美奈の日記 23

 パパが席に着いて朝食のはじまりだよ。 「美奈ちゃん、今日は赤心クリニックに通う日だから、学校の帰りに忘れないでね」 「うん……。わかってるよ」  赤心クリニック。  ボクが、女性ホルモンの注射を受けている病院なんだ。  川越駅のすぐそばにあるから通院には便利だよね。  毎日、錠剤の女性ホルモンを飲んでいるけど、それは補助的なものなんだ。  口から飲む女性ホルモンは、そのほとんどが肝臓で処理されてしまうんだよ。  処理仕切れなかった少量が全身に回って効果を発揮するんだけど、肝臓に負担を掛けて しまうことは否めない。そこで体内(筋肉中)に直接注射するデボ剤を、ほぼ二週間間隔 で注射してもらっているんだ。  正式には、持田製薬のベラニンテボー(持続性卵胞ホルモン製剤/吉草酸エストラジ オール 5mg&10mg)というのがその女性ホルモン剤だよ。  油性溶剤に溶かし込んだ女性ホルモン剤を筋肉中に注射するんだけど、徐々に筋肉中か ら血液に溶け出して効果を発するというものなんだ。経口と違って肝臓を通らない分負担 を掛けないから便利なんだけど……。  やっぱり注射は痛いし、同じところに何度も射っていると筋肉が硬くなってくるので、 毎回場所を変える必要があるんだ。右腕に射ったら次は左腕、その次はお尻……という具 合にね。お尻のときは恥ずかしいよ。  でもテボー剤は種類が限られているし、そうそう何度も射てるものではないよね。そし て女性ホルモンの必要量は、体重とか体調とかによっても微妙に変化するもの、その調整 として錠剤のホルモン剤が処方されて、毎日それを飲んでいるんだ。そしてそれらは生涯 に渡って投与しなければいけないんだ。  身体を女性化する女性ホルモンだけど、それ以外にも全身のミネラル分の調整とかにも 深く関わっていて、投与を止めてしまうと、骨粗鬆症とかになったりするんだよ。  本来なら、ボクのたまたまから分泌されるはずの男性ホルモンも同じような働きがある んだけど、とうにその機能を失っているから、男性ホルモンが分泌されることはないんだ ……。  食事が終わって、会社へ学校へ、それぞれ出発する時間となる。 「美奈ちゃん、車で学校に送って行こうか?」  静香さんが誘ってくれたけど、 「ううん、いいよ。恵美子ちゃんが迎えにきて、一緒に行くから」  やはりお友達とお喋りしながらの方が楽しいものね。  それに学校は、車で行くほど遠いというものでもないし。 「あら、そう。じゃあ、先に行くわね」  と言うと、駐車場に停めてある自分の車に乗って出かけていった。  車のことは詳しくないけど、確か……フェラーリ・テスタロッサ……だったかな。  二千万円以上するとかいう代物で、さすがに外国系企業の社長秘書って感じかしら。  もっとも、ボクにとっては「テスタロッサ」というと……。  アニメの「フルメタル・パニック」のテレサ・テスタロッサだよね。  ……なんて考えていると、 「おはよう! 美奈ちゃん」  恵美子ちゃんが迎えに来てくれた。 「おはよう! 恵美子ちゃん」  というわけで、今日も楽しい学校生活のはじまりだよ。
     
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