美奈の日記 29
インターフォンが鳴った。
話を中断して応答する先生。
『あの……黒沢一家と名乗る方々がお見えです……』
声が上ずっていた。
『あ。な、何をするんですか!』
と、突然。
『きゃはは。先生! 遊びに来たよ!』
スピーカーから甲高い女性の声が飛び込んできた。
『やめてください!!』
『里美! だめよ。看護婦さんが困ってるじゃない』
『由香里、今は看護婦と呼ばずに看護師と呼ぶのよ』
『お願いです。手を離してください』
『いいから、いいから。響子ねえさんからも一言どうぞ』
『診療妨害で逮捕してください。真樹さん』
『放っておいて行きましょう』
頭を抱えて、インターフォンのスイッチを切る先生。
「今のはなんなんですか?」
「あはは……。正直に申しますと、今の声の主は全員性転換手術を受けた女性ですよ」
「性転換手術?」
「それも臓器移植を受けて、妊娠・出産さえできるようになった真の女性たちです。これ
から性転換手術を受ける美奈ちゃんのために、先輩としての意見を聞いてもらおうと呼ん
だのですが……」
「妊娠?」
「そうだよ。美奈ちゃんも手術を受ければ、赤ちゃんを産めるようになるんだ」
「赤ちゃん……」
そう……。つまりママの子宮を移植することによって妊娠が可能になるということだよ。
その後、診察室に現れたお姉さん達から、いろいろな話を聞かされたんだ。
まさに天真爛漫という言葉がぴったりという感じがした。
全員性転換手術を受けているわけだけど、中には自分の意思とは無関係に強制的に性転
換手術を施されたお姉さんもいるらしい。けど、結果的には女性に生まれ変わって良かっ
たと言っている。
共通していることは、それぞれに女性としての生活をエンジョイしていること。
なんといっても結婚して新妻として相手の男性と仲良く暮らしていることが、真の女性
としての生活を確保していることなんだ。
男性としての過去から完全に決別している感がありありと見受けられた。
お姉さん達は、ボクに臓器移植による性転換を受けることを強く薦めてくれた。
脳死状態でこのまま亡くなるのを待つよりは、その臓器を受けてお母さんの分まで生き
るほうが、親孝行に違いないと。
それから小一時間ほどお姉さんと話し合って、ボクは性転換手術する決心をしたんだ。
ママの意思に報いるためにも……。
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