銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第七章 宇宙へ Ⅱ
2020.04.05


 機動戦艦ミネルバ/第七章 宇宙へ


II


 総督軍中央情報局。
「トランターに接近する艦隊があります」
「なに?どこの艦隊だ」
「総督軍ではありません。おそらく反乱軍かと思われます」
「接近艦隊の数、およそ七万隻。現在L5ラグランジュ点を通過中です」
「一個艦隊か。ワープゲートなしでここまで来るには、補給艦を連れてきているな。実質
戦艦五万隻というところだな」
「いかが致しますか?」
「無論迎撃に出る。留守を預かっている者として、猫の子一匹通したとあっちゃ責任問題
になる」
「猫……ですか」
「たとえだよ。行くぞ」
 と、防衛艦隊帰艦バトラスの駐留している宇宙港へと向かう司令官だった。
「トランターが空になりますが、よろしいのですか?」
「近づいているのは、ランドールの所の艦隊である可能性大だ。だとしたら、敵艦隊の数
倍以上の数で対処しなければ勝てない。これまでの経験からな」
「なるほど……」
「迎撃は、持てる兵力のすべてを出して当たるのがセオリーだ」
 首都星の防衛の役目を担っていた駐留艦隊が、接近する艦隊への迎撃のために、トラン
ターを出航した。

 その頃、リンゼー少佐の元へ、ミネルバが宇宙に上がったとの情報が寄せられた。
「ミネルバが宇宙へ飛んだだと?大気圏専用の空中戦艦じゃなかったのか……」
「詳しい仕様は、技術部でも解読できなかったということでしょう」
「共和国同盟の艦艇だろ、そこの技術部の誰も知らなかったのか?」
「はあ、何せミネルバ級はケースン研究所のとある人物が、艦体も運用システムもたった
一人で設計したらしいので、詳細仕様は彼の頭の中ということです」
「とある人物ってなんだよ」
「極秘情報で、名前も顔も誰も知らないそうです。誘拐や暗殺のターゲットにされないよ
うにでしょうね」
「とにかくだ!我々も宇宙へ上がるぞ!」
「宇宙ステーションに上がる連絡艇しかありませんが」
「ったく、主力の艦隊は銀河帝国遠征に出撃しているし、防御艦隊は敵艦隊接近の報を受
けて、迎撃にでている。首都防衛はガラ空じゃないか。そんな時に、ミネルバが宇宙に上
がるとは」
「何か関連がありそうですね」
「大有りだろうよ。もしかしたら陽動に掛かったのかもな」
「陽動ですか、ミネルバが?」
「いや、接近しているという敵艦隊の方だよ」
「敵艦隊が陽動?」

「運よく補修に出ていた戦艦プルートが残っていました」
「よし、艦長に会おう」
 早速乗艦許可を貰ってプルートの艦橋に上がって艦長と面会するリンゼー少佐。
「艦長のマーカス・ハルバート少佐です」
「ミネルバ討伐隊のゼナフィス・リンゼー少佐です」
「で、ご用命はいかに?」
「追っているミネルバが、この宇宙へ出てきました。そこで貴官の戦艦をお借りたい」
「パルチザンの旗艦であるミネルバを討つのは総督軍の使命。となれば従うしかないです
ね。よろしい、このプルートをお貸ししましょう」
「ありがたい」
 快く戦艦の指揮を譲ったハルバート少佐は、
「ミネルバを追いましょう」
 と言った後、
「艦長をリンゼー少佐に交代する」
 艦橋要員に伝達した。
 艦長席に座るリンゼー少佐、その両脇に立つ正副艦長。リンゼーの副官は、さらに後方
の位置に控えて立っていた。
「これよりミネルバの後を追う。機関始動、微速前進」
「機関始動」
「微速前進」
 ゆっくりと宇宙ステーションを出てゆくプルート。
「L4ラグランジュのワープゲートへ向かえ」
「進路ワープゲート」
 副官が復唱する。
「なぜワープゲートですか?」
 ハルバート少佐が尋ねる。
「ミネルバの航行システムは、磁力線に浮かぶように進む船のようなものです。つまり航
行できるのは、磁力密度の高い大気圏内と惑星周辺のみで、外宇宙には出られないのです。
惑星周辺で重要施設となれば……」
「ワープゲートということですね」
「現在、反乱軍接近との情報から防衛艦隊は迎撃に出て、ワープゲートは無防備です」
「急ぎましょう。全速前進でワープゲートへ向かえ!」
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第六章 皇室議会 V
2020.04.04

第六章 皇室議会




 正面パネルスクリーンには、勇壮と進軍する統合軍艦隊が映し出されていた。
「しばし後を頼む」
 席を立つアレックス。
「どちらへ?」
「ティータイムだ」
 統合軍の進撃が順調に進んでいるのを見届けて、ちょっと休憩したくなったのであろう。
 第一艦橋を出てすぐの所に、自動販売機コーナーがある。
 立ち寄って販売機にIDカードを挿しいれてドリンクを購入するアレックス。
 湯気の立ち上がるカップを取り出して、そばのベンチに座って口にする。
「うん。自動販売機にしては、結構いける味だな」
 一服している間にも、艦橋要員のオペレーターが立ち寄っていくが、アレックスが任務
中なのを知っているので、軽く挨拶をするだけで話しかける者はいない。


 ドリンクを飲み終わり、やおら立ち上がって艦橋とは反対方向へと歩きはじめる。
 向かった先は、通信統制室の一角にある通信ルーム。
 その中の一室に入り、端末の前に着座して、機器を操作している。
「特秘通信回線を開いてくれ」
 端末に向かって話すと、
『IDカードヲ、ソウニュウシテクダサイ』
 と喋り、言われたとおりにIDカードを差し入れると、
『モウマクパターンヲ、ショウゴウシマス』
 レーザー光線が目に当てられて、網膜パターンのスキャンが行われた。
『アレックス・ランドールテイトクト、カクニンシマシタ。トクヒカイセンヲ、ヒラキマ
ス』
 と同時に背後の扉が自動的に閉じられ鍵が掛けられた。
 アレックスは通信相手の暗号コードを入力して短い電文を送信した。

 静かな湖から白鳥は飛び立つ

 たったそれだけであった。
 何かを指示する暗号文なのであろうが、これだけでは知らない人間には通じない。
 おそらく受け取った誰かだけが、その真意を理解することができるのであろう。
 ややあってから、
『ジュシンヲ、カクニンシマシタ。リョウカイシタ』
 という通信が二度返ってきた。
 暗号文が二箇所の相手に伝えられ確認されたことを意味していた。
 通信端末の回線を切るアレックス。
 回線を切ると自動的に扉が開く。
「よし。これでいい」
 立ち上がり、通信ルームを退室する。


 艦橋に戻ると一騒動が起きていた。
 整然と並んでいた艦隊が乱れていた。
「どうしたんだ?」
「はい。地方の委任統治領の領主が参戦したいと割り込んできたのです」
「委任統治領?」
「いわゆる周辺地域をパトロールしていた警備艦隊を引き連れてきました」
「警備艦隊ねえ……」
 警備艦隊は、各地で起こった暴動や反乱などを鎮圧するのが主な任務である。
 つまり艦隊戦の経験がまったくないということである。
 これからやろうというのは、総督軍との艦隊決戦である。
 艦隊戦闘の経験のない艦隊など役に立つどころか足手まといになるだけである。
「ここで名を売っておこうという腹積もりなのではないかと」
「おそらくな」
「どうしますか、追い返します?」
「そう無碍にもできないだろう。何か役に立つこともあるだろうさ」
「索敵にでも出しますか?」
「いや。索敵を甘く考えてはだめだ。勝利の行方を左右する重大な任務に素人を投入する
のは危険だ」
「では、後方支援部隊に協力させて、解放した惑星の戦後処理にでも当たらせますか?」
「そうだな……」
 厄介なことになったが、相手は委任統治領の領主であり、土地持ちの上級貴族である。
 今後の銀河帝国における政策にも関わる問題であり、彼らを抜きにしては将来は保証で
きない。
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銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第七章 宇宙へ I
2020.03.29

 機動戦艦ミネルバ/第七章 宇宙へ




 その後も、きびしい任務をこなしていたメビウス部隊のレイチェルの元に、ランドール
提督からの反攻作戦開始の連絡が入った。

『L4ラグランジュ点にある、ワープゲートを48時間以内に奪取せよ』

 という指令だった。
「これはまた難問を押し付けてきましたね」
 副官が驚きの声を上げる。
「反攻作戦にワープゲートが必要不可欠です」
「つまりシィニング基地にあるワープゲートを利用して、アル・サフリエニから一気に艦
隊を送り込めるというわけですね」
「その通りです」
「しかし、作戦遂行には宇宙に飛べる戦艦が必要ですが」
 メビウス部隊は、パルチザンとして内地で反乱を起こすのが主目的なので、宇宙戦艦は
なかった。
「あるわよ」
 耳を疑う副官だった。
「どこにあるんですか?」
「ほれ、そこにあるじゃないの」
 とレイチェルが指差したのは、サーフェイスとの戦闘で傷ついた艦を修理に戻って来て
いたミネルバだった。
「ミネルバ……?あれは大気圏専用の空中戦艦ではなかったのですか?」
「誰がそう言ったのですか?」
「ええ、いや……」
 うろたえる副官。
「一つ講義しましょうか」
「講義……ですか?」
「そもそもミネルバは、超伝導磁気浮上航行システムによって惑星磁気圏内を飛翔するこ
とのできる戦艦です」
「そう聞いております」
「さて磁気圏とは、どこからどこまでを言いますか?」
「磁気圏ですか……。ああそうか、判りました。磁気は大気圏内だけでなく、宇宙空間ま
で広がっており、磁束密度を無視すれば永遠の彼方まで続いています。重力と同じです
ね」
「よくできました。L4ラグランジュ点までは、十分な磁力密度があるということです」
「問題があるとしたら、真空に近い宇宙空間ということですが、水中に潜航できるくらい
ですから真空に対する気密性や耐圧性も高そうですね」
 管制室の窓から覗ける、ミネルバの整備状況を見つめながら、ランドール提督からの指
令をフランソワに伝える。

 ミネルバの艦橋にいるフランソワの元に、ランドール提督からの指令がレイチェル経由
して届いていた。
「というわけで、宇宙そらへ上がります」
 とフランソワが下令すると、
「やったあ!」
 オペレーター達が、小躍りして喜んだ。
 宇宙へ上がれば、憧れのランドール提督に会えるという期待感。
 新しい戦場への転進は、惑星上での戦いと違って、艦が撃沈されれば即死が待っている
という厳しい環境ではあるが、彼らの本来の主戦場は宇宙であったはずだ。
 士官学校を卒業して、志願してランドール艦隊へ配属されるのを希望したのだから。
 それが何の行きがかりか、パルチザン組織であるメビウス部隊配属となってしまった。
「修理、完了しました。いつでも出航できます」
 恒久班からの報告を受けて、
「ミネルバは、これよりワープゲート奪取作戦の任務を遂行する。全艦出航準備に入れ」
 フランソワが出撃命令を出す。
「全艦出航準備」
「ウィンザー大佐より連絡」
「繋いでください」
 正面スクリーンにレイチェルの姿が映し出された。
「今回の任務は、反攻作戦の天王山です。心して掛かるように」
「判っております。全精力を注いで任務遂行します。では、行って参ります」
 と返答して、ビシッと踵を合わせて敬礼する。
「気をつけて行ってらっしゃい」
 レイチェルも敬礼を返して見送る。
「出航準備、完了しました」
「よろしい、潜航開始」
「潜航開始!」
「メインタンク注水」
 基地内部の外界に通ずるプールに浮かぶミネルバが、ゆっくりと沈んでゆく。
「ハイドロジェット機関始動、微速前進!」
「ハイドロジェット機関始動!」
「微速前進!ようそろ」
 進入通路を潜航して進むミネルバの前方に壁が立ちはだかる。
「基地外壁ゲートをオープンせよ」
「外壁ゲートオープン」
 開いたゲートから、ミネルバが勇壮と出てくる。
「二十分このまま潜航を続ける」
 基地を出てすぐに海上に出れば、基地の位置を特定される危険を避けるために、しばら
く潜航を続けて基地から離れるようだ。
「二十分経過しました」
「浮上してください」
「浮上!」
「メインタンクブロー」
 やがて海上に姿を現すミネルバ。
「周囲に総督軍の艦艇は見当たりません」
 ベンソン副長が報告する。
「それでは、行きましょうか、宇宙そらへ」
「行きましょう!」
 ベンソン中尉も大乗り気であった。
「浮上システム始動!」
 やがて上空へ、さらに上空へと上昇するミネルバ。
「成層圏を通過します」
「各ブロックの耐圧扉を閉鎖」
 惑星大気圏と宇宙空間との境は明確にはないが、だいたい成層圏をもって境とするのが
一般的である。
「ハイドロイオンエンジン始動!」
 水中ではハイドロジェットとして活躍したエンジンであるが、宇宙空間ではイオンエン
ジンとしての両用可能となっている。
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