美奈の日記 4

 からりと戸が開いて、先生が入ってきた。  タイトスカートのスーツをきっちりと決めて、しなやかそうなロングな髪を後ろで リボンで止めている。  しかし……。なんて綺麗なの?  みんなも息を呑むほどにため息ついているよ。 「みなさん、席について」  先生の一声で、一同がそれぞれの席に戻っていく。  それから先生は黒板に向いて、チョークを取って何かを書き始めた。  どうやら名前のようだね。  本条美津子。 「今日からみなさんの担任を務めることになりました本条美津子です。国語と女子の 保健体育を教えています。よろしくね」  と、にっこりと微笑んだ。  うっとりするくらいのやさしい微笑み。 「よろしくお願いします」 「それでは早速、みなさんの自己紹介を聞きましょうか。席次順でいきましょう。安 藤友彦さんからね」 「ええ、いきなり俺からかよ。ま、いいかあ」  席次は男の子から順番に並んでいる当然だよね。  立ち上がって次々と自己紹介していくクラスメート達。  男の子が終われば、女の子の番になる。  順々に自己紹介が回って、とうとうボクの番だ。 「神林美奈です。……。よろしく、お願いします」  当たり障りのない言葉で締めくくってボクの自己紹介は終わり。  まさか、 「実は、男の子なんです!」  なんてことは言えないよね。  クラスメートをだます事になるけど……。  しようがないよね。  恵美子ちゃんも自己紹介を終えたようだ。  女の子は、みんな名前と出身校くらいで済ませていた。 「はい。自己紹介が済んだところで、クラス委員を決めましょうか」  と、平然といいのける。  保健委員とか風紀委員とかいう、聞こえはいいが、早い話が先生達の使い走りにさ れてしまうというやつだよ。 「ええ? やだあ!」  クラスメートのほとんどが拒絶反応の声を上げた。  当然だよね。  誰だって委員なんてやりたくないよ。  新学期の最初の委員は、クラスの成績順に先生側で勝手に決めてしまうことも多い らしい。  先生は黒板に全クラス委員リストを書き込んでからみんなに提案する。 「できれば、自主的に名乗り出て欲しいですね。実は先生側で決めたリストがここに あるのですが、そんなのいやでしょ?」  そりゃそうだよ。  成績で決められては、後々しこりも残るというもの。 「まずは自薦からはじめましょう。誰かやってもいいという人はいらっしゃいます か?」  誰も手を挙げない。  ひっそりと静まり返ってしまったよ。 「しようがないですねえ……。船渡正平君」  と、突然一人の男の子を名指しした。  正平君って、誰?  ついさっき自己紹介を聞いたばかりだけど、覚えちゃいないよ。 「なんすか、先生」  その男の子が立ち上がった。  これといって特徴のない、飄々とした感じの男の子。 「あなた、小学校では生徒会役員を数期務めていたわよね」  え?  うそ……。  そんな活発な男の子には見えないけど。  それともみんなから担ぎ上げられてしようがなく?  よくあるんだよね。  自己主張のない子が委員を押し付けられて断りきれずにしかたなくやっているって こと。 「まあ……そうすっけど」 「どう? クラス委員長、やってみない?」 「俺がっすか?」 「そうよ」 「別にかまわないっすけど……」  やっぱり頼まれたら断りきれない性格の子みたいだ。  先生も先生だよね。  いきなり委員長に指名しちゃうなんて。 「じゃあ、お願いするわね」 「いいっすよ」  って、いとも簡単に承諾しちゃう男の子だよね。  それにしても変わった喋り方する子。
     

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