妻に変身した男の話(9)

『どのようなご依頼でもお引き受けいたします。ご用命は連絡先を明記して、メールにて 送ってください』  という文字があって、その下にメールボックスがあるだけだった。  詳しい依頼内容は、後日何らかの連絡を向こうから取るということだろう。  美智子は、このために用意した使い捨ての携帯電話の番号を書いて、メール送信した。  後は向こうからの連絡を待つだけである。  その連絡はすぐにあった。  当然のごとく非通知ではあったが、どうせ非合法に手に入れた使い捨ての携帯からに違 いない。数回使用したら廃棄するのだろう。 「○○商会です。ご連絡ありがとうございます」  野太い声が受話器を通して耳に届いた。  ○○商会といったって、架空のものだろう。 「当社では、いかなるご用命でもお受けいたします」 「殺人でも……。ですか?」 「もちろんでございます。殺人ですね、担当に変わりますので、少々お待ちください」  殺人担当ね……。  どうせ、覚醒剤を売りたいとか言っても、結局同じ人物が出るに決まっている。 「代わったぜ、人を殺したいのか?」  いきなりぶっきらぼうな応対だった。  まあ、丁寧な言葉使いなら、変に疑われると思っているのだろう。 「はい、そうです」 「なら手付金として、まず百万円を銀行振込してもらおうか。それも今日中だ」  といって銀行口座名を伝えてきた。 「入金を確認したら、また連絡する」  といって、いきなり回線が切れた。  終始威圧するような口調。  今日中か……。  おそらく振り込め詐欺と同様の非合法な口座で、差し止めを食らう前に素早く金を引き 出すつもりだ。  だが、言われた通りに振り込んだとしても、折り返し連絡をよこしてくるか保証はない。  やらずぶったくり。  金だけ受け取って、はいさよなら。  ということもありうる。  資産家の美智子にとって、百万円くらいは小遣い銭である。  美智子の銀行口座には毎月のように百万円の振込みがあり、預金残高も1億円を超えて いた。  これは美智子の祖父が送ってよこしてくれるもので、資産家という実情は、祖父のこと を意味していた。  とはいえ、祖父が亡くなれば莫大なる遺産が入ってくる。  事実上の資産家といっても構わないだろう。
     
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