陰陽退魔士・逢坂蘭子/第二章 夢幻の心臓
其の陸
「被疑者を取り押さえたと聞くが」
と取調室に入ってきたのは、警視の階級章を付けた警察官だった。おそらく警察署長と
思われる。
「なんだ。女の子じゃないか」
蘭子と刑事課長との表情を見比べて、しばし考えてから言った。
「その女の子を帰してさし上げなさい」
「どうしてですか? 今夜も被害者が出て、すぐそばを歩いていたんです。被疑者もしく
は重要参考人として」
「馬鹿もん! だからと言って年端もいかない子女を、こんな夜遅くに取調室に監禁など
もってのほかだ。現行犯逮捕でもない限り、許されるものではない」
「しかし、署長……」
「言い訳無用だ。今すぐ車で送ってあげなさい。パトカーはだめだぞ。覆面で送ってや
れ」
まだ何か言いたそうな刑事課長だったが、渋々従うよりなかった」
覆面パトカーで自宅まで送られた蘭子だったが、自室に戻りふと窓の外を覗くと、覆面
パトカーがまだ止まっていて、中から刑事がこちらを窺っていた。どうやら張り込みされ
ているらしい。
翌日、学校へ通学する蘭子。
そのはるか後方を、何者かが尾行を続けている。もちろん蘭子が気づかないはずがない
が、素知らぬ顔をしている。
「おはよう、蘭子」
「おはよう」
クラスメート達が朝の挨拶を交わす。
教室に入り外を見ると、校門で立ち尽くす尾行者がいる。
ここは治外法権みたいなもので、さすがに尾行者も校門から中へは入ってはこれない。
「今朝のニュース見た?」
「見た見た。例の連続変死事件でしょ」
「昨晩のことよね。怖くて夜道を歩けないわ」
「早く犯人が捕まって欲しいわね」
女子高校生たちの話題はもっぱら変死事件のことばかり。挨拶代わりに交わされるほど
に、日常的となっていた。学校側も無関心でいられるわけもなく、女子生徒のクラブ活動
は日のある間だけで、日が沈む前に帰宅しなければならない。教諭達による校内巡回も当
番製で実施され、女子生徒が残っていれば、速やかなる帰宅を促していた。
授業中の間、尾行者は校門前で張り込みを続けているが、不審者扱いされ学校関係者や
通報を受けてやってきた警察官から、しばしば訊問を受けていた。その度ごとに平謝りし
ながら胸元から手帳を出して見せていた。
放課後、授業を終えた蘭子は、学校の方針に従って、所属する弓道部の練習を中止して、
真っ直ぐ自宅へ帰ることにした。校門には尾行者の姿は見られなかったが、どうせどこか
に隠れているのであろう。さすがに大勢の女子生徒が一斉に帰宅する時間帯は、校門前に
は張り付いていられないというところだろう。
歩き出してしばらくすると、やはり尾行者が付いてくる。
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