純愛・郁よ

(二十一)猛特訓  性転換手術は無事に終わりました。  しかし、郁にとってこれからが本番と言ってもいいでしょう。  性転換者には絶対やっておかなければならない事。  膣拡張です。  そのための器具を持って、郁の病室に向かいます。  郁は、わたしが入ってきたのも気がつかない様子で、生まれ変わったその部分を手 鏡で見つめていました。 「どう、女の子になった気分は」 「あ! お母さん」  あわてて手鏡を隠し、まくし挙げていたネグリジェを降ろしました。 「ああ、そのままでいいわよ。やることがあるから」 「やること?」  サイドテーブルにその器具を広げます。細いのから太いのまで数種類あります。 「なに、それ?」 「これはダイレーターと言って、膣を広げるためのものです」 「膣を広げる?」 「人造膣は、放っておくと狭まって使い物にならなくなるの。だから毎日、これを使 って膣を広げてあげないといけないのよ」 「そ、そんなことしなくていいよ」  何をされるかを知って、郁の顔が蒼くなっていきます。 「あ、お母さん、何するのよ」 「いいから、じっとしてなさい。力は抜いているのよ」  わたしは、先生から教わった通りに、ダイレーターを郁の膣に差し入れていきまし た。 「い、いたあーい!」 「なに言ってるんですか、たったこれくらいの太さで」 「痛いんだから、しようがないもん」 「武司さんの、奥さんになるために手術を決断したんでしょ」 「こんなに痛い目にあうなんて、知らなかったわよ」 「とにかく続けますよ。この太ささに慣れたら、もっと太いのに変えていきますから ね」 「い、痛いよ。抜いてよ。お願い、お母さん」 「だめです! 」 「こんなに痛い目にあうなら、もう女になりたくない! 男にもどるう」 「今更、遅いわよ。もう戻れないんだから」 「じゃあ、自殺しちゃうよ」  郁が苦しむのを見るのはしのびない。しかし、男でもない女でもない中途半端なま ま生きていくわけにはいかないのです。真の女性に生まれ変わらせるには躊躇してい てはいけないのです。女性の人生には、生涯苦しみがつきまとう。生理の苦しみ、初 体験の苦しみ、出産の苦しみ、そして更年期障害の苦しみ。  女性になるための最初の試練。母親として退くわけにはいかないでしょう。 「しのごの言ってないでないではじめますよ」 「ひえー。鬼、鬼、鬼」 「あなたの将来のためなら、鬼にでも何にでもなりますよ」  膣拡張具による猛特訓の日々が続きます。泣きわめく郁を説き伏せ、次第に太い器 具へと取り替えていきます。 「さあ、今日からは先生からいただいた、一番太い奴に挑戦するわよ」  郁はその太さに尻込みします。 「そ、そんなに太いの入らないよ」 「この太さが男性の標準なのよ。 「武司はそんなに太くないわ」 「嘘、おっしゃい」 「ほんとよお」 「どっちにしても、これがすんなり出し入れできるまでは退院できませんからね」 「やだあー」  ゆっくりと奥まで押し込みます。 「痛いよお。抜いてえー」 「いいから。そのまま動かないで五分我慢してなさい」 「五分も我慢できないよ」 「だまらっしゃい!」  これまでの郁の反応を眺めていて、ふと疑問が生じました。  夫婦生活をしているなら、夜の営みがあるはずです。郁は男の子だから、肛門を使 った性行為をしていると思っていました。体内に異物を挿入される行為に慣れていれ ば、こんなにも拒絶反応を示さないはずです。  ふと今日までどうしていたのか、知りたくなりました。 「ところで、これまではどうやって処理してたの?」 「処理って?」 「性欲の処理よ。男の人って、定期的に処理してあげないと、欲求不満になるわよね。 知ってるでしょ?」 「うん。男の人ってしないとたまるんだって。夢精しちゃうって言ってたよ」  もちろん郁も男の子ですから、本来ならあるはずですが、女性ホルモンと睾丸摘出 で、男性の機能は完全に消失しています。 「どうしてたの?」 「あのね……。あたしが、お口でしてあげてたんだ」  まあ、それは当然だと思いました。男のそんな生理を知れば、何とかしてあげよう と思うのは、自然のことでしょう。 「それから?」 「……? それだけだよ」 「もっと他のことしなかった?」 「どんなこと?」 「たとえば、あなたのお尻の穴におちんちんを入れようとしなかった?」 「やだ、そんな不潔なことしないよ。あたしオカマじゃない。武司だってホモじゃな いよ」 「ほんとに?」 「ほんとよ」 「清廉潔白なのね」 「あたりまえだよ。武司は清純だよ」 「へえ……そういうこともあるんだ」  とても信じられませんでした。  強い心と心で結ばれているのだと確信しました。  はじめてお会いした時に語ったあなたの言葉が思い出されました。 『僕は、郁さんのやさしい性格や表情、その女性的な心に惚れたんです。姿形が男で あるとか女であるかとかは関係ありません。もし許して下さるならば、生涯郁さんと 暮らしていきたいとも思っています』  あれは本当の言葉だったのです。郁をただの性行為の相手としてではなく、生涯の 伴侶として真の愛でやさしく包み込んでいらっしゃるのだと。 「郁。あなた、ほんとに素敵な男性と巡り合ったのよ。決して離れないようになさい」 「当然よ。あたし達、生涯を共にするって誓い合ってるんだから……。ねえ、いい加 減、これ抜いてよ」 「だめ!」 「ああん。死んじゃうよ」 「さ、続けますよ」 「ひえーっ」
     
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