第十九章 シャイニング基地攻防戦
U  一方、クリーグ基地では、フランク・ガードナー准将の第八艦隊六万隻が、約二倍 の十三万隻の敵艦隊に包囲されていた。  旗艦ヒッポクリフの艦橋で指揮を取るフランク。 「全艦、砲撃準備」 「敵艦隊二十一宇宙キロまで接近。まもなく艦砲の射程内に入ります」 「シャイニング基地からの連絡は?」 「ありません。依然として通信途絶」 「うーん、なんだろうなあ……。連絡がないとはおかしいぞ。距離的にあちらの方が 先に敵艦隊と接触するはずだし、アレックスなら、何かしらの情報を送ってくれても いいのだが」 「完全に無線封鎖している模様です」 「うーん。情報が欲しい」  腕組みをしながらスクリーンを見つめているフランク。 「それにしても敵は約二倍の勢力……いつまで持つかな」  部下への手前、声にこそ出さないが、この状態では完全に負け戦になることは明白 だった。無論部下だってそれくらい知っている。それでも黙って自分についてきてき てくれていた。自分を信頼してくれている部下を持って、司令官として感激ひとしお である。この第八艦隊の司令官として赴任してきた時から、何のトラブルもなく前司 令官からの引継ぎが行われたのは意外だった。 「やはりニールセンから疎まれている同じ第二軍団という仲間意識があるようだ。そ して軍団を統率するトライトン少将の配下でもあるからだろう。だからこそ、一人で も多くの将兵を助けたいのだが……」  戦わずして逃げ出す手もあった。  しかしそれでは第八艦隊という名に汚名を着せることになる。前任者が守り続けて きたものを失いたくなかった。  最後の最後まで諦めずに戦い、その中に勝機を見つけて突破口を開く。それがフラ ンクの身上であり、ここまで昇進してきた実績もそこにあった。 「俺はランドールと違って逃げるのは嫌いだからな」  思わず呟いて苦笑するフランク。 「どうなされました?」 「いや何でもない」  首を傾げていぶかる副官には、フランクの心情は伝わらないようだ。  スクリーンに投影されている敵艦隊のマークが赤く変わった。 「敵艦隊。射程内に侵入!」  艦橋内の空気が緊迫感の最高に達した。  一斉にフランクの指示を待って待機するオペレーター達。  腕組を外し、右手を前方水平に差し出すようにして命令を下すフランク。 「全艦攻撃開始!」  と同時にオペレーター達が一斉に動き出す。 「全艦攻撃開始!」 「艦首ミサイルを三十秒間一斉発射。その直後に艦載機全機突入せよ」  同盟側の攻撃開始とほぼ同時に敵艦隊も攻撃を開始した。  全艦から一斉に放たれるミサイル群が、敵味方の艦隊の中間点で炸裂し、華々しい 明滅の光を輝かせていた。 「艦載機、全機突入せよ」  敵艦隊に向かって勇躍突撃する艦載機。  戦闘開始から五分が経過した。  ヒッポクリフの艦橋にて、形勢不利な情勢に心境おだやかでないフランク。  周囲を写している映像の中の味方艦船が被弾し、炎上や撃沈されていく模様が繰り 返されている。  オペレーター達の艦船や戦闘機への指示命令や報告の声が次々と聞こえてくる。 「戦艦ドナウ、撃沈」 「重巡ボルガ、被弾にて戦闘不能」 「粒子ビーム砲、エネルギーダウン。再充填にかかります」 『こちらカミングス。弾薬を撃ち尽くした。これより一旦帰還する』 「カミグストン編隊へ。帰還を承認した。急ぎ帰還せよ」 「了解、これより帰還する」  敵機の追撃をかわしながら、母艦へと帰還するカミングス編隊。 「高射砲、艦載機を援護射撃だ」  帰還しようとするカミングス編隊の後方から追撃する敵機に対し、レーザーパルス 砲による援護射撃が開始された。一斉掃射を受けて次々と撃墜されていく敵艦載機。 その間にカミングス編隊は次々と母艦へ着艦していく。 「状況はどうか?」 「何せ数では、二対一ですからね。いつまで持ち堪えられるか」  士気の低下を招く弱気な発言をする副官に対して、叱責の言葉をためらうフランク だった。  敗北への道を突き進んでいるのは明白な事実であり、それを覆すだけの手段もない からである。  敵艦隊の布陣が両翼に徐々に広がってきていた。数に勝るために、完璧な包囲陣を 敷いて、脱出不可能にするためである。それに従って側面からの攻撃も始まりつつあ った。
     
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