美奈の日記 12
ちょっとまずいんじゃない?
精密検査を受けるとなれば、本当は男の子だということが、お医者さんにバレちゃうよ。
そして学校側にも報告されるだろうなあ。
これまではたいした病気にもならなくて、病院通いすることはなかったんだ。
ただ女性ホルモン剤を処方してもらうために、産婦人科にはおせわになっているけど、
そこはママがボクを産んだ病院で、親戚でもあったから事情を理解してくれていて、黙っ
て薬の処方箋を出してくれていたんだ。
でも産婦人科じゃ、精密検査は受けられないし……。
困った事態になったわ。
ママが迎えにくるというけど……。
どうするのかなあ。
ママが車で迎えに来てくれた。
「先生から電話があって、びっくりしちゃったわ。美奈ちゃん、大丈夫なの?」
「うん……。たぶん、大丈夫だと思う」
「そう……。でも一応、ちゃんと診察受けておきましょうね」
「でも、診察受けると……」
「ああ、それなら心配いらないわ。これから行くところは、埼玉医大総合医療センターだ
から」
「なんだ、埼玉医大か」
埼玉医大ならボクのいつも通っている病院だよ。
「安心した?」
「まあね……」
「そういうわけだから。美奈ちゃんが本当は男性であっても、ちゃんと女性として扱って
くれて、学校のほうにも善処してくれることになっているの」
「そうなんだ」
「さあ、着いたわよ」
埼玉医科大学総合医療センター。
トランスジェンダー治療では、日本では最も有名な所なんだ。
とある性同一性障害者の女性を、男性へと性転換手術した日本で最初の病院だってこと
は知ってる?
埼玉医大ジェンダークリニック委員会というのがあって、性同一性障害者の人々の治療
にあたり倫理的に認められるものかを慎重に検討されてはじめて性転換手術を行うという。
倫理的社会的に性転換手術を認められた最初の病院なんだ。
実は、ボクの性転換手術にあたっては、一応ここの病院で受けられるように受診してい
るんだけど、順番待ちがとても多くて何年かかるか判らないし、実際に手術を受けられる
かどうかも保証できないそうなんだ。日本の病院では倫理問題が厳しすぎるんだよね。だ
からボクの手術も一応ここはリザーブしておくけど、実際は海外で行うことになりそうだ
って、パパが言ってた。
それから、ジェンダー治療にあたっては、セカンドオピニオンとして「赤心クリニック
(赤心堂病院)」が推奨されていて、ボクの飲んでいる女性ホルモンもここでもらってい
るよ。
受付で診察手続きを終えてしばらく待合室で待つことにする。
「美奈ちゃん、こんにちは」
後ろから誰かが話しかけてきた。
振り返ると知っている人だった。
「あら、理香さん。こんにちは」
「お久しぶりね」
「うん、そうだね」
理香さんは、ジェンダー治療を受けているボクと同じ人なんだ。
この病院は、ジェンダー治療の最前線だから、関東一円からジェンダーの人たちが集ま
ってくるんだ。いつの間にか仲良くなった人の一人だよ。
この理香さんはとっても綺麗な人で、とても男性だなんて信じられないよ。
女性ホルモン歴は三年だそうで、たまたまも取っちゃってるらしいんだ。
だからもうすっかり女性的な身体つきになってる。
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