機動戦艦ミネルバ/第二章 選択する時
VI カサンドラ訓練所  退艦していく将兵を乗せた艀がミネルバから発進した。それを艦橋から見つめなが ら神妙な表情のフランソワ。 「結局残ったのはほとんどが訓練生ばかり……」 「前途多難ですね」 「何とかミネルバを動かせるだけの要員が確保できたのは幸いです」 「これもランドール提督の人望ですかね」 「若い士官それも特に女性士官の間では圧倒的な人気がありますね」 「らしいですな」 「何にもまして、中尉に残っていただけたことには感謝しております。本当にありが とうございます」 「いや、何。親父がケイスン中佐と一緒に設計した艦ですから、敵の手に渡すには忍 びないですからね。宇宙艦隊決戦の時代に、何を今更大気圏防衛専用の空中戦艦など と笑われて、後ろ指さされていた父の無念を晴らしたいと思いましてね。ランドール 提督は、ミネルバの重要性を見抜いて自分の部隊に組み込んでくれました。それまで は配属が決まらず宙に浮いたままだったんですよ」 「お父様は?」 「亡くなりました。エンジンの燃焼実験の爆発事故に巻き込まれて」 「そうでしたの……お気の毒に」 「いえ。とにかく、こいつで納得いくまで総督軍と戦ってみたい。最終防衛ラインを 守る役目として十分役に立つ事を見せ付けることで、笑った奴を見返してやりますよ。 それに、妹のやつがランドール提督の旗艦であるサラマンダーの艦長なんですよ。負 けてはいられません」 「そうでしたか……。あ、艦長じゃないですよ。スザンナさんは、昇進して旗艦艦隊 の司令官になってます」 「え? そうなんですか。親父が死んでからちっとも連絡を寄こさないから……。 ということは、少佐になったんですね」 「ええ、艦隊一番の頑張り屋さんですから。とにかく、共に頑張りましょう」 「もちろんです」 「艦長! 暗号通信が入電しています」 「暗号解読器にかけてください」 「現在解読中です」  やがて解読が済んだ電文を読むフランソワ。  リチャードが尋ねる。 「我々の次の任務を伝えてきたんですよね?」 「ええ、カサンドラ訓練所へ赴き、モビルスーツのパイロットを収容するように」 「カサンドラ訓練所ですか。敵の手に落ちている可能性は?」 「その可能性は少ないでしょう。現在の敵は第一次攻略部隊しか降下しておらず、主 要宇宙港や軍事施設の攻略が精一杯で、訓練所までは手が回らないはず。続く第二次 攻略でも国会議事堂や交通管制センター、放送センターなどの政治中枢部が目標にな っています。残存兵力の掃討は第三次攻略部隊以降になるでしょう。とはいっても時 間がないことは確かです。速やかに、命令を実行してください」 「わかりました。カサンドラ訓練所に赴き、モビルスーツパイロットを収容に向かい ます」 「次の定時連絡は、明後日の標準時一六○○時頃の予定か……」 「しかし何でしょうねえ……レイチェル大佐のことですよ」 「大佐が何か?」 「どこにいるか判りませんが、無線で指令を伝えるだけで、自身は安全な所に身を潜 めているだけじゃ」 「それはありません。大佐が指揮するのはミネルバだけではないのですよ。共和国同 盟の各惑星に散っている、第八占領機甲部隊メビウスの全軍を統括する任務をも担っ ているのですから。それが何より、我々が必要とする物資を調達して補給艦を手配し てくれているじゃない」 「それですよ、それ。一体どこから調達するのでしょう。秘密基地の存在は聞かされ ましたが、そこだけでは、トランター全域をカバーすることはできないでしょうし ね」 「だいぶ以前から、準備していたということですから、各地に秘密の補給基地でもあ って相当量の物資を備蓄していたとか」 「それは有り得るかもしれませんね」 「でしょう?」 「ともかく大佐には大佐の仕事があるだろうし、我々には我々の任務があります。与 えられた任務をまっとうすることです」 「判りました」
     
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