美奈の日記 30
ほどなく性転換手術の行われる日が近づき、ボクは性転換手術を受ける病院に入院した。
埼玉医大総合医療センターかと思ったのだが、性転換手術の施設の整った別の病院だっ
た。
黒沢産婦人科・内科病院。
それがボクが性転換手術を受ける病院だ。
どこを見回してもごく普通の個人病院のようで、こちらの方が施設が整っているという
のがとても信じられない。
産婦人科というからこの方面では専門分野とも言えない事もないだろうが、埼玉医大に
勝る施設があるなんて疑わしいものだ。
入院病棟は内科の個室ということになった。
手術が手術だけに、他の入院患者との相部屋では都合が悪いから。
病室に荷物を置いて、パジャマに着替えてくつろいでいると、医師と看護師が訪れてき
た。
「やあ、美奈ちゃん。手術は明日だね。心づもりはできたかな?」
医師は明るい声で話しかけてきた。
名前を黒沢英一郎と言って、性転換手術の権威だそうだ。
「その前に聞いてもいいですか?」
「なにかな?」
「やはり、お母さんは助からないんですね」
「お気の毒だが、助からない」
はっきりと断言する黒沢医師。
「そうですか……」
笑顔を絶やすことなくボクに語りかける。
「君のお母さんは、君の将来のために自分の臓器を提供しようと考えていたんだよ。その
遺志を汲んであげなくちゃいけないと思う。お母さんは、君の身体の中で生き続けること
になる。これ以上の親孝行はないと思う」
言っていることは良く判る。
でもやはり抵抗がないといえば嘘になる。
「手術が怖いかね?」
「正直言って、怖いです」
「当然だろうね。でも少しも怖がることはないよ。君は、性転換した先輩達と会っている
だろう?」
埼玉医大総合医療センターでのことを言っているらしい。
お姉さん達は、性転換手術の成功例でもあり、目の前にいる黒沢医師の手腕を全員が認
めている。
「はい」
「なら、彼女達から聞いていると思うが、君の手術も成功させてみせるよ。何も心配する
ことはない」
心配ないと言われても、そう簡単に「はい、そうですか」と納得できるものではないよ
ね。
なにせ腹を切り開いて、内臓をいじくり回すことになるんだから……。
運を天に任せて腹を据えるしかない。
「まあともかく、明日の手術の前には、いろいろと下準備があるから、看護師がこれから
説明してくれる。良く聞いておいてくれたまえ」
というわけで、黒沢医師は退室していった。
残った看護婦さんから、明日の説明を受ける。
手術は午前十時ごろ。
一応朝食抜き。
不安の除去、鎮静、催眠のために麻酔前投与薬を飲んでおく。
手術用の胴着に着替えて待機する。
その他注意すべき項目。
手術の説明を受けて、後は明日を待つだけである。
やはり気が張り詰めていて、夜は眠れないような気がした。
どうせ手術がはじまれば、眠ってしまうのだから、多少の睡眠不足は関係ないかなと思
う。
そして夜は更けていく。
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