第二十章 タルシエン要塞へ
V  サラマンダー、作戦会議室。  アレックス、ゴードン、パトリシアにジェシカ、そしてレイチェルが集まっている。  タルシエン要塞攻略について最後の詰めを行っているのであった。 「どうだ、例の物の仕上がり具合は、ジェシカ」 「はい。ダミー実験を繰り返して安全性に万全を期するように念入りな微調整が行わ れています」 「うん。乗員の訓練のほうはどうだ。ジェシカ」 「工作員は問題ないとして、一応操艦手としてはジミーとハリソンのうちのどちらか、 射手をジュリーにやらせております」 「射手をジュリーにまかせるのか?」 「射撃の腕はジミーにもひけを取らないですよ彼女は」 「そうか、君がそういうなら」 「ところで提督自らが要塞に侵入されるそうですが、お考えを改めなさいません か?」  ジェシカがパトリシアの方を見つめながら尋ねる。 「私が行かないでどうする」 「生きて帰ってこれないかも知れないんですよ」 「だからこそ私が行かなければならないのだ」 「そうおっしゃってカラカス基地にも突入されましたね」 「どんな状況変化が起きるかもしれない作戦において、迅速かつ正確に事態収拾する ためには、作戦のすべてを知り尽くした私の他に誰が行くというのだ」  パトリシアは俯いている。アレックスの意思が固く、いかにパトリシアでもそれに 異論を唱える立場にないからである。 「判りました。提督がそこまでおっしゃるなら、もはや私達の差し出口を挟む余地は ありませんね」 「うん。いつも済まないと思っているが……」  と、レイチェルの方を見つめながら、 「特に今回は、部外者である天才技術者を一人連れて行く。彼との信頼関係をなくし たくないのだ」 「天才システムエンジニアですよね?」  皆の手前そういうことにしているが、事実はネット犯罪という裏舞台で暗躍する 「闇の帝王」、ジュビロ・カービンその人である。間違っても天才ハッカーなどとは 明かすことはできない。  フリード・ケースンという人物が身近にいるから、他にも天才と呼ばれる者がいて も不思議ではないと思う一同だった。  その本人は、作戦開始までは特別室でくつろいで貰っている。仲間内ではない艦隊 の乗員とは距離を置きたいだろうとの配慮である。  五人委員会にて最後の確認事項が取り交わされた後に、改めて少佐たちを加えた作 戦会議が招集された。 「別働隊として投入する部隊は、第六突撃強襲艦部隊及び第十一攻撃空母部隊。この 私が率いていく」  第六突撃強襲艦部隊はその名の通りに、かつての士官学校時代の模擬戦でも活躍し た強襲艦を主体とした白兵戦部隊である。攻撃よりも防御力と速力に主眼において、 目的の場所に速やかに到達して任務を遂行する。 「それぞれの指揮は、ゴードンとジェシカに任せる」 「了解した」 「判ったわ」 「今回の作戦は、本隊が要塞への攻撃を敢行注意を引きつつ、別働隊の要塞への接近 を容易にすることにある。しかも寸秒刻みの正確さで速やかに作戦を遂行しなければ ならない。そのために別働隊を率いる私に代わって、作戦の詳細を熟知しているパト リシアを総参謀長とし、艦隊の指揮をカインズ大佐に任せる」  ため息をつく一同だった。  パトリシアが解説に立ち上がった。 「タルシエン要塞は、このシャイニング基地に相当する堅固な敵最前線基地です。全 艦挙げての総攻撃とし、シャイニング基地の守備は、基地の自動防衛システムに委ね ます。基地を空にすることになりますが、先の基地攻防戦のことから、敵も容易には 手出しはできないと思われます。タルシエン要塞はバーナード星系連邦と共和国同盟 を繋ぐ橋を守る橋頭堡です。第十七艦隊が攻略に向かったという情報は、すでに向こ うにも流れていると思います。それを知らされれば敵側も要塞の死守に専念するより なく、シャイニング基地攻略の余裕はないでしょう」 「出撃は四十八時間後だ。将兵達には交代で休息を取らせておくように。以上だ、解 散する」
     
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

小説・詩ランキング

11