美奈の日記 16
しばらくした頃だった。
ピーン! ポーン!
とチャイムが鳴った。
「あら、今時分誰かしら」
ママが席を立って、インターフォンに向かった。
インターフォンは訪問者が誰か、ドアを開けて確認しなくても判るように、TV映像で
確認できる液晶が付いているタイプのものだよ。こういったのは防犯上便利だよね。セー
ルスマンだったり、怪しげな宗教勧誘員とかは、玄関に出ないでお断りできる。
「パパ、静香さんよ」
「茂か……」
「パパ、違うよ。茂じゃなくて静香だよ」
「ん、あ、ああ……」
ママが静香と呼び、パパが茂と呼んだ人……。
パパの実の弟なんだけど、実は性転換して女性になっているんだ。
神林茂というのが本名だけど、性転換した今は静香と名乗っているんだ。
ボクとママは、静香さんを女性として受け入れているけど、パパは未だに抵抗感がある
みたい。
弟として一緒に暮らしてきて、ある日突然女性になって現れたら、誰でも驚くでしょ
う?
こういうのって、やっぱり普通の男性にとっては、近寄りがたいものがあるみたい。
でもね、パパ。
いずれボクも性転換することを忘れてない?
「いや、美奈は小さい頃からずっと女の子として育ててきたから大丈夫だよ。見た目の女
の子が、本物の女の子になるんだし、女の子が欲しかったわけだから」
ということらしいけど、少し心配だな。
「で、今日は何の用で来た」
パパはつっけんどんに尋ねる。
「あら、せっかく美奈ちゃんのために、いい話を持ってきてあげたのに、そんな言い方を
するわけ?」
「美奈ちゃんのことですか?」
ママが身を乗り出してくる。
実は、ボクの性転換手術については、この静香さんに一任しているんだそうだ。
静香さんはタイに行って性転換手術を受けているんだ。
その経験をもとに、静香さんが手術を受けた病院はもちろんのこと、アメリカの病院な
どを探してくれているんだ。
何せ静香さんは、英語が堪能なんだ。
それも日常会話なんてレベルじゃなくて、商用英語までぺらぺら。
何と言っても、某外国系商社の社長秘書をやっているくらい。
外国系商社は、男だから女だからという垣根もないし、性転換者にも門戸は開かれてい
るよ。何せ実力主義の世界だものね。
社長秘書として共に海外へ、あちらこちらの国々を回っていろんな人々と交流を広めて
いるんだ。
その中には性同一性障害者もいる。
そんな人たちから、性転換手術を行っている病院やドクターなんかを聞いているそうだ。
どうせ手術するなら、より高度な技術を持っていて、本物の女性と寸部違わない絶妙な
施術ができる腕利きの医者のいる病院の方がいいものね。
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