性転換倶楽部/特務捜査官レディー 性転換薬(R15+指定)
2019.04.08



特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)


(四十五)性転換薬

 その勧誘員を運び込んだ部屋は、産婦人科で使われるあの診察台のある部屋だった。
「手伝ってくれ。こいつを診察台に乗せるんだ」
 言われるままに勧誘員を診察台に乗せるのを手伝う二人。
「そうしたら、こいつの手足を台に縛り付ける」
 両腕を台に縛りつけ、両足を足台に乗せた状態にして、動けないように固定する。
「よし、準備完了だ。目を覚まさせよう」
 薬品棚から瓶を取り出して、ガーゼに含ませている。
「気付け薬ですか?」
「そういうこと」
 そのガーゼを勧誘員の鼻先に近づけると……。
「ううっ!」
 といううめき声を上げて目を覚ました。
「こ、ここはどこだ?」
 開口一番、ありきたりな質問だった。
 まあ、それ以外には言いようがないだろうが。
 そして診察台に固定されていることに気づいて、縛られている状態から抜けようと
して盛んに身体を動かしていた。
 しかし無駄な行為だった。
「とある病院だよ」
「俺を、どうするつもりだ?」
「貴様が売春婦の斡旋業をしていることは判っているのだ。若い女性を『アイドルに
してあげよう』とか言葉巧みに誘い込んで、強姦生撮りビデオを撮影していた。そし
て、その後には売春組織に売り渡していたこともな」
「そ、それは……」
 図星を言い当てられて言葉に窮する勧誘員。
「これまでに侵した罪を償ってもらうことにする」
「な、何をするつもりだ?」
「強姦された挙げくに売春婦にされてしまった罪もない女性たちの苦しみをおまえに
も味わってもらうことにする」
「どういうことだ」
「おまえを女に性転換して、売春婦として一生を惨めに生きてもらうのさ」
「性転換だ……。売春婦だと? 馬鹿なことを言うな」
「信じたくもないだろうがな……」
 と言いながら再び薬品棚から別な薬剤の入ったアンプルを持ち出してくる黒沢医師。
「さて……。これが何か判るか?」
 アンプルを取り出して、その中の薬剤を注射器に移している。
「な、なんだ?」
「究極の性転換薬だ」
「性転換薬だと? 嘘も休み休み言え!」
「信じられんだろうな。だが、明日の朝になれば真実かどうか判る。その目で確認す
るんだな」
 その声は相手を脅すには十分過ぎるほどの重厚な響きを伴っていた。
「や、やめてくれ!」
 診察台に縛り付けられて、どこからともなく漂ってくる薬剤の匂い。明らかに病院
の中だと判る場所。
 そんな所で言われれば、さすがに本当なのかと思い始めているようだった。
「た、たのむ。何でも言う事を聞く。組織のことも喋る。おまえら警察だろう?」
 勧誘員の声は震え、懇願調になっていた。
「無駄だよ。お前の運命は決まってしまったんだ」
「本当だ。嘘は言わない。組織のことを喋る。おまえらそれが知りたいんだろう?」
 しかし、冷酷な表情を浮かべて、押し殺すような声の黒沢医師。
「諦めるんだな」
 そいういうと、注射を勧誘員の腕に刺した。
「やめろー!」
 黒沢医師が止めるはずもなかった。
 注射器のシリンダーが押し込まれ、薬剤が勧誘員の体内へと注入されていく。
「い、いやだ……やめて……くれ」
 勧誘員の声が途切れ途切れになり、そしてそのまま意識を失ってしまったようだ。

「どうしたんですか?」
 真樹が近づいて尋ねる。
「薬剤の中に睡眠薬を入れておいた。明日の朝まではぐっすりだ。逃げられないよう
に、このままの状態で置いておく」
「睡眠薬? 性転換薬じゃなかったのですか?」
「睡眠薬も入っているということだ。性転換薬というのは本当だ」
「冗談でしょう?」
 真樹は麻薬取締官であると同時に薬剤師でもある。
 現在市場に流通している薬剤のことならすべて知っている。
 性転換薬など、許認可されてもいなければ、開発されたという噂すら聞いたことも
ない。
「私の運営している会社は知っているだろう?」
「もちろんです。医者は副業、本職は薬剤メーカーの社長さんですよね」
「その通りだ」
「まさか、開発に成功されたのですか?」
「いや、奴に射ったのは試験薬だ。人間に投与しての臨床試験に入っていない」
「まさか、この男で人体実験を?」
 敬が核心に触れるように言った。
 意外なところで他人の心を読み取ることがある。
「あはは、その通りだ。何せ、臨床試験しようにも、出来る訳がないだろう? 女に
なりたいという人間は数多くいても、どうなるかも知れない怪しげなる薬を試してみ
ようという人間はいないさ。もっと確実に性転換できる手術が発達しているからな」
「なるほど……」
「明日の朝っておっしゃってましたけど……」
「ああ、動物実験から類推するに人間なら一晩で可能なはずだ」
「本当にできるのでしょうか?」
「だから、人体実験だよ。明日が楽しみだ」
 といって笑い出す先生だった。
「そんな……」
「まあ、興味があって成果を見たいなら明日来てみるんだな。成功か失敗か、いずれ
にしても面白いものが見られるはずだ」
「見に来ます! 乗りかかった船ですよ。最後まで見届けたいです」
「いいだろう。明日の午前九時にきたまえ。囮捜査のことで、明日も出勤日ではない
のだろう」
「はい。明日の九時ですね。必ず参ります」

 というわけで、奇妙なる性転換薬というものの存在を知り、もっと早くこれが完成
していて自分がそれを使うことが出来ていたら……。
 心底そう思う真樹だった。


11
銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第三章 狼達の挽歌 V
2019.04.07



 機動戦艦ミネルバ/第三章 狼達の挽歌


 V エースパイロット

「すげえ!」
 ストライク・ファントム戦闘機のコクピットから、ミネルバの状況を目の当たりに
したパイロットが驚く。
 パイロットの名は、カッシーニ・オーガス曹長。
 あの撃墜王のジミー・カーグ中佐に戦闘の手ほどきを受けたエースパイロットであ
る。
 端末から指令が届く。
「艦載機は敵戦艦に対し、攻撃開始せよ」
 その指令に従うように操縦桿を握り締めるオーガスだったが、引き続いて入電が入
った。
「オーガス曹長は、ただちに帰還せよ」
 出鼻をくじかれたような指令に、
「え? どういうことですか。敵艦の迎撃に入るんじゃないですか?」
 意外な命令といった感じで確認する。
「迎撃は、他の艦載機にまかせてください。曹長は帰還です」
「納得いかないなあ……」
 うだうだと言っていると、相手が代わってスピーカーががなり立てた。
「馬鹿野郎! おまえは新型モビルスーツの搭乗員だ。ここで撃墜されるわけにはい
かないんだよ」
 発進前に甲板に陣取っていた、モビルスーツパイロットで戦闘班長のナイジェル中
尉の声だ。
「新型っていっても、機体を搬送していた輸送艦が敵揚陸部隊に捕獲されてしまった
というじゃないですか。肝心の機体もないのに、パイロットも何もないじゃないです
か」
「機体については、メビウスの特殊部隊が奪還作戦に入っている。だから今後のため
にもファントムを失うわけにはいかないんだ」
「ファントムですかあ?」
「当たり前だ。そのファントムは新型機にドッキングしてコクピットとなる大事な部
品でもある。パイロットの補充はできるが、ファントムは補充がきかん」
「きついなあ……」
「いいから、戻って来い! 命令だぞ」
「へいへい。戻ればいいんですね、判りましたよ」
 言いながら乱暴に通信機を切るパイロットのオーガス曹長。
 ユーターンしてファントムがミネルバへ戻っていく。

 艦載機発着場。
 ファントムが着陸して、オーガスが機体から降りてくる。
 そしてパイロット待機所に戻るやいなや、ナイジェル中尉に詰め寄る。
 中尉は、愛機のモビルスーツの燃料・弾薬補給を待つ間に、自分自身の燃料補給中
だった。
 戦闘中のために、ペースト状の食料を詰めたチューブ式の携帯食料を食していた。
「納得できませんよ!」
 憤懣やるかたなしといった様子で、中尉に食い下がるオーガス。
「まあ、そういきり立つな。血圧が上がるぞ」
「血圧が上がるのは中尉じゃないですか。納得いく説明をしてください」
 食していた携帯食料をカウンターに置きながら、質問に答えるナイジェル。
「知ってのとおり、この艦にはおまえの他に三人の新型のモビルスーツパイロット候
補生がいる。もちろん自分もその中に入っているがな。しかしながら」
「肝心のモビルスーツがない!」
「そのとおりだ。当初の予定では、タルシエン要塞から護送船団によって運ばれてく
る予定だったのだが」
「敵の陣営に横取りされてしまいましたよ。その護送船団の指揮官は艦長殿ですよ
ね」
「まあな……。背後から敵艦隊が押し寄せている状態で、本星にまで無事に輸送して
きたことは評価に値すると思うがな」
「しかし反面、敵に最新鋭のモビルスーツを与えたことになりませんか? あのフ
リード・ケースン中佐が開発し、わざわざ送ってよこしたものです。ただのモビル
スーツであるはずがありません。その機動性能、戦闘能力、すべてにおいて現行のモ
ビルスーツの性能を凌駕しているに違いないのです」
「ほう……。なかなか鋭い判断だ」
「それを奪われてしまったんですよ。これが落ち着いていられますか?」
「それだ! 近々、その最新鋭のモビルスーツを奪回する作戦が発動するらしいの
だ」
「奪回作戦ですか?」
「そうだ。しかも、その作戦に我がミネルバも参加するらしい。何せそのモビルスー
ツ専用の整備・補給システムなどが装備されているのが当艦だからな。つうか……、
このミネルバに搭載することを前提として開発されたと言ってもよい機体だ。最新鋭
のモビルスーツと最新鋭のこのミネルバが揃ってこその【メビウス】旗艦としての位
置付けがあるというわけだ」
「その奪回作戦はいつですか?」
「そうだな……」
 と言いかけたところで、
「ナイジェル中尉。弾薬の補給が完了しました。すみやかに出撃してください」
 艦内放送が中尉の出撃指令を伝えていた。
「おっと。将来の話よりも、まずは目の前の敵を叩くのが先だ。今の話は、戦闘が終
わってからにしよう」
「で、その間。自分は何をしていればいいんですか?」
「飯を食って、寝ていろ!」
「寝……。戦闘中だというのに、眠ってなどいられませんよ」
「馬鹿者が! 眠ることも大事だぞ。出撃しないものは体力の回復と温存に務める。
これもパイロットの仕事のうちだ」
「わっかりました! 寝ていりゃいんですね」
「そういうことだ」
 携帯食料をカウンターに戻して、そばに置いてあったヘルメットを取り上げ、
「それじゃ、行ってくる。殊勝な気持ちが少しでもあるのなら、みんなの無事を祈っ
ていてくれや」
 と右手を軽く上げて、発着場へと向かっていく中尉だった。
「へいへい。いってらっしゃい」
 後姿を見送りながら、
「空を飛べない陸戦用モビルスーツでどう戦うつもりですかね……」
 と、呟きにも似た吐息をもらすオーガスだった。

 艦載機発着場。
 モビルスーツに乗り込み機器を操作しているナイジェル中尉。
『ナイジェル中尉は、甲板にて近寄る戦闘機を撃墜してください』
 通信機器より指令が入電する。
『了解した。甲板にて敵戦闘機を撃滅します』
 飛翔することのできない陸戦兵器には、動かない砲台としての役目しかなかった。
「ま、やるだけのことをやるだけさ」
 苦笑いしながら、
「さて、行くとしますか」
 操縦桿を握り締めて、ゆっくりと機体を動かして、甲板に出る昇降エレベーターに
乗る。
「ナイジェル、出る!」
 通信機に
『了解。エレベーターを上げます」
 ゆっくりと上昇するエレベーター。
 やがてナイジエルの視界に飛び込んできたのは、勇躍として迫りくる敵戦艦の姿で
あった。


11
銀河戦記/鳴動編 第二章 ミスト艦隊 X
2019.04.06


第二章 ミスト艦隊


                 X

 連邦軍旗艦。
 ミストを左舷後方に見る位置に、隊列を組んでいるミスト艦隊。
「敵本隊は、ミストの前方、十時の方向」
「取り舵十度! 敵艦隊に向かえ!」
「全艦取り舵十度! 進路変更します」
 ゆっくりと方向転換をはじめる艦隊。
 巨大惑星の影響だろうか、艦体がミシミシと音を上げていたが、艦橋要員達は軽く考
えていた。
 この時、艦の異常を真剣に受け止めて、対処しようとしてる者たちがいた。
 機関部の要員である。
 方向転換と同時に、急激に機関出力がダウンしてしまったのである。
『おい、機関出力が落ちているぞ。すぐさま上げてくれ』
 さっそく艦橋からの催促がかかる。
「了解! 出力を上げます」
 機関出力が上げられ、機動レベルを確保したものの、エンジンは異常音を立てていた。
やがて方向転換が完了してエンジンの負担が軽くなって異常音は止まったが、
「これはただ事ではないぞ」
 誰しもが感じていた。
 外の状況や艦橋の様子などがまるで見えない機関部には、ただ上から命令されて出力
を上げ下げするしかない。
 機関長のところに数人の機関士が集まってきていた。
「巨大惑星の影響に間違いありません」
「そうです。カリスの強大な重力に艦が引き込まれていると思われます」
「私もそう思います。上に意見具申なさった方が……」
 だが機関長は意外な発言をした。
「君達は艦内放送を聞いていなかったのか? 上はランドール提督を捕虜にしようとし
ているのだ。いいか、宿敵サラマンダー艦隊のランドールだぞ。奴を捕らえれば、聖十
字栄誉勲章間違いなし、報償は思いのままで一生を楽に暮らしていけるはずだ。例えエ
ンジンが焼け切れたとしても全力で追いかけるのは、判りきったことではないか。言う
だけ無駄だよ」
「やっぱり……ですかねえ」
「外がまるで見えない鉄の箱の中で、一生を終えるのはご免ですよ」
「俺達には選択の余地はない。上に指示に従うまでだ。さあ、配置に戻りたまえ」
 諭されておずおずと自分の部署に戻る機関士達だった。

 その頃、機関部要員の気持ちもお構いなしの艦橋では、ランドール捕虜作戦の真っ最
中であった。
「ランドールの乗艦を特定しろ。そして攻撃目標から外すのだ」
「了解」
 オペレーターが機器を操作して、ミスト艦隊の各艦をスキャニングしはじめた。
 やがてスクリーン上のミスト艦隊の中に赤い点滅が現れた。
「ランドール提督の乗艦しているものと思われる旗艦を特定しました」
「よし、攻撃目標から外せ」
「了解。戦術コンピューターに入力して、攻撃目標から外します」
「後方から、別働隊が追い着いてきました」
「構うな。今は正面の艦隊に集中しろ」
 司令の脳裏にはランドールしかないという風だった。
 聖十字栄誉勲章が目の前にぶら下がっているのだ。
 二階級特進も夢ではなかった。
 鼻先に吊るされたニンジンを追いかける馬のようなものである。


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