機動戦艦ミネルバ/第二章 選択する時
V 今後のこと 「結局のところ、このまま共和国同盟がバーナード星系連邦の一州になってしまうか、 それともランドール提督が解放に成功するか。って、どっちを信じるかに掛かってい るんじゃないの」 「冷静に勢力分析する限りでは、ランドール提督には三十万隻と同数に匹敵するとい われる機動要塞があり、マック・カーサーにはいずれ再編成される旧同盟の残存艦隊 百万隻と合わせて二百万隻にのぼる艦隊がある。仮に提督が防衛に徹するとすれば、 艦隊六十万隻相当、総督軍はその半分を自国防衛に回したとして残り半数の艦隊百万 隻との戦いになる。六十万隻対百万隻、提督の力量からして十分防衛可能な勢力とい えるだろう。しかしそれでは同盟の解放をするには至らない。そこでランドール提督 が反攻するとなると、動かせない要塞は無意味であるから正味三十万隻、対する総督 軍は持てるすべての二百万隻を動員できるから、三十万隻対二百万隻との戦いとなる。 よほどの奇策でも講じない限り勝てる見込みはないな……」 「それに解放軍にとってやっかいなのは、かつての味方同士で戦わなければならない ので、士気統制面で非常に不利益ということ。総督軍にとってはランドール軍はただ の反乱軍であるから、これを討伐することには何ら不都合は生じないのにたいし、解 放を旗印にするランドール軍には、旧同盟軍は味方でありまともには戦えない」 「現状のまま維持する限りは、ランドール提督の未来はないということか」 「勝算のない戦いはしないというのがランドール提督の性分らしい。にも関わらず総 督軍に楯突く限りは、何らかの作戦を用意しているに違いない」 「過去の例をとってみれば、継続してレジスタンス活動を維持し敵を追い出して国家 の再興を謀るには、対抗する国家の援助を取り付けられるかどうかにかかっていると いえる」 「対抗する国家?」 「銀河帝国だよ」 「そうか、帝国にとっては同盟が完全に崩壊してしまえば、次ぎなる獲物が自分達で あることを身にしみて感じているはず。そこに提督の望みがあるというわけか」 「銀河帝国と何らかの軍事協定を結ぶことに成功すれば望みも出て来る」 「そういうこと。ともかく提督には時間稼ぎが必要だ。そのためにレジスタンス部隊 として第八占領機甲部隊を各主要惑星に配置したのではないかと思うんだ」 「でもさあ、もし提督が同盟を解放することに成功すれば、俺達も功労者として二階 級特進とか勲章かなんかもらえちゃったりするのかなあ」 「可能性はあるんじゃない。マック・カーサー総督の首でも取れば間違いないかな」  議論白熱する乗員達であった。  それも議論に参加しているのは、若い士官達ばかりであった。  それはもちろん、アレックス・ランドールという英雄の存在がある中で、士官学校 に学んだ連中ばかりなのだ。  そのほとんどが、アレックスに対する熱い信奉があったのである。  一方その頃、フランソワは艦長室に一人 「果たして何人残るかしら……」  いくら反乱の狼煙を挙げたとしても、着いて来るものがいなければしようがないし、 故郷に弓引くことを強制することもできない。 「先輩なら、こんな時どうなさいますか?」  物言わぬパトリシアの写真に向かって問いかけてみるフランソワであった。  ノックの音がして、リチャードが入ってくる。 「あれから三十六時間が経過しました。現在時点の退艦希望者リストです」 「こんなに……」 「妻帯者を中心に七十余名に登る士官が退艦を申し出ております」 「仕方がありませんね。妻や子供を残していくわけにはいかないでしょうから」 「はい」 「リストの全員に退艦許可を与えます。退艦用の艀を用意してください。期限の十二 時間後に出発させましょう」 「わかりました」
     
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

小説・詩ランキング

11