美奈の日記 24
恵美子ちゃんと連れ立って学校へ行く。
一応、女の子同士だから当たり前だけど、時おり男の子と一緒に歩いている女の子を見
ると、なんだか羨ましく感じることがある。
ボクも素敵な男の子がいればいいなと思う。
変に感じるかもしれないけど、ボクはれっきとした女の子の心を持っているんだから当
然じゃない?
それにしても、いつもボクと一緒にいるけど、恵美子ちゃんは、好きな男の子はいない
のかな……。
恵美子ちゃんは、可愛いし気立てもやさしくて、素敵な女の子。
ボクが本当の男の子だったら、ボーイフレンドとして立候補するんだけど……。
あいにくとボクは女の子の心を持っているので、その気は起きないけどね。
お昼休み。
いつものように教室でお弁当を食べる。
そして食後には女性ホルモン剤を飲む。
「ねえ、いつも薬を飲んでるけど、どこか悪いの?」
心配そうに尋ねる恵美子ちゃん。
まさか正直に答えられるわけがないから、
「ちょっと、低血圧ぎみだから……」
と適当にごまかすしかないよね。
「ふうん……。大丈夫なの? 急に倒れたりしない?」
「うん、大丈夫だよ。心配しないで」
やがて放課後となって下校となる。
ボクは、健診とホルモン剤の処方のために赤心堂病院に行かなければならないので、今
日は恵美子ちゃんとは一緒に帰らない。
「また明日ね」
別れの挨拶を交わして、病院のある川越駅へと向かう。
病院までもうすぐというところで、携帯電話が鳴った。
パパからだった。
「大変だ! ママが車に跳ねられて、救急車で病院に運ばれた! 大急ぎで埼玉医大病院
に来てくれ!!」
え! 車に跳ねられた?
「タクシーを使って、すぐに来るんだ」
声が上ずっていた。
どうして……。
そんな事……。
ママが交通事故にあった?
あのやさしいママが?
頭が混乱していた。
「と、とにかく。急いで病院に行かなくちゃ」
考えている余裕などないと思い、すぐさまタクシーを拾った。
タクシーに乗り、埼玉医大へ着くまでの時間。
果てしのない空虚な時間が過ぎていく。
凍りついた時間。
パパは何も言わなかったが、その口調から生死に関わる重大事故らしい事は伝わってき
た。
思うことはママが無事であって欲しい。
その一念だけだった。
埼玉医大に到着する。
玄関に静香さんが待ち受けていた。
静香さんも、パパから連絡を受けたみたい。
ボクは駆け寄って尋ねる。
「ママは?」
「美奈ちゃん……。とにかく病室に案内するわ。お父さんが待っているから、話はその時
に……」
静香さんは答えてくれなかった。
自分で話すよりも、パパの口から聞いて頂戴と言う表情だった。
ボクは黙って頷くと、先に歩み始めた静香さんの後についていく。
病室に到着するまでの間、静香さんは一言も口を開かなかった。
きゅっと唇を噛みしめるように黙って先を行く。
ママの容態に重大なことが起きていることは明らかだと思った。
廊下を歩きながらも、心を落ち着かせるようにしつつも、ママが生きてあることを祈っ
ていた。
やがて静香さんの足取りが止まった。
←
●
⇒
11