第二十章 タルシエン要塞へ
U 「さてと……」  ゆっくりくつろいでいる時間はなかった。  タルシエン要塞攻略に向けての本格的作戦を始動させねばならなかった。 「私のオフィスに、ゴードン、パトリシア、ジェシカ、そしてレイチェルを呼んでお いてくれないか」  かつて五人委員会と呼ばれた人員から、スザンナをレイチェルに替えたメンバーで ある。 「わかりました」 「リンダ、後を頼む」  当然指名されて驚いているリンダだった。 「え? わたしですか?」 「何を驚いている。旗艦の艦長なら、戦闘態勢以外の艦隊の指揮を執るのは必然だろ う。指揮官コードは教えただろう」 「で、でもお……突然言われても」 「いいな。任せるぞ」  と言い放って艦橋を退室してしまう。 「ど、どうしよう」  残されておろおろとしているリンダ。 「艦長、指示をお願いします」  オペレーターの一人が指示を請うた。 「し、指示って?」 「オニール大佐を迎えるための舟艇を出すんでしょう?」 「そ、そうだけど……」 「指示がなければ出せませんよ」 「え、え? 待ってよ」  舟艇を出すくらいなら指揮官でなくても、艦長の権限で指示を出せるのだが、極度 の緊張にすっかり忘れている。  そんな状態のリンダに呆れ返った表情でフランソワが言った。 「艦長、指揮官席にお座りください」  その口調には、あんたに艦隊の指揮なんかできないでしょ、といった皮肉にも聞こ える響きがあった。 「ねえ、フランソワ。あなたが指揮を執ってよ」 「何を言っているんですか、指揮を任されたのは艦長ではないですか。勝手にわたし が指揮を執るわけには参りません」  今は戦闘態勢ではないから、フランソワよりリンダの方が上官であり、優先権を持 っていた。例え戦闘態勢だったとしても、司令官の命令が優先するので、指揮を任せ ると指示されたリンダが指揮を執るしかない。 「もう……」 「とにかく……指揮官席にどうぞ」  腹立ち気味のフランソワだった。  自分ではなくリンダに指揮を任せたことに少し憤慨していた。 「う、うん」  おっかなびっくりで指揮官席に腰を降ろすリンダ。 「ええと……どうするんだっけ、フランソワ」 「あのねえ! まずは指揮官登録を行ってください」 「指揮官登録ね……ええと確かこうして……」 『戦術コンピューター。貴官の姓名・階級・所属・認識番号をどうぞ』 「やったあ! コンピューターにつながったよ」 「つながって当然です。コンピューターの指示に答えてください」  いらいらしているフランソワ。いい加減にしてよという表情である。 「ええと……リンダ・スカイラーク大尉、サラマンダー艦長、認識番号G2J7-3201」 『サラマンダー艦長リンダ・スカイラーク大尉を確認。指揮官コードを入力してくだ さい』  アレックスから伝えられた旗艦艦長に与えられる指揮官コードを入力するリンダ。 『指揮官コードを確認。リンダ・スカイラーク大尉を指揮官として認めます。ご命令 をどうぞ』 「これでいいんだよね?」  フランソワに確認するリンダ。 「ふん!」  ぷいと横を向いてしまうフランソワ。 「リンダ・スカイラーク大尉です。提督の命により指揮を執ります。シャトルを出し て、ウィンディーネにいるオニール大佐を迎えに行ってください」 「了解。シャトルを出します」  シャトル口が開いてシャトルが出て行く。 「シャトル、出ました」 「うん……それからね」  としばらく考えてから。 「セイレーンのリーナ・ロングフェル大尉を呼んでください」 「了解。セイレーンに繋ぎます」  すぐにセイレーンのリーナがスクリーンに映し出される。 「ロングフェル大尉です」 「リンダよ。お久しぶり」  やっほー、といった感じで手を振っている。 「あなたねえ。何考えているのよ」  呆れた表情のリーナ。 「あはは……怒ってる?」 「当たり前じゃない。それで、どんな用なの?」 「用って……、セイレーンの様子を知りたかったから」 「あのねえ。職権乱用じゃないの? いくら指揮を任されたからってね」 「まあ、いいじゃない」 「良くありません」 「ロザンナは元気?」 「元気です! そんな事はどうでもいい事です」 「替わってくれる?」 「あなた、人の話を聞いてないでしょ」 「ええとお……今、艦隊の指揮を執っているのは誰だったかなあ」  わざとらしく答えるリンダ。 「ううっ……」  どんなお調子者でも、指揮官席にいる限りその命令は絶対である。  戦術士官のリーナと言えども、相手が一般士官だったとしても、旗艦の指揮官席に 陣取るリンダの指揮に逆らうことはできなかった。  苦虫を潰したような表情になり、ロザンナに繋ぐリーナだった。 「はい。ロザンナ・カルターノ中尉です」 「どう、艦長の任務には慣れた?」 「はい。前艦長に負けないように頑張っております」 「うん。その調子で頑張ってね」 「はい」 「リーナに替わって」  再びリーナに切り替わった。 「気が済みましたか?」  つっけんどんに答えるリーナ。 「うん。ごめんなさいね。また連絡するわね」 「結構です!」 「じゃあね、ばいばい」  通信が切れ、どっと疲れた表情のリーナ。 「あんな調子で、艦隊の指揮を執ったらどうなるんだろね」  今更にして、サラマンダーの艦長推薦に同意したことを後悔するリーナだった。  いつまで経っても、リンダには頭を抱えることになりそうであった。
     
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