここは正規の病院じゃない。いいだろう、手伝ってくれ。麻酔係りなら何とかできるだろう」

「脈拍低下、血圧も低下しています」
「強心剤だ! G-ストロファンチン。酒石酸水素ノルエピネフリン注射」
「だめです。覚醒剤が体内に残っています。強心剤が効きません! 昇圧剤も効果なし」
「なんてことだ!」
「心臓停止寸前です。持ちません」
「胸部切開して、直接心臓マッサージするしかないが……」
「覚醒剤で麻酔は利かないですよ。ショック死します。とにかく、覚醒剤が効いている間は、一切の薬剤はだめなんですから」
「わかっている!」

「人工心肺装置に血液交換器を繋いで、血液交換する。とにかく体内から覚醒剤を早く抜くんだ」
「血液交換って……。彼女、bo因子の特殊な血液なんですよ。全血の交換となると、B型でもO型でも、そのどちらを使っても、抗原抗体反応が起きる可能性がありますよ」
「O型でいい。一か八かに掛ける!」
「先生。ほんとうに大丈夫ですか?」
「やるしかないだろう! ちきしょう。生き返ってくれ!」


 先生とわたしの懸命の治療の結果、響子さんは何とか一命を取り留めた。
 彼女のように、現在の人生に絶望して身を投げた者の命を救うのは、生きようという執念がないだけに、それを助けるのは甚だ困難を伴う。
 その点わたしの場合は、敬との約束を守るために、生きることに執念を抱き続けていたから、奇跡的に助かったのだ。
 幸いにも先生の蘇生技術は、ブラックジャック(手塚治虫作)も真っ青の腕前を持っている。
 何せ裏の世界における闇病院には、毎日のように遺体や植物人間、或いは抗争事件で負傷した暴力団幹部らが運び込まれて、臓器摘出やら人体実験と延命治療、そして救急治療が行われているのだ。いかなる人体実験や治療をやろうとも、それが失敗し死亡しても、誰もどこからも苦情や告訴請求などは一切発生しない。好き勝手に思う通りの手術ができるから、自然に技術もどんどん上達するというわけである。医学倫理に縛られた表の世界ではありえない、闇の世界だからこそできる医療技術だ。

 黒沢先生から、響子さんに移植できる臓器が見つかったと連絡があったのは、彼女の蘇生に成功して危機を脱した三日後のことだった。
 もちろん臓器とは、真の女性に生まれ変わらせるための女性器官のことである。
 子宮から膣、卵巣や卵管、そして外性器に至る女性として必要たるすべての臓器。
 かつてわたし自身が移植されたように、響子さんにその移植手術を執行するという連絡が入ったのである。
 急ぎ黒沢病院へ急行する。
「見つかったって本当ですか?」
「もちろんだ。完全に適合した、しかも良好の臓器だ」
 闇の病院には、臓器摘出を依頼する臓器密売組織からの遺体や植物状態の人間が運び込まれる。その摘出される臓器で移植希望のない、本来なら廃棄処分される女性器は、先生が自由に再利用しても良いことになっているらしい。その女性器を、先生の道楽? として、男性から女性に生まれ変わらせる性転換手術に利用しているわけである。
 響子さんは、MTFとしてSRS(性再判定手術)を施術していた。しかしそれはあくまで外見上の女性でしかなかった。男性との性行為は可能ではあるが、子孫を生み出すことのない生殖とは無関係のまがいものの性である。
 わたしは、かねてより響子さんに真の女性になってもらいたいと思っていたので、黒沢先生に女性器の移植手術を依頼していた。臓器移植がもたらした新しい人生については、先生から性転換手術を受けたわたし自身が一番良く知っている。はじめて生理がおとずれた時、本当の女性になったんだという感激は、言葉に尽くせないほどのものだった。
 そしてついに、響子さんに適合した臓器(女性器)が手に入ったという連絡。

「移植が成功したら、晴れて本物の女性としての新しい生活がはじまるのですね」
「成功したらって、私の腕を信用していないのか?」
「い、いえ……すみません」
 先生にだってプライドがある。
 100%成功させる自信がなければ、手術などしない。
 素直に頭を下げて謝る。
「まあ、いいさ。君の言うとおりに、新しい生活が待っているのは確かだ」
「でも、また組織に捕らえられるということはありませんか?」
 これまでに彼女を取り巻いてきた運命の性を考えるとき、心配せずにはおれない問題だった。
「大丈夫だと思う。今後は、私のところで責任を持って預かることにする」
「まさか……二号さんにして自分のとこで囲うとか?」
「おい!」
「うふふ。冗談ですよ。そう言えば、奥さんと若くして死に別れたと、おっしゃってましたけど、再婚なさらないのですか?」
「再婚か……。あまりに綺麗で、完璧に近い女性だったからな。その気にさせてくれる女性が現れないうちにこんな年になってしまったよ」
「何をおっしゃいますか。まだまだ十分子供だってお作りになれるお年じゃありませんか」
「この年になって子作りか?」
「まだ若いということですよ。七十歳で子供を作った男性の例もあるじゃないですか」
「ほう……。随分、子作りに固執しているが、まさか……。できたんじゃないだろうな?」
「え?」
 からかっているつもりでもなかったが、今度はこちらが逆襲されたって感じだ。
「ち、違いますよ。あの事件が解決するまでは、子供は作らないって……。な、何を言わせるんですかあ」
 つい……、口がすべってしまった。
 そうなのだ。
 磯部健児を逮捕するまでは、子供は作らない、結婚しないと、敬と誓い合っていたのである。
 だから……。
 いや、こんな話はよそう。
 わたしのことはこの際どうでもいい。
 問題は響子さんの方である。
 話題を変えてしまおう。
「手術は、いつ始められるのですか?」
「麻酔担当の医師が到着次第だ」
 蘇生手術にはわたしが立ち会ったが、あれは緊急性があったからだ。
 麻酔科医に連絡が取れなかったので、仕方なしにわたしが代理で担当したのだった。
 やがて麻酔科医が到着して手術がはじまった。

 磯部響子。
 彼女が生まれ変わる手術。
 これまでの哀しい運命から解き放ち、覚醒剤によって血にまみれた身体にメスを入れ、新しい命を吹き込む手術となるはずだ。
 人工的に造られた膣や外陰部を除去し、そこへ脳死状態の女性から摘出した子宮や膣などのすべての臓器を移植する。
 男性を受けて入れて妊娠し、出産そして授乳……。
 一人の女性として生きるために必要なすべてのものを与える手術。
 真の性転換手術だった。

 そして十八時間にも及ぶ長い手術の末に彼女は生まれ変わった。
 子供を産み育てることのできる真の女性として……。

 今度こそ、幸せな人生を歩めることを期待したい。
 心からそう祈るのであった。

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11
響子そして(二十七)安息日
2021.07.31

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します


(二十七)安息日

「もう、銃声が聞こえてびっくりしたわよ。部屋を出ようとしたら、扉の前にメイドさんに扮した女性警察官が二人立ちふさがっていて、出してくれなかったのよ」
 部屋に戻ると、里美が憤慨していた。
「しようがないわよ。わたしだって、これだもの」
 と包帯を巻かれた腕を見せた。
「痛くない?」
 里美は人差し指で、包帯を軽くちょんちょんと触っている。
「少し痛むけど、大丈夫よ」
「申し訳ありませんでした。里美さんには、命に関わる危険なところに行かせるわけにはいかなかったのです。もし眠れないとか不安とかありましたら申してください。精神安定剤とか睡眠薬を用意してあります」
 今夜の付き添いとなった女性警察官が言った。
「だったら。生理痛に効く薬ありませんか? ショックで始まったみたいで……」
「あら大変……ありますよ」
 と言いながらコップに水と一緒に薬をくれた。
「しかし、明日は調書がありますけど、大丈夫ですか?」
「ええ。たぶん大丈夫よ」
「明日の調書は、先程の巡査部長が伺うと思いますので、訳を話して手短かにしてもらえるようにしましょう」
「でも、今夜徹夜で容疑者の尋問するんじゃありません? 寝ずにですか?」
「巡査部長は事件となれば六十四時間くらい平気で起きていますよ。その後、二十四時間寝ちゃうんですけどね。寝だめができるそうです」
「変わってますね」
「そうなんですよ。彼女、あれでも恋人がちゃんといてね。他人が羨むくらい仲がいいの」
「へえ、恋人がいるんだ?」
「弁護士に扮してた警察官がいたでしょう?」
「いたいた」
「この捜査の現場責任者の巡査部長なんですけど、その人と密かに婚約しているみたい。彼、何でも銃器と麻薬捜査の研修として、ニューヨーク市警に出向してたらしいけど、逆に組織からマークされて命を狙われたみたい。それで生きるために狙撃される立場から狙撃する立場、特殊傭兵部隊に入隊したらしいの。それで傭兵の契約期間を終えて日本に帰ってきたらしい」
「すごい経歴なんですね」
「そうなのよ。だから彼の狙撃の腕はプロフェッショナルだそうよ。一キロ先からでも朝飯前という噂があるわ」
「そんな彼と、真樹さんがどうして恋人同士になれたの?」
「何でも彼女が二十歳の記念に、アメリカ一周旅行している時に知り合ったとかいう話しよ。それ以上のことは話してくれないの。ま、誰にも秘密はあるだろうから聞かないけど」
「じゃあ、真樹さんの銃の腕前も彼に教わったからかな」
「たぶんそうだと思いますよ」

「そんなスナイパーの彼と、純真可憐な真樹さんが恋人同士と、署内で変な噂されてませんか? 署内で変な目で見られたり、風紀が乱れるとか問題になったりしない?」
「とんでもないわ。彼女の正式な身分は、国家公務員の司法警察員の麻薬Gメンじゃない。地方公務員の警察官がとやかく言えるような雰囲気じゃないのよね。それでいてまだ二十三歳の若さでしょう? 憧れの的にはなっても、誹謗中傷されるような存在じゃないのよね。わたし達女性警察官全員で彼女を見守ってあげてる。それに彼の方も、みんな避けているし、なんせ一撃必中の腕前なんだから、怒らせたら大変。一キロ先からでも眉間にズドンだからね。証拠を残さずに抹殺されちゃうよ」
「ふーん……」
「あ、ごめんなさい。つい長話しちゃった……。そろそろ、お休みになって下さい。わたしは隣の部屋にいますから、何かありましたらいつでも申し付けてください」
 この部屋には常駐するルームメイド用の控え室があってベッドもある。女性警官はそこに泊まることになっている。

 翌朝。
 小鳥のさえずりと共に目が覚めた。
 部屋の外のバルコニーに来訪する野鳥達だ。子供の頃と変わらぬいつもの朝の風景。
「おはようございます。お嬢さま」
「ん……。おはよう」
 あれ? 女性警察官じゃない……。
 昨日とは違うメイドが三名。わたしが目を覚ましたのを期に、仕事をはじめた。
 どうやら、今朝から本来のメイド達に戻ったようだ。各個室にはルームメイド二名と個人専属のメイド合わせて三名が必ずいることになっている。カーテンを開け放つ者、花瓶の花の手入れをはじめる者、そしてわたし付きのメイドはベッドサイドに立って指示を待っている。やはり見知った顔はいない。八年も経てば入れ代わって当然だろう。
「今、何時かしら」
「七時半でございます」
「そう……朝食は?」
「八時半からでございます。旦那さまがご一緒に食堂でとご希望でございます」
「一緒でいいわ。シャワー使えるかしら」
「はい。しばらくお待ち下さい。今、ご用意します」
 メイドはバスルームへ入って行った。何するでもない、蛇口を開いてお湯が出るのを待つだけだ。ボイラー室から、ここまではかなりの距離の配管を通ってくるから、蛇口を捻っても最初に出るのは水、すぐにはお湯が出ないのだ。冬場なら暖房用に常時配管をお湯が流れているから、すぐに出るのだが。なお、メイド用の控え室やバスルームがあるのは、ここと祖父の居室、及びそれぞれに隣接する貴賓室の四部屋だけである。後は共用のバスを利用することになっている。
 里美はまだ眠っている。
 ベッドと枕が変わっているから、なかなか寝付けなかったようだ。もう少し寝かせておいてあげよう。
「お嬢さま、シャワーが使えます。どうぞ」
 ネグリジェを脱いで、メイドに渡してバスルームに入る。
 熱いシャワーを浴びる。うーん……朝の目覚めにはこれに限るね。
 頭もすっきりして外へ出ると、すかさずメイド達が身体を拭ってくれた。バスローブに着替えてベッドを見ると、里美が惚けた表情で起き上がっていた。里美は目覚めが悪いので、起きてもしばらくはボーッとしていることが多いのだ。メイドが動きまわり窓を開けて風が入ってきたりして、目が覚めてしまったようだ。
「ほれ、ほれ、里美。あなたたもシャワーを浴びなさい。すっきりするわよ」
「ふえい……」
 はーい、と答えたつもりの間の抜けた声を出す、里美の背中を押すようにして、バスルームに放り込む。
「あー。すっきりした。お姉さん、おはよう。食事はまだ?」
 出てくるなり、早速食事の催促だ。実に変わり身が早い。
 あのね……。
「おはよう、里美。食堂で八時半からよ」
「今何時だっけ?」
「八時と少々です」
「よっしゃー。行こう、今いこ、すぐいこ」
「バスローブのままで行く気? ここはわたし達のマンションじゃないのよ」
「あ、いけなーい。着るものは?」
「お母さんが着てたのがあるから、それ着なさい。わたしが着れるんだから、里美も着れるでしょ。ベッド横のクローゼットに入っているから、どれでも好きなの着ていいわ」
「はーい」
 そう言うとクローゼットを開けて、早速衣装選びをはじめた。
 わたしと里美は、サイズが同じなので、良く服を交換しあっていた。というよりも最初の頃、里美は衣装を全然持っていなかったので、わたしの服を借りて着ていたというのが正しい。その後里美自身の衣装が増えていっても、わたしが買った衣装をしょっちゅう借りていた。
「ほんとにどれ着てもいいの? 高そうな服ばかりじゃない」
「気にしないで、服はしまっておくものじゃなくて、着るものなんだから」
「んじゃ、遠慮なく」

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