第十九章 シャイニング基地攻防戦
W  サラマンダー艦橋。 「提督。敵艦隊が撤退をはじめました」 「意外に速い決断だったな。どうやら敵も私がシャイニングを放棄したことを察知し たのだろう。とすれば無理してこちらに固執する必要はないからな」 「どうします。追撃しますか」 「その必要はない。敵を追いやるだけで十分作戦目的は果たした。後はガードナー提 督にまかせる。それより転進準備にかかれ」 「かしこまりました」 「司令官は、フレージャー少将のはずですね。ハンニバル艦隊撃退の時のカラカス基 地からの速やかなる撤退が印象的でした。それとミッドウェイもでしたね」 「フレージャーか……。確かレキシントンを撃沈された叱責から、ミニッツから出さ れていた中将への進級申請を、キングス宇宙艦隊司令長官によって却下されたらしい がな」 「レキシントンはキングスがかつて艦長をしていたらしいですからね」 「愛着のある艦を沈められれば責めたくもなるだろうさ。だが司令官として、私情を 持ち込むようでは戦いには勝てないだろうさ。まだ確かな情報ではないが、そのキン グスも作戦部長兼宇宙艦隊司令長官を更迭されるらしい」 「提督。ガードナー提督からです」 「ん。繋いでくれ」  スクリーンにフランクが現れた。 「よく、来てくれた……といいたいが……おまえ、シャイニング基地はどうした」 「はあ、たぶん、今頃占領されているでしょうねえ。ま、これから奪還に向かいます よ」 「おい、おい。大丈夫なんだろうなあ……。こっちの助太刀をしてくれたのは感謝す るが」 「私が、ただで明け渡すと思いますか?」 「思わんな」 「置き土産として、トロイの木馬を置いてきました」 「トロイの木馬か……今度はどんな罠を仕掛けたんだ?」 「それは後のお楽しみということで。急ぎますんで失礼します。提督は敵艦隊が引き 返してきた時に備えていてください」 「わかった。ま、頑張りな」 「では」  アレックスは敬礼して、通信機のスイッチを消した。 「シャイニング基地に戻るぞ。全艦、全速前進で向かえ」 「全艦、百八十度転進。コース座標設定α235、β1745、γ34。シャイニン グ基地へ、全艦全速前進」  ゆっくりと方向を変えて元来た進路に戻るランドール艦隊。  旗艦ヒッポグリフの艦橋では、スクリーンに映る去りゆくランドール艦隊の雄姿を、 ガードナーが頼もしそうに見つめていた。 「提督。ランドール提督がトロイの木馬と言われておりましたが、どういう意味です か」 「古代地球史にあるホメロスのイリアスという叙情史の中に記述がある。かつてトロ イの城塞を攻略するのに、ギリシャ人は中の空洞に兵士を潜ませた木馬を、贈り物の ように見せかけてまんまと城塞に侵入。夜中に兵士が木馬から抜け出して、城門を開 け放してこれを攻略した、という話しだ」 「つまりシャイニング基地が木馬というわけですな。基地に罠をしかけておいて撤退 し、わざと占領させる。しかしそこには……という算段ですか」 「そういうことだ。ただし、この戦いはイリアスに記述があるだけで、史実かどうか は明確な証拠が出ていないので疑問視されている。それにしてもだ……。ランドール に二度も助けられるとはな」 「ミッドウェイ宙域会戦以来ですか」
     
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