陰陽退魔士・逢坂蘭子/第二章 夢幻の心臓
其の漆
「尾行の下手な人だ。ちょっとからかってみますか」
呟くと、さっと素早く路地裏に身を隠した。
すると撒かれてなるものかとばかりに、大急ぎで駆け出してくる。そして路地裏に駆け
込むと、
「いてて、痛い!」
待ち構えていた蘭子に、羽交い絞めを掛けられて、うめき声を上げた。
腕を振りほどこうとするが、完全に決まっていて抜け出せるものではない。
「どうして私を尾行するのですか? どうやら警察官のようですけど」
「そうだ。常時目を離さず監視するように、上から命令されている」
「命令したのは、刑事課長でしょう」
「それは言えない。それより早く腕を解きたまえ。でないと公務執行妨害になるぞ」
「あら、構いませんわよ。その変わり私も強硬手段に訴えるだけです」
「強硬手段?」
「大声で悲鳴を上げればいいだけです。下校時間だから、大勢の女子高生の野次馬が集ま
ってきますわよ」
「馬鹿な。私は警察官だぞ。上の命令で君を監視していた警察官だぞ。女子高生の証言な
ど誰が信じるか」
「そうでしょうか? 最近の警察官の腐敗は良く知られているじゃありませんか。飲酒運
転で交通事故を起こしたり、出会い系サイトで知り合った少女を集めて売春させたり、電
車内痴漢やストーカー行為など不祥事が絶えませんよね。それにあなたは学校の校門前で、
大勢の人々に不振がられていた。そんなあなたが、ストーカー行為を働いたって不思議と
は思われないでしょ」
「冗談じゃない!」
大声で否定する刑事。
自分は純朴なる公務員だと言いたそうな表情である。
そんな輩に限って不貞を働いたりするものだが。
「いいでしょう。いつまでも付きまとわれるのは侵害ですので、連続変死事件の真犯人に
会わせてあげましょう」
「知っているのか? 真犯人を」
「知っていますよ。あの夜、血の滴る心臓を手にした女性を見かけたのです。しかし後を
追おうとしたところに、あなた方警察官に取り押さえられてしまったのです」
「それは済まない事をした。しかしこういうことは、警察に任せて欲しいものだ。民間人
に踏み込んでもらっては困るし、身の危険にもなる」
「皮膚に傷一つ付けずに心臓を抜き取られるという不能犯に、手をこまねいているのは警
察の方ではありませんか」
「では、君なら解決できるというのかね」
「できますよ。なぜなら犯人は人間ではないからです」
事実をありのままに証言する蘭子。
「人間じゃないとはどういうことだ」
「まあ、とにかく。犯人に会いに行きましょう。すべて判りますよ」
ここで議論してもしようがないし、納得させることはまず不可能であろう。
実際に事実を突きつけてやった方が、解決は早い。
「いいだろう。会いに行こうじゃないか」
というわけで、早速あの土塀の続く屋敷へと向かったのである。
途中、警察官一人の手に余るということで、上司の井上刑事課長も同行することになっ
た。
土塀のある屋敷に着いた。
あたりはひっそりと静まり返り、不気味なくらいであった。
予定では蘭子一人で乗り込むはずだった。
蘭子の着ている制服を見れば、同じ高校だと判るはずだから、クラブ活動なり生徒会の
意向で見舞いに来たと言えば、通してくれるだろう。
だが同行の警察官が問題だった。教諭と偽るには眼光が鋭すぎる。
「まあ、何とかなるでしょう」
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