特務刑事レディー・特別編
(続・響子そして)

(二十)囮捜査 「響子さんを監禁していた人たちはどう?」  響子さんの手術が終わった翌日、敬に会って確認してみる。  今回の響子さん救出作戦は、敬が取り仕切ったのと女性の監禁ということで、警察 側が容疑者を取り調べることとなっていた。  容疑は、覚醒剤所持と女性監禁及び暴行傷害罪である。 「だめだな……。口が堅すぎて、黒幕のことは一切口に出さないぜ」 「それで……、響子さん。覚醒剤を射たれて、その……やられちゃったの?」 「ああ、間違いない。彼女の身体から男の精液が検出された。これで響子さんが死ん でしまったら、間違いなく死刑が求刑されるところだ。刑法第220条と221条、 第227条、そして第241条だ」 「241条は、響子さんが自ら投身自殺したのだから、違うのじゃない?」 「投身自殺じゃないだろ。逃げ出そうとしての転落事故だ。逃げ出さなければ廃人に されてしまう。監禁され、唯一の逃げ道はそこしかなかった。十分241条の適用範 囲だと思うぞ」 「なるほどね。敬にはしては、よく勉強してるじゃない」 「あのなあ……。俺は警察官だぜ。司法警察官の真樹ほどじゃないが、刑法のすべて を把握はしていないが、自分の管轄するところの条文くらいは知ってるさ」 「ふんふん♪ よろしい」 「あのなあ……」 「それで、磯部健児のことは一切だめ?」 「ああ、奴らが磯部健児と関わっているのは間違いないのだが。頑固に口を割らな い」 「そうか……。せっかく逮捕したのに」  これまでにも、健児と関わっていそうな人物を何人も捕まえているのだが、いずれ も頑なに口を閉ざしていた。  何せあの政界にも顔の利く財界のドン、磯部京一郎氏の甥っ子なのだ。その血筋を 背景に銀行からの融資も多く、中でも海運業においてはかなりの営業収益を上げてい る。だがその裏では麻薬覚醒剤の密輸入の総本山と言われている。あまたの暴力団が 彼を匿うのも当然といえた。 「いっそのこと、どこかのビルの屋上から奴を狙撃でもするか?」 「それ! いいわね。いつやるの?」 「あほ……。本気にするな」 「なんだ、冗談なの、つまんないわね」 「まあ、何にせよ。奴を直接挙げるのはほとんど不可能だ。周囲から少しずつ囲い込 むようにして追い込んでいくしかない」 「健児の周囲の人間から落としていくわけね。局長みたいに」 「そうだ。それに、俺達が公安委員会に申請している、例の件さえ通れば少しは動き やすくなるからな」 「特務捜査課ね」  警察・麻薬取締部・税関・海上保安庁・各都道府県など、麻薬銃器等の密輸・密売、 及び売春や人身売買(密入国)に関わる取り締まり機関はさまざまあるが、縦割り行 政のなんたるかという奴で、それぞれ独自に捜査を執り行なって横の連絡は皆無に近 い。複数の機関が連携しての検挙の例もあるが、その実績は少ない。  その弊害を説いて、以前から上層部に上申していた「特務捜査課」の設置があった。 前任の生活安全局長に握り潰されてしまった件である。  今回麻薬取締部と警察との連携によって、覚醒剤取り引きと売春斡旋を行っていた 暴力団組織員を逮捕に至ったことで、具体的な話が進展しつつあった。この件に関し ては麻薬銃器取締課の課長さんが熱心に動いてくれているそうである。感謝!