梓の非日常/第二部 第四章・峠バトルとセーターと(四)暴走族再び
2021.05.24

続 梓の非日常・第四章・峠バトルとセーターと


(四)暴走族再び

 放課後になった。
 城東初雁高校校門前にたむろする多種な制服を纏った女子生徒たちがいる。
 教室の窓辺から覗き見る梓と絵利香。
「ねえ。あれ、梓連合の人達じゃない?」
「その梓連合ってのやめて欲しいな」
 梓連合とは、スケ番グループの青竜会と黒姫会が統合されてできた新しいスケ番グループであるのだが……。
「梓ちゃんがどう思うとも、お竜さんやお蘭さん達は、聖者のようにあがめているんだから」
「よけいなお世話なんだけどな」
「ほらほら。いつまでもああやって校門前を塞いでいたら迷惑になるでしょ。あなたが行かないとどうしようもないのよ」
「わかったわよ」

 梓が校門前に出て行くと、早速お竜以下の幹部クラスのスケ番が駆け寄ってくる。それぞれ各学校で番を張っている女子生徒達である。
「梓さま!」
「一体何なのよ」
「はい。お蘭が暴走族グループに連れ去られました」
「お蘭が? 暴走族グループに?」
 何かいやな予感がした。
 暴走族といえば、慎二と峠に出かけた時に出くわしたグループが思い起こされる。
 それに暴走族グループからお蘭を助けたら、また新しい信奉者が増えそうである。
「最近、勢力を伸ばしつつある新興グループで、コンビニでたむろしてたところにお蘭達が出くわして一悶着になったらしいです。その時は火花散らしただけで済んだんですが、一人でいる時に襲われて連れ去られました。奴ら、梓様のことをどこかで聞きつけたらしくて、助けたくば梓様を連れてこいと」
「まったくどいつもこいつも……」
 結局、自分自身が出て行かなければ収拾がつかないだろうと考える梓。
「で、どこへ行けばいいの?」
「正丸峠のガーデンハウスです。正丸レディースとか称して、峠の走り屋を自負している奴らがたむろしている所です」
 やっぱりあいつらかな……。
 仕返しのために梓を探し回っていたのかも知れない。
「なんか……勝負を挑まれそうな雰囲気ね」
「となれば俺の出番だな」
 と、どこからともなく現れる慎二。
「おまえは用心棒の沢渡!」
 お竜が叫ぶ。
「誰が、用心棒じゃ!」
「おまえに決まっておろうが、でなきゃ腰巾着だ」
「よくもまあ……。それより、梓ちゃん。正丸峠の暴走族といえばあいつらじゃないのか?」
「慎二もそう思う?」
「他に心当たりはないだろう?」
「まあな。しかし、それがどうしてお蘭さんを拉致していったのかな。そもそも喧嘩しかけたのは、慎二だろうが。慎二が付け狙われるのなら判るけど」
「あのなあ……。要するに、一緒にいた梓ちゃんが、この近辺でスケ番張ってることを知ったからじゃないか?」
「誰がスケ番じゃ! あたしは、そんなものになった覚えはないぞ」
「梓ちゃんがそのつもりはなくても、周囲がそう見ているということよ」
 絵利香が入ってきた。
 今まで訳が判らず聞き役に甘んじていたのである。
「もうしようがないわね。で、その正丸峠に、あたしが出向けばいいのね」
「はい」
「判ったわ」
「梓ちゃん! だめよ。どうして梓ちゃんが行かなきゃならないの?」
「そこに峠があるからよ」
「馬鹿なこと言ってないでよ」
「あは、ともかくあたしが来るのを待ってるらしいから行かなきゃ。お蘭さんを解放してもらうためにもね。絵利香はおとなしく待っていてね」 
「もう……結局、また取り巻きが増えることになりゃなきゃいいけど……」
「どうぞ、お乗りください」
 青竜会幹部が用意した車に乗車を促すスケバン達。
 促されるままに車に乗る梓。
 青竜会そして黒姫会に続くスケ番グループに加えて、新たに正丸レディースが追加されそうな予感がする絵利香だった。

 慎二とデートした正丸峠に向かう梓達。

 正丸峠の入り口に暴走族がたむろし、他車を侵入させないように封鎖していた。
 停車させられる梓の乗った車。
「おまえの顔には見覚えがある。真条寺梓だな」
「そうよ」
「峠でリーダーがお待ちだ」
「リーダー?」
「行けば判るよ。それから他の奴らは侵入禁止だ」
 と聞いて、メンバー達が興奮して一触即発状態になった。
「待って! 騒ぎを大きくしないで。あたし一人でも大丈夫よ。あなた達はここで待っていて」
「で、ですが……梓さま」
「いいから」
 メンバーを抑えて一人峠に向かう梓だった。
 ここで乱闘してもしようがない。
 すべては峠にいるリーダーとかいう人物が握っているのだ。
 おとなしく従った方が良いに決まっていた。
「この俺はどうかな?」
 慎二が前に出てきた。
「お、おまえはあ!」
 瞬時にして自分を倒した相手を思い出した暴走族だった。
 しかし、さすがに飛び掛ろうとする奴はいなかった。
 あまりにも強すぎるのを身にしみて痛感しているからである。
「い、いいだろう。おまえも許す」
 拒絶しても、それを止められる自信がなかったからに違いない。
「そういうわけだ。梓ちゃん、このバイクで行こうぜ」
「まったく……いつの間についてきていたのだ」
「神出鬼没なのだよ、俺は」
「言ってろ!」
 と言いながらも車を降りて、コートを羽織り慎二の自動二輪に跨る梓。
「そいじゃ、いくぜ」
 あの時と同じようにタンデムで峠を上り始める二人。
 数台の自動二輪が追従する。

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梓の非日常/第二部 第四章・峠バトルとセーターと(三)民家にて
2021.05.23

続 梓の非日常・第四章・峠バトルとセーターと


(三)民家にて

 峠頂上から名栗村へと、県道53・70号線を下って、一路川越へと帰路につく。
「せっかくのデートなのに、悪かったね」
「気にしていないわよ。結構楽しんでいたから」
「なら、良かった」
「それより、どこかコンビニに寄ってくれないかな」
「お腹でも減ったのか?」
「そうじゃないわよ。鈍感ね」
「え? あ、ああ……。ごめんごめん」
 トイレに行きたくなっていたのである。慎二もすぐに気が付いた。
 男なら適当な所に停車して用を足すことができるが、女の子はそうはいかない。
 まったく人気がなければ、茂みに入って……。できるかも知れないが、慎二がそばにいる状態では恥ずかしくてできるわけがない。乙女としては絶対にしてはならないことだった。
 が、しかし……。
 山の中である。
 そうそうコンビニがあるわけもない。
 どこまで走っても民家ばかりで、商店すらもなかった。
 我慢も限界がある。
「どこでもいいから。家の前で止めて」
「判った」
 緊急避難的に民家でトイレを借りようという算段のようであった。
 開いた戸口の前で中に向かって声を掛ける。
「すみませーん。どなたかいらっしゃいますか?」
 こういう民家では、日中は田んぼに出かけていて留守ということが結構あるが、
「はーい」
 と、すぐに返事があって、家の者が出てきた。
 お婆さんともう一人若い女性。
「何でしょうか?」
「申し訳ありません。トイレをお借りしたいのですが」
 お婆さんに向かって頼み込む梓。
「ああ、どうぞどうぞ。構いませんよ。恭子さん、娘さんを案内して」
 嫁なのであろうか、若い方の女性に向かって梓を案内させる。
「はい。こちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
 ずーと奥のほうへ入っていく二人。
「そこのあなた。上がってゆっくりしていきませんか?」
 と、外にいる慎二にも声を掛ける。
「俺ですか?」
「まあ、お茶でも出しますので」
「そうですか。じゃあ、上がらせていただきます」
 遠慮のない慎二だった。
 ずけずけと家の中へと上がってゆく。

 袖触れ合うも多少の縁。
 都会ではありえないであろうが、田舎では良くあることである。
 客間に通されて、茶菓子とお茶を出されて歓待される慎二だった。
 やがて物珍しそうにきょろきょろとあたりを見回しながら梓が戻ってくる。
 旧家のこととて百年以上は経っているだろうか。
 同じ旧家の絵利香の屋敷とはまるで趣が違っていた。
 豪商邸宅と農耕民家では、まるで違うのは当然のことであろう。
 慎二の隣に置かれた座布団に正座する梓。
 正座など苦手な梓であるが、和風の民家ではそうするよりない。
「お二人は夫婦ですかの?」
 お婆さんが突飛なことを言い出す。
「ち、違いますよ」
 梓が慌てて否定するが、
「夫婦に見えますか?」
 慎二は嬉しそうに答える。
「違うのかい?」
「私たちまだ高校生です。十六歳になったばかりですよ」
「十六かい? わしらが若い頃にはとっくに祝言を挙げて、子供を産んでいたよ」
「十六歳でですか?」
「ああ、最近では十六で嫁に行くなって、ほんとに珍しくなったけどねえ。三十過ぎてもまだ独身や結婚なんていないなんて娘はざらになってきよった」
「まあ、そうですよね」
 十六歳で結婚という話を聞いて、真条寺家の事情を思い出さずにはおれなかった。
 真条寺家の長女は、十六歳にして家督を継いで結婚し、世継ぎを産む。
 母親の渚にしても、そして祖母も、十六歳で結婚して子供を産んでいる。
 法律的にも結婚を許されている年齢である。
「俺は、十八歳にならなきゃ結婚できませんよ」
「そうじゃったな。でもまあ、二人を見ていると、お似合いの夫婦になれる感じがするよ。一緒に旅行してるところみると、満更でもない関係なんだろ?」
「そうなんです!」
 ずずーっ、と身を乗り出すようにして強い口調で肯定する慎二。
「ち、違います。ただの友達です」
「あははは!」
 腹を抱えて笑い出すお婆さんだった。
 きょとんとしている梓。
「いいね、その表情。二人の様子見てると仲が良いのが判るよ。きっと良い伴侶になれるさ。わしが太鼓判を押すよ」
「ありがとうございます」
 慎二が素直に喜ぶ。
「慎二ったら、もう……」
 ちょっと膨れ面になる梓だった。

 それから一時間後。
 お土産まで貰って、その民家を出てくる二人だった。
 キャリアにそれを縛り付けながら、
「田舎の人たちは人情があっていいねえ」
 と感慨深げな慎二。
 似合いの夫婦になれると言われて気分が良かった。
 対して少し機嫌を悪くしている梓だった。
 こんなことならもっと我慢してでもコンビニにすべきだったと後悔していた。
「じゃあ、帰ろうか」
「そうね。とっとと帰りましょう」

 そもそも、なんで自分がデートに行くことを承諾してしまったのか?
 すべての発端はそこにある。
 まるでもう一人の自分がいるような気分になってきたのである。

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梓の非日常/第二部 第四章・峠バトルとセーターと(二)久しぶりの喧嘩
2021.05.22

続 梓の非日常・第四章・峠バトルとセーターと


(二)久しぶりの喧嘩

 川越から日高街道(県道15号)を通って、JR八高線の陸橋を越えて、入間市から始まる一般国道299に合流する。
 起点:長野県茅野市 ~ 終点:埼玉県入間市
 と、続く189.7km、車での所要四時間44分ほどの飯能丘陵を走り抜ける景観豊かな国道だ。ただし、工事がやたら多く、現在も十国峠(箱根ではない)土砂崩れで通行止めとなっている。令和3年4月29日現在。
 途中横瀬町芦ヶ久保と飯能市吾野の間に正丸トンネルがあるが、吾野側入り口の信号を右へ入る道が正丸峠への入り口となる。正丸トンネルができたせいで、旧街道の峠道は寂びる一方となっており、道路の補修などもあまり行われていない。ガーデンハウスや峠茶屋などは休業中の所が多いので要注意である。

 峠道をタンデムで走り抜ける慎二の自動二輪。
 と、背後から爆音をあげて駆け上ってくる自動二輪の一団があった。
 次々と慎二達を追い抜いていきながら、
「ヒューヒュー!」
 からかう仕草を見せていた。
「なによ、あれ?」
「いわゆる暴走族ってところだろうな」

 峠頂上にあるガーデンハウス付近に、先ほどの暴走族がたむろしていた。
 峠道では判らなかったが、ヘルメットを脱いだ姿は、全員女性だった。
 だからといっておとなしいはずはない。慎二達が先に進めないように道を塞いでおり、仕方なく停止すると同時に囲まれてしまった。
「見逃してくれそうにないね。どうする、梓ちゃん?」
「しようがないわよね」
 自動二輪から降りて、ヘルメットを脱ぐ梓。
 慎二もヘルメットを脱いで降りる。
「何か用?」
 こういうことには慣れている梓だった。
 怯える表情も見せずに問いただす。
「この先に行きたかったら通行料を貰おうか」
「通行料?」
「そうだよ。この辺りは、あたし達の縄張りなんだよ。痛い目に遭いたくなったら金を出しな」
「で、いくら出せば通してくれるの?」
「五万円だ。なければあるだけ出せ!」
 金額を聞いて驚く慎二だった。
「五万円! それだけあれば高速道路を日本の北から南まで行って、お釣りがくるぞ」
 一方の梓は、金額を言われてもまるでぴんとこない。
「それって高いの? 安いの?」
「ばーか。高いに決まっているだろ」
「そうなんだ……」
 周りを囲んでいるにも関わらず平然としている二人に、暴走族達の方がいきり立ってきていた。
「出すのか、出さないのか!」
「出すわけないだろう」
 きっぱりと言い放つ慎二だった。
「貴様らあ! ほんとに痛い目に遇いたいようだな」
「痛い目か……。遭わせてもらうじゃないか」
 久しぶりに喧嘩ができると、はりきっている感じの慎二だった。
 ジャンパーを脱いで自動二輪に掛ける慎二。
「もう……しようがないわね」
 梓も楽しそうな表情を見せて、フェイクムートンジャケットを脱いで、慎二に倣うとすると、
「まあ、まてよ。梓ちゃんは見ていろよ。ここは、デートに誘ってこんな処に連れて来た俺の責任だ。まかせておきな」
 と余裕たっぷりに制する慎二だった。
「あらそうなの? でも、女の子には手出ししない主義じゃなかった?」
「手加減してやるさ。顔には傷つけないようにしてやるよ」
 二人の会話を聞いて、腹を立てない者はいないだろう。馬鹿にされたように感じるのは当然だ。
「お、おまえら」
 逆鱗に触れられたような表情になって襲い掛かってくる暴走族達だった。

 鬼の沢渡と恐怖される慎二のこと、ただの暴走族が敵うわけがなかった。彼女らは集団行為によって相手を怯えさせるだけで、まともな喧嘩などしたことない。
 手加減しながらも次々とねじ伏せてゆく。
「ふう……」
 大きく深呼吸する慎二。
 その足元にはうずくまっている暴走族レディー達。
「早かったわね」
 声を掛けられて、倒れている者達を跨いでいきながら、自動二輪の所の梓の元へ歩いていく。
「この程度のやつらなら、ほんの朝飯前さ。とっととこんな所からオサラバしようぜ」
「放っておいて大丈夫なの?」
「軽い脳震盪や麻痺を起こしているだけだ。十分もしないうちに回復するさ」
「それならいいけど」
 ヘルメットを被りなおして自動二輪に跨る慎二。
 梓もそれに従う。
「そいじゃ、行きますか」
 エンジンを始動させて、その場を走り去る二人だった。

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