女子高生になれる薬

(四)女子高生になれる薬

「社長! 新薬ができました」
 いつもながら脈略もなく登場する研究員。
「また、君か……。今度は何ができたんだ」
「はい。女子高生になれる薬です」
「女子高生になれる薬?」
 これはまた突拍子もない内容だ。
 その効能は名前の通りなのだろう。
 それにしても……。

 女子高生になれる薬

 ……とはな。
 いくらなんでも信じがたい。
「それで誰かに試してもらったのか? 動物実験は?」
「いいえ。これだけは動物実験もできませんし、身近にも女子高生になりたいという者もいませんから」
 確かに女子高生したチンパンジーってのはお笑い種なだけである。
「で……。まさか、私に被検体になってくれというんじゃないだろうな」
「ピンポン!」
「おい!」
 私は、専属の新薬の実験役じゃないぞ。
「だって他にいないじゃありませんか。どうしますか?」
 と、じっと私の顔を覗く研究員だった。
 こんな薬……、他の者に試させることなど出来るわけがないだろう。
「わ、わかった! 私が実験台になってやるよ」
「あ、ありがとうございます」

 というわけで、早速「女子高生になれる薬」なるものを、飲んでみることにする。
 その効用を実際に確認してみなければどうしようもないからである。
「それでは椅子に腰掛けてから薬を飲んでください」
「座るのか?」
「はい。これを飲むと、大脳組織に直接的に作用しますので、一時的にですがめまいが生じます」
 立っていると危険というわけか。
「判った」
 言われたとおりに社長用の椅子に深々と腰を降ろした。
「まずは、この写真をご覧ください」
「写真?」
 手渡された写真には、女子高生の制服を着た女の子が映っていた。
「この写真でどうしようというのだ」
「いえ、じっくりとご覧になってくださればいいんです。そしてその女子高生のイメージをしっかりと頭の中にインプットしてください。そのイメージが変身後の姿になります」
「なるほど、この女子高生みたいになれるというわけか」
 写真をよく見ると、その制服には見覚えがあった。
 真奈美の通っている学校の制服じゃないか。
「いいですか? 頭に入りましたか」
「大丈夫だ」
「では、薬をどうぞ」
 と言って、薬と水の入ったコップを乗せたトレーを差し出した。
 トレーから薬を取って、コップの水で胃の中に流し込む。

「何時間で効果が現れるのだ」
「胃の中で融けて吸収される成分で出来ていますから、そうですね……十分くらいです」
「そうか……」
 効果が現れるのをじっと待った。
 やがてめまいがはじまる。
 ぐるぐると天井が回りだした。
「気分が悪いぞ」
「目を閉じてください。椅子にゆったりと腰掛けて楽にしてください」
「判った」
 やがてめまいが治まってくる。
 しかし、何か変な気分だ。
「もういいでしょう。目をゆっくりと開けてください」
「判った」
 ゆっくりと目を開ける。
 さて、どんな風に変身できたのだろうか?
 緊張する一瞬であった。
 一番に目に飛び込んできた映像は、豊かに膨らんだ胸だった。
 おお!
「どうぞ、鏡で全身を映してみてください」
 社長室に置いてある姿見を正面に持ってくる研究員。
 そこにはまさしく、椅子に腰掛けてセーラー服を着込んだ可愛い女子高生がいたのであった。
 別人じゃないかと手を挙げたり、顔を横に振ってみたりするが、鏡の中の女の子はその動きにしっかりと付いてきていた。
 立ち上がって全身像を写してみる。
 なかなかスタイルもいいな。
 セーラー服を下から押し上げて膨らんでいる胸。
 きゅっとくびれた細いウエスト、そしてなだらかなラインを描いてヒップへと続くボディーは理想的なまでに魅力的だった。
 私が理想とする女子高生像がそこにあった。
 くるりと回ってみる。
 ミニスカートの裾がふわりと広がってすぐに元に戻る。
 豊かな胸は、ふるふると動きに合わせて揺れ動き、言い知れぬ感覚があった。
 じかに触ってみても確かな胸の感触があった。
「これがわたしなのか?」
「どうです。可愛い女の子になっているでしょう?」
「そうだな。しかし、いつの間にセーラー服に着替えたのだ」
「まあ、それはともかくすばらしいでしょう」
 うーん。
 研究員の態度がどこかおかしいな。
「なあ、本当に女子高生に変身しているのか?」
「そ、それは……」
 冷静になって考えてみれば、薬を飲んでから一時間と経っていないだろう。
 そんなに短時間に性転換を起こし、セーラー服に着替えさせることが、可能だろうか?
「正直に言いたまえ。もしかしたら……この姿は、ただそう見えているだけじゃないのか? この薬は性転換薬じゃなくて、大脳に働いて女子高生になっている夢を見させる薬だろう。飲む前に写真をじっくり見させたのは、夢を見るためのイメージを植えつけるためだ」
 研究員はうなだれている。
 そしてぽつりと答えた。
「は、はい。社長のおっしゃるとおりです。これは女子高生になる夢を見させる薬なんです。しっかり起きてはいますが、自分の姿のみが変身した架空の姿に見えるようになっているんです」
「やはりな」
「申し訳ありません」
 うーん。確かに実際に変身するわけではないが、気分だけでも女子高生になれるというのも、それはそれなりに便利かもしれない。性転換や女性ホルモンを飲んだりまでは考えていないけど、ごく普通の女装趣味な人々には歓迎されるだろう。
 女装するには肝心な衣服や化粧品を買い揃えなければならない。
 家族と一緒に暮らしている人々にとっては、女装は大きな障害となっている。女装用品をどうやって隠すかとか、家の中ではそうそう女装していられる時間は限られているし。家族が出かけている時とか、寝静まってからということになるだろう。
 女装趣味が、いつばれるかと日々苦悩しているわけだ。
 女装サロンとかいって、女装したまま同じ趣味の人たちと交流を広められる店もあるが、そうそう通えるわけじゃないし金も掛かる。また女装して他人には会いたくないという人には無理だ。
 しかしこの薬を飲用すれば、すべてが解消する。
 そう。
 自分の目からは女子高生の姿に見えるが、他人の目には普段と同じ。
 つまり家族と一緒に生活し、会社や学校などに通いながらも、女子高生の姿でいられるというわけだ。
 単なる自己満足かも知れないが、女装趣味の人にはそれでも嬉しいと感じるかも知れない。

 研究員はうなだれていた。
「よし。いいものを開発してくれた。感謝する」
「え?」
 顔を上げてきょとんとしている研究員。
「この薬を正式に採用しよう。製造・販売を許可する」
「ほんとうですか?」
「ああ、ほんとうだ」
「ありがとうございます」
 研究員の表情が明るくなった。
「実は……、スチュワーデスになれる薬、看護婦や女医になれる薬、婦人警官になれる薬……、とかもあるんですけど……」

 おうよ。
 どんどん、やってくれ!