機動戦艦ミネルバ/第三章 狼達の挽歌
V 超伝導磁気浮上航行システム  通常の航空機は、ジェットエンジンの推力によって前進する際に、飛行翼の上下に 掛かる気圧差によって、浮上する揚力を発生させて大気圏を航行することができる。 前進することによって浮上することのできる航空機であるが、当然空気のない宇宙空 間では飛行翼は意味をなさず、推進剤に空気中の酸素を利用するために宇宙を航行す ることはできない。  エンジンの噴射方向を下に向けて垂直上昇できるV−TOL機もあるが、質量を浮 かせるためには甚だしい燃料を消費してしまい、大型の戦艦などにはとうてい利用で きなかった。  やはり大気圏内では飛行翼は必要不可欠であった。  では、飛行翼のない機動戦艦ミネルバはどうやって浮上航行するのか?  その答えが、超伝導におけるマイスナー効果を利用した、超伝導磁力浮上航行シス テムである。  科学実験などで、極超低温にした超伝導体の上に浮かぶ磁石の映像をご覧になった 人も多いと思う。  超伝導体を超低温にすると電気抵抗が0になると同時に、完全反磁性「マイスナー 効果」となって、外部の磁場をはじいてしまう現象が起きる。これによって磁石の磁 力線が反発されて浮いてしまうのである。 国立大学55工学系学部HPより
 これを大掛かりにして、艦体の浮上システムに応用したものが、戦艦ミネルバに搭 載された超伝導磁気浮上航行システムである。  ただし一定以上の磁場がかかるとマイスナー効果が突然消失してしまう現象が起き る。これを防ぐために、ニオブ (Nb)、バナジウム (V) を素材とした第二種超伝導体 が、そしてさらに第三種超伝導体へと開発研究され、強磁場の中でもマイスナー効果 を持続できるように最新鋭戦艦用としてミネルバに搭載された。  コンパス(方位磁針)が常に南北を指し示すことでも判るとおりに、地球には地磁 気という惑星全体をカバーする巨大な磁力線があり、この磁力線に沿って浮上航行で きるように超伝導体を組めば、飛行翼なくしても自由に大気圏を航行できるというわ けである。もっとも高速移動のための通常のジェットエンジンもちゃんと搭載してい る。  唯一の欠点としては地磁気をその浮上のエネルギーとしているために、地磁気のな い宇宙空間ではまったくの無用の長物と化してしまうことである。  そんな最新鋭の設備を搭載した機動戦艦ミネルバを設計したのが、フリード・ケイ スン技術士官であることは言うまでもないが、それらのシステムの根幹を支えるのは、 絶対零度に近い極超低温状態にある物質、その特異性を利用する科学の究極の姿であ ることを忘れてはいけない。  ●電気抵抗値が0となる超伝導とマイスナー効果。  ●絶対零度になっても固化せずに液体状態を示す零点振動(ヘリウム4など)と、 粘性が0になる超流動現象。  ●原子が指向性・可干渉性を持つBEC(ボーズ・アインシュタイン効果)及び原 子レーザー。……などなど。  最新科学及び宇宙理論の真髄には、極超低温状態における物質の科学をいかにして 極めるかに掛かっているといえる。  ミネルバ艦橋。 「敵戦艦さらに接近中!」  パネルスクリーン上のレーダー解析図上の光点が、ミネルバの現在地点を示す中心 点へと急速接近しつつあった。 「迎え撃ちます。全艦、第一種戦闘配備!」 「第一種戦闘配備」 「艦首を敵艦に向けよ。面舵一杯」 「Starboard! 面舵一杯!」  艦体を傾けながら、敵艦に向かうミネルバだった。
     
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