第二十章 タルシエン要塞へ
W  作戦会議から四十八時間後。  アレックス率いる別働隊が、シャイニング基地を出撃していく。 「別働隊、重力圏を離脱しました」  サラマンダー艦橋では、パトリシア以下のオペレーター全員が、パネルスクリーン に投影された艦影に向かって敬礼していた。  ご武運を祈ります……必ず戻ってきてください。  心の中で、作戦の成功を祈るパトリシアだった。仮に要塞の攻略に失敗しても、無 事に生還してきて欲しいと切に願うのだった。 「カインズ大佐、時間です。私たちも、出撃しましょう」 「判った」  艦隊の指揮のためにドリアードからサラマンダーに移乗してきていた。全艦隊の指 揮ともなれば、艦隊運用オペレーター士官の揃っている旗艦サラマンダーの方が好都 合だからである。 「全艦隊に告げる。これよりタルシエン要塞攻略に向かう。全艦出撃開始!」  シャイニングに残る艦は一隻もいない。  全艦挙げての総攻撃である。 「進行方向オールグリーン」 「微速前進!」  戦艦フェニックス艦橋。  出撃の指揮を執るチェスター大佐がいる。 「亜光速航行へ移行します」 「旗艦サラマンダーに相対速度を合わせろ」 「相対速度、旗艦サラマンダーに合わせます」 「亜光速、八十パーセントに到達」 「各艦に異常は?」 「ありません。全艦異常なし」 「よし。そのまま進路と速度を維持」 「進路及び速度そのまま」  ふうっ。  とため息をついて、指揮官席に沈むように座りなおすチェスター。 「全艦、順調に進撃中です」  副官のリップル・ワイズマー大尉が報告する。 「輸送艦、サザンクロスとノースカロライナは?」 「ちゃんと着いてきていますよ」 「そうか……。今回の作戦の要だからな」 「次元誘導ミサイルですね」 「ああ……」 「ほんとにそんな性能があるのでしょうか? 極超短距離ワープミサイルなんて」 「あの天才科学者の発明品だからな」 「フリード・ケースン少佐ですね」 「P−300VX特務哨戒艇のことを考えれば冗談とも言えないだろう」 「そりゃそうですけど……。何にしても、我々の任務がその次元誘導ミサイルを積載 した両艦の護衛任務ですからね。二万隻でたった二隻を守るなんて、馬鹿げていると 思いませんか?」 「そうとも言えんだろう。要塞を内部から破壊できる唯一の攻撃手段だ。当然と言え ば当然だろう」 「性能通りでしたらね」 「信じるしかないだろう。何せミサイル一基が戦艦三十隻分の予算だ」 「しかし、提督が少佐に任命された当初から、ケースン少佐に開発を命じていたと言 うじゃないですか。今日あることを、その時から計画していたということですよね」 「先見の明があるということだな。提督は一歩も二歩も先を読んで行動している。要 塞攻略を命じられてから行動すれば、その準備に最低でも一年は掛るというのに、た った三日で出撃開始だ」 「普通なら考えられませんね」 「そうだな……まあ、提督に従っていれば間違いはないさ」 「だといいんですけどね」  サラマンダー艦橋。 「全艦、ワープ準備にかかれ」  指揮官席から指揮を執るカインズ。 「全艦、ワープ準備」 「ワープ航路設定及び入力完了」 「ワープ航路データを艦隊リモコンコードに乗せて伝達する。全艦、ワープ設定を同 調、確認せよ」  スクリーン上の艦影が次々と赤から青へと変わっていく。 「全艦、ワープ設定同調確認。ワープ準備完了しました」 「よし! 全艦ワープ開始」 「了解。全艦ワープ!」  一斉にワープを開始する艦隊。  艦影が揺らいだと同時に次々と消えていく。
     
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