陰陽退魔士・逢坂蘭子/第三章 夢鏡の虚像
其の肆 「そうでしたか……。犠牲者の方々は、すべて鏡と対面した直後に亡くなられたのです か?」 「いや、数ヶ月生きていた例もあるよ。しかし、まるで認知症のようになってしまったり、 ヒステリーを起こして自殺したり、何日間も高熱で苦しんだりいろいろあるが、結局最後 には死んでしまったよ。私が知っている事と言えばこんなところだ。とにかくかなり古く からこの学校にあったみたいだが、生徒はもちろんだが教諭たちも人事異動や退職で、ど んどん入れ替わって事件があってもいずれ忘れさられてゆく。そんな時にポッカリと現れ て事件を起こしている感があるな」 「良く判りました。お伺いした内容は参考にして対応策を検討してみます。では、鏡は大 切にお預かりします」 「うむ。よろしく頼むよ」 「それでは失礼します」  深々とお辞儀をして校長室を退室する蘭子。  とにかく大急ぎで取り掛からなければならなかった。  道子が鏡と対面し、【人間にあらざる者】に取り憑かれた可能性が高かった。そしてい ずれは死に至り、鏡の中に取り込まれてしまう。  クラスメートをそんなことにはさせたくなった。  似たような事例が他にないか、対処法はあるのか調べねばなるまい。  となれば、土御門屋敷の祖母にあって相談するしかないだろう。  土御門屋敷は学校からほど遠くない所にある。  表門玄関は、立派な神社の境内をかなりの距離を通り抜けていかねばならぬので、近道 である裏門から出入りするのが日常である。 「お邪魔しまーす」  勝手知ったる祖母の家。遠慮はいらぬ。  まずは挨拶をするために祖母の部屋に伺うことにする。  礼儀にうるさい祖母なので、障子の前に正座して声を掛ける。 「蘭子です」 「入ってよいぞ」 「失礼します」  許可を得て、両手を添えて片側の障子を静かに開ける。  中に入ったら、同じような動作で障子を閉めるのだ。  祖母は、目ざとく蘭子の持参した鏡を見て言った。 「ただならぬ物を持ってきたようだな」 「はい。今日はこの鏡のことでご相談に伺いました」  鏡のカバーを外して、祖母の前に差し出す蘭子。 「どうやら魔鏡のようだな。しかも妖魔が封じられていたようだ。今は解放されて自由に 出入りができるようだ。鏡面に光を当てて反射光を、そこの白壁に映してみよ」  障子を開けて日光を取り入れ指示通りに行うと、白壁に文様がくっきりと映し出された。  魔鏡は、日光などの平行線的な光を反射させると、表面にはないはずの像が投影される 銅鏡である。鏡面には目には見えないほどの微細な凹凸があり、これが光を乱反射させて 文様を浮かび上がらせるのである。  鏡面を磨く時、一定以上の薄さまで鏡を研磨すると、手の圧力によって鏡面がしなり、 版画のように裏面の文様が表面に凹凸を生じさせるのである。 「奇門遁甲八陣図か……。これは本来、退魔鏡として魔を封じるために製作されたのだろ うが、長い年月の間に鏡の面に微妙な傷や歪みを生じ、魔を封じる力が減少して魔が解放 されたのであろう。この妖魔は鏡を媒体として、鏡の中の世界と現実の世界とを行き来し ているようだ」
     
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