美奈の日記 31

 手術当日となった。  麻酔前投与薬を飲んで手術室へと向かう。  たくさんの手術機械の立ち並ぶ手術室。  手術スタッフが迎える。 「心配いらないからね。眠っている間にすべて終わっているわよ」  看護師がやさしく声を掛けてくる。  やがて執刀を担当する黒沢医師が入室してくる。 「さあ、はじめるよ。いいね?」  軽く頷く。 「では、麻酔開始」  麻酔用のマスクが装着され、やがて気持ちよくなって、深い眠りに落ちていく。  夢を見ていた。  目の前にママがいた。 「美奈ちゃん。私のすべてを受け継いでくれてありがとう」  やさしく微笑みながら語りかけてくる。 「ママ!」 「悲しまないで。ママは死んだんじゃないの。ママは美奈ちゃんの身体の中で生き続けて いるのですから。ずっとこれからね」 「ずっと?」 「そうよ。だから何も心配することはないの。陰日なたから美奈ちゃんを見守っています よ」 「ほんとう?」 「ママが嘘を言ったことがある?」 「ううん」 「目が覚めたら、女の子としての新しい生活のはじまりよ。きっと素晴らしい人生が待っ ているわ。パパと仲良く暮らしていくのですよ」  次第にママの姿が薄れていく。 「ママ、行っちゃうの?」 「大丈夫よ。ママは美奈ちゃんといつまでも一緒だから」  やがてママの姿が闇の中へと消え入った。  どれほど眠っていたのだろうか?  目に涙があふれていた。 「あら、お目覚めね」  ベッドサイドに静香さんがいた。 「どう? 気分は?」 「静香さん……。ボクは?」 「手術は成功したわ。美奈ちゃんは女の子に生まれ変わったのよ」 「女の子……」 「女の子になった証を見たいと思うけど、今は手術したばかりだから、もうしばらく我慢 してね」  ということで、自分のものを見ることはお預けらしい。  まあ、自分のものになったことは確かなんだし、その気になればいつでも見られるよう になるのだから。  黒沢医師が看護師を伴って、回診にやってきた。 「やあ、美奈ちゃん。具合はどうだね?」 「気分はいいです」 「ふむ……。ともかく手術は大成功だから、安心していいよ。今から包帯の交換をするか らね。ネグリジェを肌蹴るけど、美奈ちゃんは動かないでいいよ」  動かないでと言われても、動かせる状態ではなかったみたい。  身体を動かすと内臓が捩れるような激痛が走る。  移植したばかりなので、ママの生殖器が癒えていないのだろう。 「うん。手術の痕はきれいだよ。月日の経過とともに跡形もなく治るはずだよ。ただね、 今は手術したばかりで腫れ上がっているから、もうしばらくして傷がある程度治ったら見 せてあげるよ」  静香さんと同じ事を言っていた。  まあ、そんなものだろう。 「今日から、君は本当の女の子としての人生を歩むことになる。それは君のママが願って やまなかった新しい人生のはじまりとなる。臓器を譲ってくれたママの分まで、しっかり と生きていかなければならないよ」  手術前からも何度も聞かされていたことだった。  ただ違うのは、仮定の話から現実の問題となったことであろう。 「とにかく今は、ゆっくり養生して回復をはかることだね」 「はい」
     
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