美奈の日記 2

 四月は卒業・入学の季節だよね。  とりもなおさずボクもこの四月から新中学一年生になったよ。  真新しい制服に袖に通すと気分も一新。  もちろん女の子の制服だよ。  お食事を終えると、 「はい。お薬よ」  と、錠剤ケースを出してくれた。 「うん……」  それを受け取って、ケースを開けて今朝の分を飲む。  これは抗男性ホルモン剤と女性ホルモン剤とが配合されたものなんだ。  ボクは男の子だから、放っておくとひげが生えたり、野太い声変わりしたり、筋骨隆々 の体格になってしまうんだ。  それを防ぐために、男性ホルモンの分泌を防ぐ抗男性ホルモン剤と、女の子らしくする 女性ホルモン剤が必要なんだ。  そのおかげで男性化することはなかったし、ちょっぴり胸も膨らんできたんだ。  AA65のブラジャーが丁度いいくらいになったよ。 「それじゃ、行ってきます」  玄関にまで見送りに出てきてくれたママに挨拶していると、 「あら、あそこから来るのは……」  とママが見つめる方向から、ボクと同じ制服を着た女の子が近づいてくる。  相手もボクに気がづいたらしく、足を速めてまっすぐこちらに向かってくるんだ。 「あの子知ってる?」  ママが尋ねるが、見たことがない女の子だったよ。 「ううん」  相手の制服も真新しく、ボクと同じ新一年生のようだね。 「おはようございます」  女の子が、挨拶を交わしてきた。 「お、おはよう」  ボクも返事をする。 「おはよう。あなたも、栄進中学校ね」  ママが挨拶を返しながら、女の子に尋ねると、 「はい。深川恵美子といいます。はじめまして」  深々とおじぎをする恵美子と名乗った女の子。  にっこりと微笑みながらもボクをずっと見つめていた。 「この娘は神林美奈よ。仲良くしてあげてね」 「はい!」 「あなたの家、近いの?」 「はい、あの二つ目の辻を右に少し行ったところです」  と指をさしながら案内している。 「まあ、じゃあすぐそばということじゃない。小学校はどこだったの?」 「市立第二小学校です」 「この娘は、私立の双葉女子小学校だったのよ」 「そうですか、こんなに近くに住んでいるのに、公立と私立じゃお互いを知らないわけで すね。行く方向が逆ですもの」 「でも、今日からお友達になれそうね」 「はい」  まったく屈託のない恵美子ちゃんだった。  そから他愛のない挨拶的な会話を交わしてから、 「そろそろ、行きなさい二人とも」  ママが促した。 「はい。行きましょう。恵美子さん」 「はい。行きましょ、美奈さん」 「行ってきます」 「行ってらっしゃい。仲良くするのよ」  恵美子ちゃんが話しかけてきた。 「あたしのこと、恵美子って呼び捨てにしていいわよ。だからあなたのことも、美奈って 呼んでいいよね」 「え……?。うん、いいよ」 「よかった。新入そうそう新しいお友達ができるなんて幸先がいいわ。しかも家がすぐそ ばなんだもん。あなたの家はわかっているから、帰りにあたしの家を教えるわね」 「うん」  こうして知り合った女の子、同じ中学校に通うことになった深川恵美子ちゃんと一緒に、 学校へ向かうことになったんだ。
     
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