第十六章 交渉
Ⅳ  シャイニング基地の中でも最大規模であり、第十七艦隊司令部の置かれているターラント軍港。  バーナード星系連邦の和平交渉使節団の乗ってきた艦艇が停泊しており、機首には両国の国旗が掲げられている。  降り立つ使節団と、迎える共和国同盟の文官達。  案内されて軍港そばの庁舎へと入っていく。  まずは事務方による事前折衝と協定書への署名が行われるはずだ。協定書は八部あり、その内の七部がここで署名調印される。  やがて首長らによる和平調印式が始まる。  軍団音楽隊が奏でる厳かな曲が流れる中、大会議場正面壇上へと、両袖から入場する両国の使節団。  袖口の所で一旦停止し、客席に向かって一礼してから、中央へと進んでいく。  中央で立ち止まって、挨拶を交わす両者。 「共和国同盟最高司令官アレックス・ランドールです」  と手を差し出すアレックス。 「バーナード星系連邦革命総統スティール・メイスンです」  握手に応じるスティール。  アレックスにとって、スティールは顔を知らぬ謎の人物であったが、目の前にして意外と若いなと感じていた。もっとも自分の方がさらに若いのであるが。  そして何よりもエメラルド・アイの持ち主であることに畏敬の念を抱いた。  一方のスティールの方では、アレックスの外形から人となりを常に諜報したいたのだが、直接自分の目で見る限り平凡な男にしか見えなかった。 「和平交渉団往訪をお受けくださり感謝致します」 「こちらこそ。願ってもない要請でした」 「こちらは銀河帝国マーガレット第二皇女、特別立会人として招聘致しました」 「なるほど、一応第三者の立場ということですね」  この場におけるアレックスの立ち位置は、あくまでも共和国同盟としての立場であり、銀河帝国皇太子という立場は忘れてもらうことにした。  着席しての調印がはじまる。  協定書が交わされて、両者の署名がほどこされた後に、マーガレットが立会人の署名をして調印が完了する。  そして再び握手を交わして、式典の終了を労う。  場内に沸き起こる拍手の渦。 「お疲れさまでした。控室にてご休憩をどうぞ」  と案内するアレックスだった。 「それは宜しいですが、一つお願いがあります」 「お願いですか? 控室でお聞きしましょう」  場所を控室に移しての会談がはじまる。 「実はですね。この和平交渉に懐疑的な連中がいましてね。共和国総督軍が破れて、連邦軍は追い出されたのにと恨むのです」 「つまり、このままでは内紛になるかもしれないと?」 「早い話がそういうことになります。自分としては、これ以上の戦争は自殺行為だと思っているのですがね」 「では、どうしろと?」 「彼らを納得させるには、やはり戦ってみせるしかありません」 「戦う? 和平交渉はどうなりますか?」 「いやいや、戦争しようというのではありません」 「?」 「ここは一つ、自分と貴官とで一対一の決闘をしましょう。もし自分が勝てば彼らも納得するだろうし、貴官が勝てば諦められるというものです」  突拍子もない提案に、しばし考えていたが、 「いいでしょう、その提案受けて立ちましょう」 「ご決断ありがとうございます。一度、貴官と一戦したかったのです。先ほどの話もYESの言葉を引き出すための口実でした」 「なるほど、よく分かります」  それから一対一の決闘の打ち合わせが始まった。 第十六章 了
     
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