第十九章 シャイニング基地攻防戦
V  もはやかごの鳥、絶体絶命の状態へと進展していく。 「これまでかな……」  降伏するなら早い方が良い。  そう思い始めた頃だった。  第八艦隊を包囲殲滅しようとする敵艦隊の後方に新たなる艦影が現れたのだ。 「敵艦隊の後方に新たなる艦影確認」 「敵の援軍か」 「違います。味方艦隊! すでに敵艦隊と戦闘状態に入ったもよう」 「なに!」 「識別信号、第十七艦隊旗艦サラマンダーを確認」 「ランドールか!」  味方の援軍の到着で、一斉に歓声があがる艦橋内。 「援軍が到着したぞ!」 「ランドール提督が救援に来てくれたんだ」 「これで一対一の互角だ」 「いや、ランドール提督が敵艦隊の背後をとっている。こちらのほうが絶対有利だ」 「勝てるぞ!」  口々に叫んで意気あがる乗員。  これまで艦橋内を覆い尽くしていた暗雲が、きれいさっぱりと消滅していた。 「よし、攻撃に転ずる。全艦全速前進して攻撃。敵は動揺している。集中砲火をあび せてやれ」 「はっ。全艦全速前進」 「砲撃開始」  全員の顔色が見る間に活気に溢れていく。常勝不滅のランドール艦隊の到来で、全 滅の不安は一掃され、士気は最高潮に達して小躍りして反撃開始の戦闘態勢に臨んで いた。 「提督。敵を挟み撃ちにして勝てそうですね」 「それもこれもランドールが救援にくれたおかげだ」 「しかし、シャイニング基地のほうはどうなっているのでしょうか」 「わからん。いくらランドールでも三個艦隊を撃滅したとは思えないが……」 「それに時間的に早すぎます。敵艦隊と交戦してこちらに来るには時間的に不可能で す」  一方背後を取られて窮地にたたされた連邦艦隊。指揮するは連邦軍第十七機動部隊 司令官F・J・フレージャー少将である。 「敵艦隊の所属は、第十七艦隊と判明」 「何だと!? 第十七艦隊はシャイニング基地の防衛にあたっているのではないの か?」 「情報は確かなはずですが……」 「では、なぜあいつらがここにいるのだ」 「そ、それは……。シャイニング基地を放棄してこちらに回ってきたと考えるべきで しょうが……」 「それにしても、俺が戦う相手はいつもランドールだな。今回は違う相手と戦えると 思っていたのにな」 「艦隊番号も同じですからね。めぐり合わせですかねえ」 「ミッドウェイやカラカス奪回作戦では撤退を余儀なくされて、せっかく第七艦隊の 司令長官に抜擢されたというのに、あいつのおかげで古巣のこの機動部隊に出戻り だ」 「ですが、バルゼー提督やスピルランス提督のように艦隊を壊滅させられて捕虜にな るよりはいいでしょう」 「ことごとく撤退してきたからな」 「ですよね……」 「仕方が無い。今回も撤退するぞ」 「命令を無視するのですね? また降格の憂き目に合いますよ」 「今は敵味方同数の艦隊ながらも挟み撃ち状態で、しかも背後を取られた相手はあの サラマンダー艦隊だ。勝てる見込みのない戦いを続けるのは無意味だ。全艦を立て直 して撤退する」 「わかりました」 「いないはずの第十七艦隊がここにいる。情報が間違っていた以上、作戦命令も無効 になったと考えてもよいだろう」 「閣下がそうお考えになるのなら」 「ま、ランドールがこちらに来ているということは、シャイニング基地を放棄してこ ちらの救援に回ったと考えるべきだろう。となれば、シャイニング基地はすでに我々 の味方の手に落ちていると考えるのが妥当だ。その基地があれば侵攻作戦に支障はな いだろうさ。無理してクリーグ基地を落とす必要もない」 「そう言われればそうですね」 「と、納得したならば。速やかに撤退するぞ」 「はっ!」
     
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