美奈の日記 15

 埼玉医大での診察から一週間が過ぎた。  精密検査の結果は良好、後遺症の心配もないでしょうということだった。 「何にしても異常なしで良かったわね」 「うん、そうだね。あ、ママ。そこの軽量スプーン取って」 「はい、どうぞ」  ママが身近にあった軽量スプーンを渡してよこしてくれた。  そう……。  今は夕食の準備中なんだ。  料理は女の子のたしなみだよね。  ボクもご多分にもれずに、ママがいろいろと教えてくれる。  三歳ぐらいから台所で一緒にお手伝いしていたから、我が家の基本的な味付けはすっか り覚えてしまった。 「ママ、こんなものでどうかしら」 「どれ、みせてごらん」  でも、まだま未熟なので、下味の具合をママにみてもらう。  杓子で鍋の中のだしの少量を小皿に取って味見をするママ。  計量カップやスプーンでちゃんと計って味付けしているので、毎回同じ味付けになるは ずだけど、醤油は生き物だから少しずつ変質して風合いが変わってしまうし、人間の舌の 味覚も気温・湿度や体調によって季節ごとに変化する。 「いいわよ。だいぶ慣れてきたわね」 「うん」  魚を三枚に下ろしたり、大根のかつら剥きとか、包丁を手際よくさばいて調理するのも お手のものだよ。  パパが帰ってくる頃には、夕食はできあがっている。  後は食卓にお皿を並べて、パパの帰りを待つだけである。  最近の家庭というものは父親不在の食事が当たり前のようになっているらしいけど、う ちではちゃんとパパと一緒にお食事をとることが日課となってる。パパから「遅くなるか ら、先に食べてなさい」と連絡がこない限り、帰るまで夕食はお預けだよ。  こんな風景は今時めずらしいでしょう? 「おなか減ったね」 「もうじきにお帰りになるわよ」 「うーん……。早く帰ってこないかな」  ボクのおなかはもうぺこぺこだった。 「ただいま!」  あ、パパだ。  帰ってきた!  玄関まで出迎えに行く。 「パパ、お帰りなさい」 「おう、美奈か。ただいま」 「早く、食事にしようよ」 「あはは、さては腹ペコだな」 「あたり!」 「判った。早速食事にしよう」  パパと一緒に、食堂へ。 「お帰りなさい。あなた」 「おう。美奈のお腹が鳴っているようだ。すぐに食事にしてくれ」 「はい。用意はできておりますわ」  というわけで、家族団らんの食事がはじまった。 「精密検査の結果が出たよ」 「どうだった?」 「異常なしだって。後遺症もでないだろうって」 「そうか、良かったな」  夕食と食後の憩いの時間がパパとお話ができる。  できるだけ、その日にあったことなんかを教えてあげるんだ。  パパもちゃんと聞いてくれるよ。  親子の断絶というものは、ボクの家庭では無縁だよ。  ごく自然になんでもパパとお話ししている。  小さい頃からそうしていたからね。
     
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