特務捜査官レディー(二十五)取り調べ
2021.07.29
特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)
(二十五)取調べ
お盆に乗せて注文の品を運ぶ役の女性警察官。
「巡査部長。ほんとうに構わないのですね?」
と確認する相手は沢渡敬。
「ああ、責任は俺が取るから、言うとおりにやってくれればいいんだ」
「わかりました。ちゃんと責任取ってくださいよ」
取調室に入っていく。
「あ、きたきた。待ってたわよ」
入ってきた女性警察官は、注文の品をわたしの前に置きながら、予定通りに盗聴器をテーブルの端の下側に貼り付けたようだった。
もちろん局長に見つからないようにしているが、わたしも局長の視線が自分に向けられるようにオーバーなジェスチャーを入れながら話しかける。
「ここのクレープって本当においしいのよね。女子学生の頃、通学の途中にあるから良く買い食いしたものだったわ」
「通学の途中? というと薬科大学か?」
「あったり!」
「そうか……」
考えている風の局長だった。
そりゃそうだろう。
薬科大学と麻薬課は切っても切れない関係にあるからだ。
薬科大学卒業者の一部は警察署の鑑識課に就職している。
局長と大学教授、そして鑑識課職員の間には黒い噂が立っている。大学教授が言いなりになる自分の弟子を鑑識課に推薦して、局長がそれを採用している。
横流しの秘密ルートがそこに介在していても不思議ではないだろう。いずれも多種多様の薬剤が出入りするそこに、麻薬覚醒剤が不正取引されても発覚する確率は極端に低くなる。
わたしはここぞとばかりに追及に入る。
「ところで押収した薬物はどうやって横流ししていますの?」
「何を言っているか」
「あらあ、わたしの組織では知れ渡っているのよ。押収し鑑識が済んだ薬物は封印されて一時保管された後に、厚生労働大臣の承認を受けて焼却処分され下水に流される。もちろんその際には県や都職員の麻薬司法警察員や麻薬取締官が立会う。でもすでにその時点ではすり替えられているという。本物は巧妙に持ち出されて運び屋に渡されるという仕組み」
「貴様……。なんでそんなことまで知っている? 何ものだ?」
「事実だと認めるわけね」
「そんなこと……。貴様の想像だろう」
「あら、残念。認めたくないと……。でも、素直に認めたほうがいいわよ」
「勝手にしろ」
「まあ、いいわ。さて……わたしが持っていた覚醒剤は、今頃どうなっているかしらね。本来なら鑑識が鑑定・封印して保管庫に入っているはずだけど。もうすり替えはすんだのかしら」
「何が言いたいのだ?」
「この警察内部における押収麻薬の取り扱いに関しては、すべてあなたが手なずけた直属の麻薬課の職員が担当していて、密かに横流しを行っていたから外部に漏れることはなかった。でもねそんな不正は、いつかは発覚するものよ。今日がその日なの」
「きさま! 何か企んだな」
「そうね。局長さんはいつも、すり替えたことが発覚しないように、証拠隠滅のために急いで焼却処分にかけていたものね。たぶん今日当たりがその日だと思う。今頃別の警察官が取り押さえに向かっているはずよ」
「馬鹿な。そんなこと……できるはずがない。私の命令なしに動くことなどできない」
「あら、わたしは『別の警察官』と言ったのよ。警察官は何もあなたのところだけじゃない」
「どういう意味だ」
「そう。別の……司法警察官よ」
「ま、まさか……麻薬取締官か?」
「あたりよ。今頃、取り押さえられているでしょうね。麻薬覚醒剤の密売に関する刑罰は、ものすごく重い。麻薬覚醒剤取引に関かれば、非営利でも十年以下の懲役。営利目的で一年以上の有期懲役と情状酌量で500万円以下の罰金。あなたの部下も刑を軽減することを条件に出せば、すべて告白してくれると思うわ」
「企んだな! そ、そうか……。沢渡だな。おまえ、沢渡の仲間か?」
その時だ。
「その通りだ!」
バン!
と、勢いよく扉が開け放たれて敬と、同僚の麻薬取締官達が入ってくる。
「沢渡! それにそいつらは?」
「麻薬取締官さ。局長、年貢の納め時だよ。貴様がすり替えを命じていた警察官は、俺がとっ捕まえて吐かせてやったよ。ほらこのテープレコーダーにその時の証言が記録してあるぜ」
と、マイクロテープレコーダーを見せた。無論、確実な証拠記録とするために、ICメモリーレコーダーは使わない。
「それから……」
と、敬はテーブルに近づいてきて、盗聴器を取り出して見せた。
「盗聴器だよ。真樹との会話もすべて記録してある。いろいろと喋ってくれたから、証拠としても十分に役立つことだろう」
同僚が近づいてきて、
「ほら、手帳だ。ここは、君が仕切るべきだろう」
と、麻薬司法警察手帳(麻薬取締官証)を手渡してくれた。
「ありがとう」
それを開いて局長に見せ付ける。
「司法警察員麻薬取締官です。局長、あなたを覚醒剤取締法違反の容疑で逮捕します」
「こ、こんなことになるなんて……」
がっくりとうなだれる局長。
将来を約束されたキャリア組から、重犯罪者のレッテルを貼られる身分への転落。
さぞかし無念だろうね。
しかしそれも自らが招いたこと。
わたしは、手錠を掛けて連行する。
「それじゃあ、敬。こっちの方はお願いね」
「ああ、まかせとけ」
こうして、わたしと敬をニューヨークへ飛ばして抹殺しようと企んだ、生活安全局局長は逮捕された。
わたしと敬は、次なる検挙すべき相手に、磯部健児を一番に据えたのだった。
そう、甥である磯部ひろし、こと磯部響子を覚醒剤の罠に嵌めた張本人である。
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響子そして(二十四)特務捜査官ケイ&マキ
2021.07.28
響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します
(二十四)特務捜査官ケイ&マキ
「馬鹿な! なんで俺だけが五百万円なんだよ」
「おまえは、弘子の遺産を譲り受けているじゃないか。それを相殺したんだ」
「弘子の遺産だと? そんなもん知らん」
「ならば、もう一つの調書を見てもらおうか」
弁護士が再び書類を配りはじめる。
「儂が弘子に分け与えた土地と家屋に関する譲渡金の流れだ。あの土地と家屋は暴力
団が運営する不動産会社が、弘子から買い上げたことになっている。覚醒剤によって
精神虚脱状態になった弘子から実印と印鑑登録証を取り上げ、架空の売買契約を成立
させたことは明白な事実だ。その売買代金はべつの不動産会社、これも同じ暴力団経
営のその口座に振り込まれた。まあ、暴力団の資金源となったわけだ。さて、その土
地と家屋は、ある人物の経営する会社に譲渡され、短期譲渡に関する法律に触れない
ようにして一定期間後に転売された。その購入代金は、暴力団の不動産会社の取得し
た金額の60%だった。これを通常価格て転売している」
ここで一息ついてから、
「響子、今話した金の流れの意味が判るか?」
と尋ねてきた。
「えーと……。つまり早い話し、お母さんの資産を、暴力団とある人物とで、六四で
分け合ったということになるのかしら……」
「響子はかしこいな。その通りだよ」
「他にも宝石・貴金属類、銀行預金・有価証券なども巧妙に分配されている。すべて
は、ある人物によって仕掛けられた巧妙な計画だったんだ。離婚訴訟の最中にあって、
覚醒剤の売人がどうして弘子に近づけたのか? 離婚がほぼ決定的になって、その後
の後釜になろうといろんな男達が近づいて来たし、人間不信から懐疑的になっていた
弘子は、ほとんど人に会う事を避けていた。弘子に近づけるのは数が限られていた。
なのになぜ赤の他人である売人が容易に近づけたか、不審に思った儂は、密かに調査
していた。売人はある人物が紹介したことが判ったよ。弘子を覚醒剤漬けにして財産
を横取りしようと企んだんだ」
「ひどいわ!」
「しかもうまい具合に、息子が弘子を殺して少年刑務所入り、相続欠格者となって、
法定相続人から脱落した」
「響子、弘子の遺産は本来誰が相続するかな?」
「おじいちゃんだよ。元に戻るわけだね」
「じゃあ、儂の死後に儂の遺産はどこへ行くかな?」
「えーと。おじいちゃんの直系はわたしだけだったから、おじいちゃんの兄弟姉妹と、
その子供達ね」
「そうだ。ある人物の最初の計画では、弘子の次にはおまえをも籠絡する計画だった
んだよ」
「う、うそお!」
「おまえはまだ子供だったからね。やろうと思えばいくらでもできるよ。何せ暴力団
とつるんでいるのだから。しかし相続欠格となったことで計画は中止された。財産を
独り占めしようと相続人全員を処分するのはまず無理だし、黙っていても儂の財産の
五分の一が転がり込んでくるしようになったからな。それだけあれば十分だと思った
のだろう。ともかく弘子の遺産があったわけだが、暴力団と手を組んで、不動産譲渡
を繰り返して巧妙に分け合ったわけだよ」
「おじいちゃんは、そのある人物が誰か知っているのね」
「ああ、今この部屋の中にいるよ。そいつの相続額は弘子の財産分を差し引いておい
た」
「ええ? じゃあ」
一体、誰?
親族達が顔を見合わせている。
ただ一人、身体を震わせている人物がいる。
四弟の健児だ。
遺産分与で健児だけが差別されている。
つまり……。だれもが気づいたようだ。
「どうした健児、寒いのか? それとも脅えているのか」
「くそっ!」
健児が鞄を開いて何かを取り出した。それが何かすぐに判った。
拳銃だ。銃口は祖父を狙っている。
「おじいちゃん、危ない!」
わたしはとっさに祖父の前に立ちふさがった。
「響子! どけ!」
祖父がわたしを押しのけようとするが、わたしは動かなかった。
パン、パン、ズキューン。
数発の銃声が鳴り響いた。
バーンと扉が開け放たれて制服警官がなだれ込んできた。どこかに隠れ潜んでいた
ようだ。
腕に激しい痛みがあった。どうやら弾があたったらしい。いや、運良くかすっただ
けだった。
床に倒れたのは健児だった。
腕を射ち抜かれてもがいていた。すぐそばに弾を発射した拳銃が転がっている。
ふと見ると弁護士の隣の立会人が拳銃を構えていた。その銃口から硝煙が昇ってい
る。
さらにはわたし付きの真樹さんも拳銃を構えていた。あれは欧米の女性が護身用に
よく携帯しているレミントンダブルデリンジャー41口径。ガーターストッキングに
でも挟んで隠してたのかな。立会人の方は、ダーティーハリーで有名なS&WM29
44口径ね。ついでに言うと健児のは、イスラエルIMI製造のデザートイーグル
50AE(通称ハンドキャノン)。50AE.弾を装填できるオート拳銃。女子供が撃てば
反動で肩の骨が外れちゃうという驚異的な威力を持っている。そんなもんどこから手
に入れたんだよ。あれがまともに当たってたら即死だよ。こんなこと知っているのは、
暴力団組長の明人の情婦だったおかげ。銃器カタログが置いてあって、暇な時に読ん
でたらみんな覚えちゃった。もちろん現物を触る機会もあった。護身用にってデリン
ジャー渡されたけど、持ち歩かなった。
「医者だ! 医者を呼べ!」
祖父が叫んでいる。
拳銃を構えていた立会人が、用心しながら健児に近づいて行く。
健児が身動きできないように確保して、拳銃を納め、代わりに手帳を取り出して、
「警察だ! 覚醒剤取締法違反容疑、ならびに銃砲刀剣類所持等取締法違反と傷害及
び殺人未遂の現行犯で逮捕する」
と手錠を掛けた。
健児を引っ立てて行く立会人を務めていた警察官。
通りすがりに真樹さんに話し掛けている。
「俺は、こいつを連れて行く。マキは後処理を頼む」
「わかったわ、ケイ。しかし、こいつ馬鹿じゃないの。日本人の体格で50口径の拳
銃が扱えると思ったのかしら。その銃の重さや反動でまともに標的に当てられないの
に」
「ああ、しかもデザートイーグルは頻繁にジャミング起こすんだよな。50AEは判
らんが俺の所にある44Magは、リコイル・スプリングリングやらファイヤリングピ
ン、エキストラクターやらがすぐ破損する。とにかくコレクションマニアは、何考え
ているかわからん。とにかく破壊力のあるガンが欲しかったんだろ。こいつの家にガ
サ入れに向かっている班が、今頃大量の武器弾薬を押収している頃だろう」
ふうん……。立会人がケイで、メイドがマキか。二人とも刑事か。名前にしては変
だし、コードネームかなんかかな……。
「響子、大丈夫か?」
「射たれちゃったけど、かすり傷みたい」
「すまなかった。こんな目にあわせたくなかったのだが、健児の化けの皮を剥ぐ良い
機会だった。奴を放っておけば、またおまえに手出しすると思ったのだ。だから、警
察と連絡を取合って、罠をかけたのだ。健児は無類の拳銃好きでね。それが高じて暴
力団とも関係するようになった」
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11
特務捜査官レディー(二十四)取り引き
2021.07.28
特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)
(二十四)取り引き
わたしは局長室に直通のダイヤル番号に電話を掛ける。
「生活安全局局長室です」
懐かしい声だった。
まさか本人が直接出るとは思わなかった。普通は秘書が出て取り次ぐものだが、おそらく所用で部屋を出ているのであろう。
「局長さんですか?」
「その通りです」
早速本題に入ることにする。
「実は覚醒剤を手に入れたんですけど、局長さんが仲買い人を紹介してくれるという噂を耳にしまして」
「どういうことだ?」
局長の声色が変わった。
「隠してもだめですよ。警察が押収した麻薬を横流ししてること知ってるんですよ」
「それをどこで聞いた?」
「以前あなたのお友達に女装趣味の人がいたでしょう? その人から聞いたのよ」
「まさか……」
「うふふ。逆探知してもだめですよ。あなたの地位が危なくなるだけです。で、どうしますか?」
「どうするとは?」
「覚醒剤ですよ。とぼけないでくださいね。取り引きしませんか?」
しばらく無言状態が続いた。
対策を考えているのだろう。
「い、いいだろう。取り引きしよう。どれくらいの量を持っているのだ」
「そうですねえ……5700グラム。末端価格で4億円くらいになるでしょうか」
覚醒剤の相場は、密売グループが大量検挙されたなどの市場情勢によって変動するが、平成24年以降1グラム7万円前後を推移している。ちなみに密売元の暴力団の仕入れ価格は1グラム8~9千円程度だというから、上手く捌ければぼろ儲けということだ。
「ほう……たいした量だな」
「もちろん、混じりけなしの本物ですよ」
「どうすればいいのだ。取り引きの場所は?」
「そうですねえ……。お台場にある船の科学館「羊蹄丸」のマジカルビジョンシア
ターにしましょう」
「船の科学館羊蹄丸のマジカルビジョンシアターだな。日時と目印は?」
「日時は……」
取り引きに関する諸用件を伝える。
「わかった。必ず行く」
というわけで、局長を丸め込むことに成功して、電話を切る。
「やったな。後は奴が本当に乗ってくるかどうかだな」
そばで聞き耳を立てていた敬が、ガッツポーズで言った。
「乗ってくるわよ。何せ覚醒剤横流しの件を知っている人物を放っておけるわけないじゃない」
「そうだな」
「というわけで、課長」
「判っている。覚醒剤のほうは手配しよう。しかし5700グラムとは、ちょっと多すぎやしないか?」
「だめですよ。撒き餌はたっぷり撒かなくちゃ釣りはできませんよ。それくらいじゃないと、局長本人が出てこない可能性がありますからね」
「判った。何とかしよう」
「お願いします」
というわけでおとり捜査の決行日となった。
船の科学館羊蹄丸のマジカルビジョンシアター。
目印のピンクのツーピーススーツ姿にて、前列から7列目の一番右側の席に腰掛けて、合言葉を掛けてくる相手を待つ。
運び屋が来るか、本人が直接来る。
それとも……。
ふと周囲に異様な雰囲気を感じた。
息をひそめこちらを伺っている気配。
それも一人や二人ではない。
逃げられないように出入り口を確保しているようだ。
やはり、そういう手でくるのね……。
一人の男が近づいてきた。
本人は気配を隠しているつもりだろうが、明らかに刑事の持つ独特の雰囲気を身体に現していた。
「お嬢さん、お船はお好きですか?」
合言葉であった。
「ええ、世界中の海を回りたいですね」
合言葉で答える。
すると右手を高々と挙げて、周りの者に合図を送った。
ざわざわと集まってきたのは刑事であろう。
「そこを動くな!」
拳銃を構えた男達に囲まれていた。
明らかに刑事だった。
制服警官の姿もあった。
まわりを取り囲まれていた。
「やはりね……」
端から取引をするつもりはないのだろう。
麻薬密売取り引きの現行犯で逮捕しようというのだ。
わたしを逮捕し、取り調べながら入手ルートを聞き出して、直接相手と交渉するつもりだったのだ。
それでなくても、奴には警察が押収する薬物を横流しする手段もあるから、
「持ち物を調べさせてもらう」
一人がわたしの脇においてあった鞄を開けて、中を調べ始めていた。
いくつかの透明の袋に入れられた白い粉末。
もちろん本物の覚醒剤である。
警察官はその一つを開けて、検査薬キット(シモン試薬及びマルキス試薬と試験管のセット)で調べ始めた。
それは、試薬と覚醒剤を混ぜると反応して変色するというものである。学校の化学の授業で、アンモニアとフェノールフタレイン溶液を混ぜて、アルカリ性を確認したことがあるだろうが、それと同じ論理である。
以前はシモン試薬のみで行われていたが、抗うつ剤や脱法ドラッグにも反応するということで、現在は複数の試薬で行って確実性を高めるようになっている。
試薬を入れた試験管の色が陽性を示していた。
それを声を掛けてきた男に見せていた。
「君を覚醒剤密売の容疑で逮捕する」
パトカーで警察署に運ばれるわたし。
女性警察官が終始そばについていた。
男性警察官の場合、「肩を触ったわ。セクハラよ」と訴えられる可能性があるからである。容疑者にも当然人権がある。
警察署裏口についた。
職員や容疑者などはそこから署に入ることになっている。
手錠を掛けられたまま取調室へ向かう。
女性の場合は手錠を掛けない場合もあるが、覚醒剤密売という重罪を犯しているこ
とから、手錠は掛けられたままであった。
途中で、敬とすれ違う。
言葉は交わさなかったが、
「うまくやれよ」
とその瞳が語っていた。
取調室に到着する。
「局長が取調べを行うそうよ。しばらく待っているように」
女性警察官はそう言った。
部屋の中央にある対面式の尋問机? の片側の椅子に腰を降ろす。
部屋の中には、今のところ女性警察官が二人。逃げられないように戸口を塞いでいた。
やがて局長が姿を現した。
「君達は外で待機していてくれたまえ」
扉のところに立っていた女性警官に命令する局長。
「ですが……」
容疑者といえども女性となれば、必ず女性警官が立ち会うことになっていた。
意義を唱えてみても、
「出て行きたまえ、聞こえなかったのか」
と、強い口調で言われればすごすごと出て行くよりなかった。
二人の女性警官が退室するのを見届けてから、口を開く局長だった。
「さて、まずは名前・生年月日から聞こうか」
「そんなことよりも、覚醒剤の入手先をお知りになりたいんじゃなくて?」
「それもそうだが、一応決まりだからな」
「決まりと言いながら、女性警察官を追い出したのはどうしてですの? まさか、わたしを女装趣味の男性とでもお思いになれたのですか」
例の女装仲買人のことをほのめかす。
局長の顔が一瞬引き攣ったようだが、
「いや、君を見れば本物の女性だと判るよ。女装者にはない、気品が漂っているからね。正真正銘のね」
まあ……生まれたときからずっと、女性として育てられたものね。
言葉使いから仕草から、徹底的に母から教えられた。
「ただ他に聞かれたくない内容になりそうなのでね」
「そうでしたの……いいわ。名前は、斉藤真樹。誕生日は……」
素直に自分の身分を明かしていく。
どうせ持っていた運転免許証を見られているんだ。
隠してもしようがない。
「さてと、決まり文句が済んだところで本題に入ろうか」
局長の目つきが変わった。
警察官と言うよりも、検察官に近いそれは、「言わなければどうなるか判っているな」と語っている。
「入手先だよ」
やっぱりね。
「その前に昼食にしませんか? まだお昼食べていませんの」
「ふふん。さすがに、麻薬取り引きしようというだけあって、性根が座っているな。いいだろう、食べさせてやろう」
「ありがとうございます。それじゃあ……」
というわけで、この当たりで一番手軽でお待ち帰りできるファーストフードを注文する。
刑事ドラマやアニメなどで、白い粉をペロリと舐めて「麻薬だ!」というシーンが登場しますが、あれはフェイクです。万が一「青酸カリ」だったりしたらあの世行きですから、麻薬取締官や司法警察官はやりません。
シティーハンター「冴子の妹は女探偵(野上麗香)」の回などが有名ですね。
なお、本文の内容は執筆当時のものです。羊蹄丸は、2011年の閉館後に解体されました。
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