特務捜査官レディー(十九)黒沢産婦人科病院
2021.07.23
特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)
(十九)黒沢産婦人科病院
ある日のこと。
課長に呼ばれて、
「今日より正式に拳銃の所持を許す」
と、麻薬取締官の制式拳銃であるベレッタM84FS(M85))自動拳銃を渡された。
「いいんですか?」
「今まで、よく我慢して職務についてくれたからね。今日からは、捜査の現場にも出てもらうことにした」
「ほんとうですか?」
真樹の瞳が爛々と輝いた。
「嘘など言ってどうする。捜査にはベテラン取締官と一緒に行動することになるが、
一応護身のためにも拳銃は必要だ。女性の君に拳銃を所持させるのは、心配ではあるのだがね」
「ありがとうございます」
早速銃を受け取り、上着を脱いで専用のホルスターを装着して、銃を挿してみる。
しかしながら、真樹は身体が細い上に、薄い生地でできた女性衣料の下に、ホルスターを提げてみると、はっきりとその装着状態が服の上から視認できて具合が悪かった。
「これじゃあ、銃を持っているとはっきり判っちゃいますよ」
「そうみたいだな」
ホルスターの位置をいろいろ変えてみたが無駄に終わった。
「もっと小型で、女性が持つハンドバックに入るような拳銃はありませんか?」
「と、言われてもねえ。これが麻薬取締官の制式拳銃なんだよ」
「これでは携行できません」
「やっぱり、現場じゃなくて、鑑定の方じゃだめかね?」
「課長!」
「判っているよ。何とかしよう」
と言うわけで、携帯用の拳銃は後日と言うことになった。
仕事を終えて庁舎の玄関に出ると、敬が車で迎えに来ていた。
「よお、お疲れさん」
「迎えにくるなんて珍しいわね。どこか、行くの?」
「ああ、君に会いたいと言う人の所へ行く」
「わたしに会いたい?」
「君にとって、人生を百八十度転換させた人物にね。いや、恩人と言うべきだな」
頭の回転の速い真樹のことである。
人生を百八十度転換させたとなれば……。
あのニューヨークで命を救ってくれ、斉藤真樹としての人生を与えてくれた恩人。
「黒沢先生が、日本に戻って来ているの?」
「ぴんぽーん!」
「ねえねえ。どこにいるの? 大学病院かなんか?」
あれだけの移植技術を身に着けているのだ。ただの町医者ではないと思っていた。
「行けば判るよ」
意味深な受け答えをする敬。
「もういじわるね」
敬は口笛を吹きながら、しばらく街中を走らせていたが、やがて目前に大きな建物が現れた。
白亜の清楚な感じを漂わせているが、大学病院ではなさそうだし、個人病院にしてはかなりの大きさを誇っていた。
入り口に大きな看板があった。
「黒沢産婦人科・内科病院」
確かにあの黒沢先生の病院のようである。
「ここなの?」
「ああ、そうだよ」
敬は、正面玄関には入らずに脇の側道へと車を走らせた。
「玄関から入らないの?」
「そっちは表の世界の人間が出入りする玄関なんだ。闇の世界の人間が出入りする別の玄関があるんだ」
「闇の世界?」
「ニューヨークで真樹が性転換手術を受けた病院は闇の病院で、そこの常駐医者の一人が黒沢先生だ。真樹も知っていると思うが、闇の世界に入ったが最期、二度と表の世界には戻れない。表側の病院は、先生の父親が経営していて、その地下に黒沢先生が闇の病院を運営しているというわけさ。黒沢先生にとって表側はカモフラージュ」
「あれだけの腕前を持っているのにどうして闇の世界に入ったのかしら」
「それは聞かないほうがいい! 聞いたが最後、真樹も闇の世界の仲間入りだ。まあ、先生が話してくれるのを待つんだな」
「ふうん……」
車は裏手の藪地のような所を突きぬけ、やがて地下へ降りるスロープを降りていった。
いわゆる裏口から入った玄関は、監視カメラに四方から見張られており、異様な雰囲気があった。
「ここから先はこれが必要なんだ」
と敬が胸ポケットから取り出したのは、IDカードのようだった。
端末にカードを挿しいれると、ドアが自動的に開いた。
「なんか物々しいのね」
「闇の世界だからね」
「大丈夫なの? 闇の世界に踏み込んだら二度と抜け出せないんでしょ?」
「普通ならね。俺達は特別に先生の預かりとなっているらしい」
「預かり? 変なの」
「一応先生は、闇の世界の日本支部では顔ということらしいね」
「日本支部?」
「これ以上は俺も知らないし教えてくれない。知ってもいけない」
「ふうん……」
語らいながら長い廊下を歩いていた。
いくつかの扉があったが、
「勝手に入ってはだめだぞ。とんでもない事になる」
と釘を刺された。
行き止まりになった。
一番奥のドア、ここでも例のIDカードを使って開ける。
「さあ、ここだよ」
と、敬の後について入ったところは、どこにでも見られるごく普通の診察室だった。
締め切られた薄暗い部屋を想像していたが、カーテンの開けられた窓からは十分な採光があり、壁も床も汚れ一つなく清潔感に溢れていた。
「やあ、待っていたよ。元気みたいだね」
そこには、あの黒沢先生が椅子に腰掛けて微笑んでいた。
ニューヨークにおいて死に掛けていた佐伯薫を、斉藤真樹として生まれ変わらせてくれたあの医者である。
「先生こそ、お元気でなによりでした」
「早速だが、君を診察させてくれ」
「え? いきなりですか?」
「当然だ。そのために君を呼んだんだからね」
「判りました……」
と答えて敬の方を見やる真樹。
診察となれば、当然衣服を脱ぐことになるだろう。敬の視線が気になったからだ。
「ああ、敬君は外に出ていてくれ。そっちのドアから出て待合室でな」
「ええ? こっちは表の世界の病院ですよ。しかも産婦人科なんですから」
「何を言ってるんだ。君たちは結婚するんだろう? 真樹君が妊娠したら、夫として分娩に立ち会ってもらうからな」
「分娩に立ち会うんですか!?」
「当然だろ。子供は夫婦で共同して生み育てるものだ。分娩に苦しんでいる妻を放って置いて、父親だけ楽しようなんて考えるなよ」
「そんなつもりはありませんよ。立ち会えと言えば、立ち会います」
「ならいい! 実際に真紀君が妊娠したら分娩立会い以外にも、君にも来てもらっていろいろとしてもらうことがあるからな。待合室を使うことも頻繁に多くなる。今から慣れておいたほうがいいぞ」
「判りましたよ。待合室ですね」
とあきらめた様に入って来た方とは反対側のドアから出て行った。
ドアを開いた隙間から大きなお腹を抱えた妊婦がかいま見えた。
「表の病院と繋がっているんですね」
思ったことを口にする真樹」
「表も何も、この診察室は表側だよ。君の入ってきたドアの先が闇の病院だ」
「すると、そのドアが表と闇を区切っている?」
「そういうことだ」
「じゃあ、最初から表から入ってきても良かったんじゃないですか?」
「敬君が恥ずかしがるだろうし、闇の入り口のことを君に知っておいてもらいたかったからだ。何せ、麻薬と銃器を取り扱う君たちのことだ。全然無関係とは言えないだろう?」
「そうかも知れませんね」
確かに、知っていても損はないだろう。
「一応念を押しておくが、闇の世界のことは、君たちからは決して口を挟んではいけないよ。私が必要と判断して話す意外にはね。そうしないと、君たちを闇の世界に引き入れなければならない事態にもなる。二度と抜け出すことの出来ない世界にね」
「判りました。私たちの方から質問や詮索をしなければいいんですね」
「そうそう……」
「と、納得したところで診察に入ろうか……」
表情もきりりと医者の顔になる先生だった。
「はい」
先生は引き出しから、書類を取り出して言った。
「これから君の生殖器に関する問診をするけど、恥ずかしがらずに正直に答えて欲しい。移植した臓器が完全に機能しているとかを調べるためだ。」
「はい……」
生殖器に関する質問……。
あまりにも唐突な質問に驚くが、産婦人科の医師としては当然のことなのかも知れない。
「じゃあ、まず最初だ。月経はちゃんとあるかな?」
「あります」
「規則的かね? 何日周期?」
「だいたい二十八日周期で規則的です」
「そうか、まずは一安心だな。排卵が規則的にあるということで、卵巣と子宮は正常に機能しているようだ」
「妊娠も可能ということですね」
「可能性は高いが、君の血液と移植した卵巣の中の卵子とは、元来他人同士だ。それが原因で不妊となる可能性も残っている。だからそういったこをも詳しく調査するために、今日来てもらったのだ。他の一般の病院では、こんなこと調べられないだろ?」
「確かにそうですね」
「月経の前後数日間とかに、身体の不調を覚えることはある?」
「身体がだるいと感じる時はあります」
「だるいだけかね? 苦痛に感じることは?」
「特にありません」
というように、女性なら誰しも質問されるような内容に受け答えしていく。
さらに問診は続く。
「女性としての性行為は?」
「あります」
「敬君とだね」
「はい」
「週に何回くらい?」
「せいぜい一回です」
「避妊はしてる?」
「初めての時だけしてません。後はしてます」
「今は痛みとかある?」
「ありません」
「絶頂感とかを感じたことは?」
とか性行為に関する諸症状を質問され答えていく。
前半は婦人科としての問診、後半は産科に関わる問診らしかった。
私生活の性交渉とかを聞かれるので正直恥ずかしい限りなのだが、相手は産婦人科。当然のことを聞いているだけである。下心はないだろう。
そんなこんなで短いようで長い問診が終わった。
「うん。だいたいのことは判ったよ」
これで終わりかと思っていたら……。
「上着を脱いでくれないか。今度は触診してみる」
上半身ブラジャー一枚になって、乳房や腹部を念入りに調べられた。
そして……。
その上……。
しかも……。
さらには……。
これ以上は言葉に尽くせない診察が続くのであった。
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響子そして(十八)縁談1
2021.07.22
響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します
(十八)縁談1
わたしも泣いていた。
「わたし、女になった事後悔してないよ。秀治という旦那様に愛されて幸せだったよ。わたしは、身も心も女になっているの。だからおじいちゃんが悲観することは、何もないのよ」
「そうだよ。おじいさんは、悪くはないよ」
秀治が跪き、祖父の肩に手を置いて言った。
「女にしたのが悪いというなら、この俺が一番悪いんだ。刑務所で、ひろしを襲わせるように扇動したんだからな。しかし、俺は女らしくなったひろしに惚れてしまった。女性ホルモンを飲ませ、性転換させてしまったのも全部俺のせいだ。もちろん俺はその責任は取るつもりだ。生涯を掛けて、この生まれ変わった響子を守り続ける。そう誓い合ったから死の底から這いあがってきた。別人になっても俺の気持ちは変わらない。な、そうだろ? 響子」
「はい」
「どうやら君は、いずれ響子が相続する遺産を狙っているような人間じゃなさそうだな」
「おじいちゃん! 秀治はそんな人じゃありません」
「判っているよ。今まで、お母さんやおまえに言い寄ってくるそんな人間達ばかり見てきたからな。懐疑的になっていたんじゃ。だが、彼の態度をみて判ったよ。真剣だということがな。まあ、たとえそうだったとしても、響子が生涯を共にすると誓い合った相手なら、それでもいいさ。儂の遺産をどう使おうと響子の勝手だ」
「遺産、遺産って、止めてよ。おじいちゃんには長生きしてもらうんだから」
「あたりまえだ。少なくとも、曾孫をこの手に抱くまでは死なんぞ」
「もう……。おじいちゃんたら……」
ゆっくりと祖父が立ち上がる。腰が弱っているので、わたしは手を貸してあげた。
「秀治君と言ったね」
「はい」
「孫の響子をよろしく頼むよ」
「もちろんです。死ぬまで、いや死んでもまた蘇ってきますから」
「やだ、ゾンビにはならないでよ」
「こいつう……」
秀治に額を軽く小突かれた。
わたしの言葉で、部屋中が笑いの渦になった。
「あ、そうだ。遺産って言ったけど、わたしには相続権がないんじゃない? 法定相続人のお母さんをこの手で殺したんだもの」
「遺言を書けばいいんだよ」
「あ、そうか」
「儂の直系子孫は、娘の弘子の子であるおまえだけだ。遺産目当ての傍系の親族になんかに渡してたまるか。まったく……第一順位のおまえの相続権が消失したと知って、有象無象の連中がわらわら集まってきおったわ」
「でしょうね。お母さんが離婚した時も、財産目当ての縁談がぞろぞろだったもの」
「とにかく、今夜親族全員を屋敷に呼んである。やつらの前で、公開遺言状を披露するつもりだ。儂の死後、全財産をおまえに相続させるという内容の遺言状をな。だから屋敷にきてくれ、いいな」
「わたしは、構わないけど。女性になっているのに、大丈夫なの? 親族が納得するかしら。それに遺留分というのもあるし」
「納得するもしないも、儂の財産を誰に譲ろうと勝手だ。やつらに渡すくらいなら、そこいらの野良猫に相続させた方がましだ。それに遺留分は被相続人の兄弟姉妹には認められていないんだ。遺留分が認められている配偶者はすでに死んでいるし、直系卑属はおまえしかいない。遺言で指名すれば、全財産をおまえに相続させることができるんだ」
「へえ……そうなんだ。でも、やっぱり納得しないでしょね。貰えると思ってたのが貰えないとなると」
「だから、儂が生きているうちに納得させるために生前公開遺言に踏み切ったのだ」
「さて、みなさん。全員がお揃いになったところで、もう一度はっきりと申しましょう」
社長が切り出した。全員が注目する。
「響子さん、里美さん、そして由香里さん。三人には、承諾・未承諾合わせて真の女性になる性別再判定手術を施しました。それが間違いでなかったと、わたしは信じております。もちろん秀治君の言葉ではないが、将来に渡って幸せであられるように、この黒沢英一郎、尽力する所存であります。わたしは、三人を分け隔てなく平等にお付き合いして参りました。今後もその方針は変わりません。そこで提案なのですが、三人同時に結婚式を挙げてはいかがでしょうか? もちろん里美さんの縁談がまとまり次第ということになります」
「賛成!」
里美が一番に手を挙げた。そりゃそうだろうね。
「しかし俺達の日取りはもう決まってるんだぜ」
と、これは英二さん。
「延期すればいいわよ。あたしも賛成です。あたしだけ先に挙式するの、本当は気が退けていたんです。三人一緒に式を挙げれば、何のわだかまりもなくなります。だってあたし達仲良し三人娘なんですから。いいわよね、英二さん」
「ま、まあ、おまえがいいというなら……英子の発案でもあるし」
相変わらず英二さんは、由香里のいいなりね。
で、わたしはと言うと……。
「わたしも、秀治さえよければ、三人一緒で構いません」
「ああ、俺はいつだっていい。明人として、一度は祝言を挙げているから」
というわけで三人娘の意見は一致した。
「それでは、親御さん達は、いかがでしょうか?」
「わたし達は構いませんよ。どうせ縁談が決まるのはこれからです。反対にみなさんにご迷惑をかけるのが、心苦しいくらいです」
「儂も構いませんよ。秀治君の言った通りです」
というわけで、わたし達の三人同時の結婚式が決定した。
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特務捜査官レディー(十八)磯部京子のこと
2021.07.22
特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)
(十八)磯部響子のこと
とは言っても、そうそう犯罪者の家宅捜査や逮捕といった最前線には出してはくれなかった。まずは新人らしく、麻薬などを取り扱う病院や製造業者の立ち入り検査、大麻の栽培業者の指導や監督、野に自生しているケシや大麻の抜去、麻薬没滅キャンペーンの広報的な活動を割り与えられていた。
まあ、当然といえば当然のことである。職場の環境や仕事内容を把握し、先輩達の活躍ぶりを見届けることも仕事のうちということ。
どんなに優秀な野球選手でも、最初は球拾いからである。
関東信越厚生局中目黒庁舎麻薬取締部捜査課へ、土日を除く曜日に出勤し、九時から五時までの勤務時間を終えると退社する。
まるでオフィスレディーよろしく平穏無事な日々が続いていた。
出勤して最初の仕事は、お茶を各自のデスクを回って配ることだった。
命令されてやっているのではなく、真樹の配属された捜査課には女性がおらず、やさしい性格から率先して引き受けていたのである。
女子大卒業したての唯一の女性ということで、課内ではアイドル的存在になっていた。呼び方も「真樹ちゃん」であった。
麻薬取締りの最前線で、犯人逮捕で活躍するという当初の希望からかけ離れた内容に、何のために麻薬取締官になったのか、と自問自答する時もあった。
「気にするな。いずれ君にも活躍してもらう時がくる。物事には順序というものがあるのだ」
判ってはいるが……一刻も早く現場に出たかった。
磯部ひろしの件があった。(参照=響子そして/サイドストーリー)
麻薬銃器取締課の警察官として、すでに現場に出て活躍している敬から、ひろしに関する情報が寄せられていた。
警察官に復帰した敬は、磯辺健児を挙げるべく証拠集めを行っていた。そんな中から少年刑務所に収監されたひろしの情報も入ってきていたらしい。
仮釈放された磯部ひろしが、とある暴力団の組長の情婦となり、響子と名乗っているという情報だった。
「情婦?」
それを聞いて驚く真樹だった。少年だったひろしが情婦とは……。
「俺も聞いてびっくりしたぜ。なんと! 性転換して女になってるんだ」
「女ですって? 何で性転換するような事になったのよ」
「まあ、少年刑務所だからなあ……。女のいないムショ暮らしで、欲求のたまった男達の間にあって、新人で少年だったひろし君が、そのはけ口とされるのは自然の成り行きだったのかもな」
「つまり、女役として扱われたのね」
「よくあることらしいんだ」
「そんな事……」
「そういう生活の中で、女に目覚めたのかも知れない。いや、そうならざるを得なかったのかもな」
「でも、性転換までする?」
「それが、宿房の中に暴力団の組長の息子がいたらしくてね。そいつが女に目覚めたひろしに惚れたらしくて、女性ホルモンを差し入れさせて、それをひろしに飲ませてより女らしい身体にさせていったらしいぜ。女性ホルモンのことなら真樹は良く知っているだろう」
「それで、身も心も女になっちゃたんだ。まだ少年だったから、女性ホルモンの効果は絶大だものね。身体の変化はもちろんのこと、精神構造も女らしくなっていく」
「そういうことだな」
「そうか……ひろし君。女の子になったんだ……」
「ひろしじゃないよ。今は響子だよ。彼女に惚れた相手が、その親である暴力団の組長が抗争事件で死亡して二代目を継ぎ、情婦としてそばに置きながら、性転換手術を勧めたということさ。手術費用なら全然心配ないから、最高の技術を受けることができる。そしてひろし君は、女に生まれ変わって響子になった」
「しかし……抗争事件を引き起こしている暴力団組長の情婦となると、先行き不安だわね」
「ああ、俺達。麻薬銃器対策課のごやっかいになるかも知れない。最悪、組長情婦として対抗組織から命を狙われるかもな」
「冗談じゃないわ。これ以上、ひろし君を巻き込みたくないわ」
「だが組織は手加減してくれない」
「ひろし……響子さんには、これ以上酷い目には合わせたくないの。女の子になってしまった事情はともかくも、幸せな人生を送って欲しいもの。彼女がこんなことになったのも、わたし達が手をこまねいていたせいだよ。あの時、もっと積極的に強引に動いていれば、麻薬密売人を近づかせることもなく、結果として母親殺しにも至らなかったのよ」
「そうだな。すべては俺達の至らなかったせいでもあるからな」
「とにかく、響子さんの身辺をもっと探ってくれない?」
「判っているさ」
今は、捜査の最前線にいる敬に頼るしかなかった。
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