妻に変身した男の話(10)

「入金を確認したぜ。成功報酬は、その内容によって変わるぜ。で、誰を殺せばいいん だ?」  美智子はかねてより考えていたことを話した。 「わたしの夫を抹殺してほしいのよ」 「旦那か……。保険金でも掛けているのか? いや、聞くだけ野暮だな。こっちは報酬さ え貰えれば結構だ」 「夫を殺すと言っても、殺す相手が違うのよ。橋の下や公園内で野宿している浮浪者かな んかを、夫に仕立て上げて交通事故かなんかを装って殺してもらいたいのよ」 「なるほど、判ったぜ。すでに旦那はあんたが殺してしまったんだな。その罪から逃れる ために、事故を装って浮浪者に身代わりになってもらおうというわけだ」  さすがに感の鋭い相手である。  弱みをみせれば、つけこまれる。  毅然とした態度で応対しなければ。 「どう? 請け負って貰えるかしら」 「いいだろう。夫に見せかけるには身分証明書かなんかを持たせる必要があるぜ」 「運転免許証ではどう?」 「それで十分だ」 「後で夫でないことがばれたり、事故に疑いが掛けられるようじゃ困るわよ」 「大丈夫だ。絶対にばれないようにしてやる」 「成功報酬は?」 「そうだな、一千万円だ」 「判ったわ」 「だが、いいのかよ。旦那の免許証を渡したりしたら、あんたの素性も判る。それをネタ にゆすることもできるんだぜ」 「その時は、自分に運がなかったと諦めるしかないわね」 「殊勝な心意気だな」 「それで、いつやってくれるの?」 「そう急ぐこともないだろう。こちらにもそれ相応の下準備が必要ってもんだ。身代わり に殺す相手の素性も調べなきゃならん。身寄りのないのは当然のこと、身体のどこかに明 確な手術痕があったりしたらだめだからな」 「虫歯の治療痕から調べられたり?」 「死因に疑惑が掛けられたら徹底的に調べられるだろうが……。心配するな、そんなどじ は踏まねえよ。完璧に事故として処理されるようにしてやる」 「まかせていいのね」 「ああ、そうだな。あんたは、海外旅行にでも出かけているといいさ。事故当日に海外に いたことが証明されれば、万が一にもあんたに疑いがかけられることはない」 「そうね。そうすることにするわ。でも、海外旅行となると、こちらもパスポートの取得 とか、休暇届とかいろいろやらなければならないから」 「そっちの準備が整って、海外渡航が決まったら、例の場所からメール打ってくれればい い。そしたら一週間くらいで実行に移してやる」 「判ったわ」  こうして、殺人計画は始動した。  ターゲットに選ばれる浮浪者には申し訳ないが、人のためになるなら本望でしょう。  それにしても、海外旅行である。  ただ、のんびりと観光地巡りをしている場合でもないだろう。 「そうだわ。いっそのこと性転換手術しちゃいましょう」  女性ホルモンで、かなり女性化しているとはいえ、股間には未練がましくぶら下がって いるものがある。  この際、海外の病院で手術を受けて、より真に近い女性に生まれ変わるのだ。  そうと決まれば、性転換手術をやってくれる病院探しである。  一般的に考えられるのは、タイかアメリカが本場だろう。  英語ができるということで、アメリカに決めた。  早速インターネットで検索を入れて、手術をしてくれる病院を探し当てた。  本来なら相当の順番待ちを要求されるところだろうが、美智子にはいくらでも金がある。  通常の3倍の料金を支払うことで、すぐにでも手術をしてくれる手はずを取った。  性転換手術だけでなく、豊胸手術や美顔形成術も予約した。  妻の写真を持参して、そっくりに仕立て上げてもらうつもりだ。  以前から妻に似ているとは良く言われていたが、より完璧を求めたほうが良い。
     
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