第十六章 交渉
Ⅲ  タルシエン要塞。  指揮官席に腰かけて、要塞砲の修理状況をモニターしているスティール・メイスン中将。  要塞を建造したのが連邦であり、要塞砲の技術者も当然存在するので、手際よく作業がなされてゆく。 「共和国同盟から、使節団往訪の許諾が下りました」  副官のクランシス・サックス中尉が報告した。  第一副官のマイケル・ジョンソン中佐は、バーナード本星に残って内政に勤しんでいる。 「そうか。意外と決断が早かったな」 「私は、統一の余波を買って連邦への侵攻を考えていたのですが」 「それはないな」 「どうしてですか?」 「統一とはいっても、表面上だけだよ。残り火がまだまだくすぶっている状態だからね。それを放っておいて、欲望のままに行動すれば足元を掬われるだろう。まずは内政をしっかりとして地盤を固めるのが先決だ。逆侵攻の余裕などない」 「なるほど」 「それよりも、講和の手続きを始めよう。人選を頼む」 「かしこまりました」  一方のアレックスもシャイニング基地に到着して、和平使節を迎える準備に入っていた。  基地司令部秘書​官のシルビア・ランモン大尉と打ち合わせを始める。  彼女は、アレックスが少佐となってこの基地に司令部を置いた時からの秘書官である。当時は少尉だった。 「連邦側より、タルシエン要塞から使節団が出発したとのことです。交渉人が二十名、事務方を含めると約二百人です」 「手際が良いな」 「前もって準備していたのでしょう」 「こちらは間に合うか分からんな。ともかく体裁だけでも整えておこう」 「待機要員も総動員して、大会議場の設営を行います」 「そこのところよろしく頼むよ」  武官であるアレックスには、会場づくりなどのことは文官に任せるしかなかった。  同盟側の参列者を誰にするか。  どういう儀式にするか。  壇上の署名台の設置方法。  客席をいくつ用意し、どのように配置するか。  アレックスには、いくら考えても思いつかないだろう。  壇上に置ける両国の位置関係は、連邦側が上手(stage left)になるのが常識だろうが。 「上手ってどっちだ?」 「オーケストラでピアノが置いてある方が下手(stage right)ですよ。だから客席から見て、右側が上手です」 「そうか……勉強になったよ」  というアレックスとパトリシアの会話があったらしい。  惑星シャイニングに近づく艦艇があった。  スティール・メイスン率いる和平交渉の一団である。 「あれがシャイニング基地ですか?」 「ああ。私もこの目で直接見たことがないがな」 「この星を攻略するには、五個艦隊必要だとされていますが、本当でしょうかね」 「そんな数値など意味がないさ。ランドールは、偽装大型ミサイルで潜入して数十名の兵だけで、この要塞を陥落させてしまったくらいだからな」 「確かにそうですけど、あれは特殊な例でしょう」 「シャイニング基地より入電。入港進路のデータが送られてきました。表示します」  正面スクリーンに、基地を覆う全天空シールドの一部が解除されて進行ルートが表示された。 「上陸用舟艇の準備が整いました」
     
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