機動戦艦ミネルバ/第三章 狼達の挽歌

 II 戦闘開始!  速度を上げながらミネルバに接近していくザンジバル級揚陸戦艦。  その艦橋では、ミネルバ攻撃への準備が着々と進行していた。 「陽電子砲の射撃システムに、大気による減衰の補正プログラムを入力」 「敵艦、陽電子砲の射程内に補足!」 「陽電子砲、臨界到達まで45秒!」  指揮を執るのは艦長のゼナフィス・リンゼー少佐である。  中肉中背のごく普通の体格ながらも、その表情からは聡明な感じを与えていた。  今回、彼に与えられた任務は、トランターにあって総督軍に対して反抗勢力となっ た第十七艦隊所属第八占領機甲部隊「メビウス」の掃討であり、特にその旗艦となっ ていると思われる「ミネルバ」を叩くことであった。  その側には副官のミラーゼ・カンゼンスキー中尉が控えている。 「やっと探しだせましたね」 「ああ、ここでこいつを撃ち落せば、後々の始末も楽になる」 「しかし、敵艦に関する情報がまったくないのが気になります。同盟軍の艦艇情報の コンピューターをハッキングされて、敵艦に関する一切合財が消されてしまったんで すから。戦艦に搭載された兵器の種類から、機動エンジンの方式さえも……。多方面 から集めた情報で、反乱軍の旗艦が「ミネルバ」という機動空中戦艦だと判った次第 ですからね。データがない以上、慎重に当たらねばなりません」 「敵には有能なハッカーがいるらしい。情報のやりとりには十分注意する必要がある だろう。ともかく、こいつが軍の施設から出航する際に得られた映像や戦闘記録から、 ある程度の戦闘能力は推し量れるがな」  占領軍である彼らにとって、同盟軍のコンピューターに記録された情報だけがすべ てである。  占領はしたものの、軍人や軍関係の技術者までも掌握して、すべてを統括できるま でにはさらに長い時間が必要であろう。  ましてや、ミネルバの設計者がフリード・ケイスンという、彼一人だけで戦艦の設 計ができてしまうという天才工学者にして天才プログラマーであることなど知る由も ない。 「敵の情報がつかめないとはいえ、発見した以上、このまま見逃すわけにはいかな い」 「そうですね」 「陽電子砲、発射準備完了しました」 「よし、ぶち込んでやれ」 「陽電子砲、発射!」  まばゆいばかりに輝いて、陽電子プラズマが大気をイオン化しながら突き進んでい く。  陽電子と大気中の電子との対消滅はすさまじく、見る間にエネルギーは減衰してい く。ライデンフロスト現象によって、減衰率はある程度低減されているとはいうもの の、大気中における陽電子砲の使用には限界がある。ぎりぎり肉眼視界にある敵艦を 撃つことができる程度である。それはザンジバル級揚陸戦艦にとって致し方のないこ とであり、惑星を守る防衛艦隊との戦闘を第一任務としているために、主砲として陽 電子砲を装備しているものだ。惑星への揚陸作戦に入ってからは、搭載したモビル スーツを降下させての掃討作戦となる。  ライデンフロスト現象とは、真っ赤になるまで熱した鉄板の上に、水滴を落とすと 蒸発した気体の層が液体の下に生じて、熱伝導を阻害して瞬時に蒸発するのを妨げる 現象である。また、大気がプラズマ化したり電離したりする時には、すさまじい音を 発生する。雷がゴロゴロ、バリバリと鳴るのはこのためである。  ともかくも陽電子プラズマが一直線にミネルバめがけて突き進んでいく。  そしてミネルバを包んだ。  しかし、陽電子砲のエネルギーは、ミネルバを回り込むようにして、後方へと流れ 去ってしまった。  まるで川中に頭を出した岩に当たった、川の流れのように……。 「どうしたことだ! 一体、何が起きたというのだ。陽電子砲が……」
     
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