美奈の日記 13

「処方箋もらいにきたの?」 「ううん。今日は別の用事なの。授業中にサッカーボールが頭に当たって、精密検査を受 けるんだ」 「あらまあ、それはたいへん! 大丈夫?」 「うん。たぶん、大丈夫だと思うけど、念のためにね」 「そっか……。でも女の子でも体育でサッカーやるの?」  理香さんとは仲良しになってるから、ボクが女の子として生活していることや学校に通 っていることを話してあるんだ。 「違うよ。女子は跳び箱だよ。サッカーやってた男子の蹴ったボールが当たったんだよ」 「運が悪かったのね。体育の授業は気をつけないとね」 「そうだね」  それから理香さんと他愛のない話をしながら時間を潰していると、 「神林美奈さん! どうぞ」  女性看護師がボクの名前を読み上げるのが聞こえた。 「ボクの番だよ。それじゃあね」 「ええ、また会ったらお話ししましょうね」 「うん。じゃあ、またね」  理香さんと別れて、診察に入っていく。 「やあ、美奈ちゃんじゃないか? 今日は予定に入ってなかったよね」  話しかけてきたのは、ボクの主治医となっている先生だった。もちろんジェンダー治療 担当だよ。 「いえ、今日は精密検査を受けにきました」 「精密検査?」 「実は、学校の体育でサッカーボールが後頭部に当たって脳震盪で倒れたんです。それで 念のために頭部の精密検査を受けた方がいいと先生がおっしゃって」 「なるほど、それは大変だね。脳震盪を起こしたというのなら、やはり精密検査を受けた 方が間違いないよ。ちょっと待ってください。放射線画像診断部に連絡を取ってみます」  というと、先生は内線電話を掛けて放射線画像診断部というところに連絡を取りはじめ た。  たぶん、空いているかとかを聞いているんだろう。 「神経精神科の坪井です。画像診断したいんですけど、空いていますか。え? 一杯です か……。何とかなりませんかね。十二歳の可愛い女の子なんですよ。はい……後頭部にサ ッカーボールを受けて脳震盪を起こして精密検査で外来に来ているんですよ。ほんとに可 愛い女の子ですよ……。そ、そうですか。ありがとうございます。恩にきます、はい」  先生の会話が聞こえている。  なんか……ずいぶん「可愛い女の子」ってところに力を入れているけど……。  男心に働きかけて、むりやり希望を押し付けようという魂胆らしい。  だとしたら、女の子というのも役得なのかもしれないね。  でもやっぱり、耳がこそばゆい……。 「今連絡したら、一応予定で一杯だそうですけど、二時間後になら何とか診断できるとの ことですが……。待ちますか?」 「二時間待ちですって、どうする? 美奈ちゃん」 「うん。二時間くらいなら待ってもいいよ」  この病院の三階にはカフェテリアもあることだし、二時間くらいならそれほどたいくつ はしないよね。 「ということですので、先生よろしくお願いします」 「判りました。もう一度連絡いれて予定に入れておいてもらいます」  そう言って、また内線電話で予約を伝える先生だった。
     
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