妖奇退魔夜行/胞衣壺(えなつぼ)の怪 其の壱
2019.05.10
陰陽退魔士・逢坂蘭子/胞衣壺(えなつぼ)の怪(金曜劇場)
其の壱 廃屋
阿倍野界隈にあって、廃屋となっていた旧民家の解体が行われることとなった。
油圧ショベルが容赦なく廃屋を潰してゆく。
悲鳴のような軋めき音をあげながら、崩れ行く廃屋。
長年積もり積もった家屋内の埃が舞い上がり、苔むした臭気が辺り一面に広がる。
ショベルでは掘れない細かい場所は、作業員がスコップ手作業で掘り起こしている。
水道管やガス管が通っている場所は、土木機械では掘れないからだ。
その手先にコツンと手ごたえがあった。
「何かあるぞ」
慎重に掘り起こしてみると、陶器製の壺のようであった。
「壺だな」
「まさか小判とか入ってないか?」
「だといいがな、せいぜい古銭だろう」
「いわゆる埋蔵金ってやつか?」
「入っていればな」
「やっぱ警察に届けなきゃならんか」(遺失物法4条)
「持ち逃げすりゃ、占有離脱物横領罪になるぞ」(刑法254条)
廃屋の解体作業工事屋だから、埋蔵物に遭遇することは、日常茶飯事。
それらに関する諸般法律はご存知のようであった。
「ともかく蓋を開けてみよう」
昔話のように、大判小判がザックザクということはまずありえない。
「開けるぞ!」
蓋に手を掛ける作業員。
「あれ?開かないぞ……」
「くっついちゃったか?」
内容物が溢れて、身と蓋の間で接着剤のように固まってしまったか。
金属ならば酸化反応で、生物ならば腐敗によって、内部の空気を消費して圧力が下が
り、外から押さえられている場合もある。
「だめだ、開かないね」
壺を振ってみるが、音はなく内部にこびり付いているようだった。
その時、現場監督がやってきた。
「何をしているか、ちゃんと働かんと日給はやらんぞ」
怒鳴り散らす。
雨続きで解体期限が迫っていて、不機嫌だったのだ。
「いやね、こんな壺を地中で見つけたんですよ」
と、壺を掲げ上げて見せる。
「どこにあった?」
「土間の台所入り口にありました。地中に水道管が通っているので手掘りして見つけま
した」
ちょっと首を傾げて考える風であったが、
「たぶん……胞衣壺(えなつぼ)だな」
「えなつぼ?」
「出産の時の後産の胎盤とかへその緒を収めた壺だよ。昔の風習で、生まれた子供の健
やかな成長や、立身出世を祈って土間や間口に埋めたんだ」
「た、胎盤ですかあ!?」
驚いて壺を地面に置く作業員。
「祟られるとやっかいだ。とりあえず隅にでも埋めておけ。整地した後の地鎮祭やる時
に、一緒に弔ってやろう」
「分かりました」
言われたとおりに、敷地の隅にもう一度埋め戻し、手を合わせる。
「祟りませんように……」
銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第三章 狼達の挽歌 IX
2019.05.06
機動戦艦ミネルバ/第三章 狼達の挽歌
IX 一撃必殺!!
「ミサイル高速接近中!」
「ヒペリオンで迎撃せよ」
フランソワが発令すると、副官のリチャード・ベンソン中尉が復唱して指令を艦内
に伝える。
「ヒペリオン、一斉掃射。ミサイルを迎撃せよ!」
次々と飛来する誘導ミサイルをヒペリオン(レールガン)が迎撃していく。
「誘導ミサイルは、ヒペリオンで十分迎撃できますね」
「現時点で、ヒペリオンに勝るCIWS(近接防御武器システム)はないでしょう。
何せ初速19.2km/s、成層圏到達速度でも13.6km/sありますから、軌道上の宇宙戦艦さ
えも攻撃できる能力を持っていますからね」
「しかし炸薬がないので、船体に穴を開けることはできても撃沈させることはできま
せんよ。誘導ミサイルないし戦闘機の迎撃破壊が精一杯です。砲弾に炸薬を詰められ
れば良いのですが」
「それは不可能よ。あまりにも超高速で打ち出すので、炸薬なんかが詰まっていると
その加速Gの衝撃だけで自爆しちゃいますから」
「でしょうね……。誘導ミサイルはヒペリオンに任せるとしても、そろそろ敵艦のプ
ラズマ砲の射程内に入ります。撃ってきますよ」
「そうね……。スチームを全方位に散布してください」
「判りました」
答えて、端末を操作するリチャード。
「超高圧ジェットスチーム弁全基解放! 艦の全方位に高温水蒸気噴出・散布せよ」
艦のあちらこちらから高温の水蒸気が噴出し始めた。と同時に雲が発生してミネル
バを包み隠した。
敵艦の方でも、その様子を窺っていたが、
「何だ、あれは?」
「敵艦のまわりに雲が発生した……て、感じですかね」
「馬鹿なことを言うな。あれは水蒸気だ。艦の周りに水蒸気を張り巡らしているの
だ」
「どういうことでしょうかね?」
「今に、判る」
その言葉と同時に、オペレーターが報告する。
「ゴッドブラスター砲の射程内に入りました」
コッドブラスター砲は、245mm2連装高エネルギーイオンプラズマ砲のことで、ザ
ンジバル級戦艦の艦首と艦尾にある格納式旋回砲塔に設置されており、大気圏内にお
ける実質的な主砲と言える。
「よし、ゴッドブラスター発射準備! 目標、敵戦艦」
旋回砲塔がゆっくりと回って、ゴッドブラスター砲がミネルバを照準に捕らえた。
「ゴッドブラスター砲、照準よし。発射態勢に入りました」
砲塔からプラズマの閃光がミネルバへと一直線に走る。
「ゴッドブラスター砲のエネルギー、敵艦の到達前に消失しました」
「消失だと?」
「誘導ミサイルも、あの雲の中で自爆しているもよう。敵戦艦は無傷です」
思わず、ミネルバを注視する司令官。
「そうか……。あの水蒸気の雲がエネルギーをすべて吸収してしまったのだな」
「どうしますか?」
「ミサイルを誘導弾から通常弾に転換、引き続き撃ち続けろ。後、使えそうなのは
75mmバルカン砲だな……。気休めにしかならないだろうが、砲撃開始だ」
銀河戦記/鳴動編 第二章 ミスト艦隊 XIV
2019.05.05
第二章 ミスト艦隊
XIV
ステーションをゆっくりと離れてゆくヘルハウンド。
「これより、一旦カリスの衛星軌道に入る。二度の周回を行いつつ、重力アシストの加
速を得て、最大噴射でカリスの重力圏を脱出する」
ヘルハウンドも外宇宙航行艦であるから、自力ではカリスの強大な重力を振り切るこ
とは困難である。カリスをスパイラル状に加速・周回しながら、少しずつ軌道を遠ざか
り、ついでに重力アシストで加速を得て、最適な位置から最大速度に上げて脱出しよう
というわけである。
「噴射! 機関出力最大、加速度一杯!」
二度目の周回を終えて、頃合いよしと判断したアレックスは号令を下した。
艦体を激しい震動が襲った。
「比推力、最大に達しました」
「そのまま維持せよ」
巨大惑星カリスからゆっくりと遠ざかっていく。
やがて艦体の震動もおさまりつつあった。
「まもなく惑星カリスの重力圏を離脱します」
「よし、機関出力を三分の二に落とせ」
「機関部はエンジンに異常がないか確認せよ。ダメコン班は艦体の損傷をチェック!」
たてつづけに命令を出してから、
「ふうっ……」
と大きなため息をついて、指揮艦席に深く腰を沈めるアレックスだった。
連邦艦隊との戦闘。カリスからの脱出と息つく暇もなく働き詰めで疲労がたまってい
た。
「艦長。ちょっと昼寝をしてくる。後を頼む」
席を立って自分の部屋へと向かうアレックス。
「判りました。ごゆっくりお休みください」
最高司令官たるアレックスには、定められた休息時間はない。適時自分の判断で休む
ことになっている。
ミストの補給基地が見えてきた。
その周辺には、旗艦艦隊が展開している。
指揮艦席に座ったまま、サンドウィッチを頬張っているアレックス。
「サラマンダーより入電」
「繋いでくれ」
正面スクリーンにスザンナが映し出された。
「ご無事でなによりでした。全艦、補給を終えて待機中です」
「それでは、早速発進させてくれ。私はこのヘルハウンドから指揮を執る」
スザンナが疑問を投げかける。
「ヘルハウンドからと申されましても、旗艦艦隊二千隻の指揮統制は不可能ですが…
…」
旗艦には搭載されている戦術コンピューターには、それぞれキャパシティーがある。
各艦からは識別信号を出しており、その信号を戦術コンピューターが受信して処理して
いる。撃沈・大破や航行不能などに陥れば即座に処理される。サラマンダーの戦術コン
ピューターは十万隻もの処理能力があるが、ヘルハウンドには三百隻の処理能力しかな
かった。
「何を言っておるか。旗艦艦隊二千隻は、君が指揮するのだよ。大まかな作戦はこちら
から指示するが、後は君の判断で自由に動かしたまえ」
スザンナの指揮能力を高く評価し、信頼に疑いを抱かないアレックスの叱咤激励の言
葉であった。一人前の司令官に育て上げるには、甘えを許さずすべてを任せきりにして、
時として渦中に放り込むといった荒療治も辞さない態度で臨む。
こうしてアレックスに鍛えられて、数多くの有能なる司令官が誕生しているのである。
それら司令官達の働きによって、アレックス率いる艦隊は、多大なる戦果を上げてその
陣容を強化していった。
「判りました。旗艦艦隊を発進させます」
毅然として表情を取り戻すスザンナ。
師弟関係にも似た厚い信頼で結ばれている二人。
「全艦微速前進。ヘルハウンドに続け」
艦隊が中立地帯に差し掛かるのは、それから間もなくのことだった。
「国際救難チャンネルに、SOSが入電しています」
「信号はどこから発せられているか?」
「中立地帯を越えた銀河帝国領からです」
「どうやら遅かったようだな。敵さんの方がひと足早く皇女艦隊に襲い掛かったよう
だ」
と、しばしの思慮に入るアレックス。
艦橋オペレーター達は、その去就に注目している。
「サラマンダーに繋いでくれ」
正面スクリーンにスザンナが映し出される。
「救難信号をキャッチした」
「はい。こちらでも確認しております」
「君ならどうするかね?」
「はい。救難信号が出されている以上、救出に向かうのが船乗りの務めです」
「戦艦が中立地帯に踏み込むのは国際条約違反だぞ」
「しかしながら、国際救助活動においては、特別条項が適用されます。それになにより
も、銀河帝国との交渉を進める良い機会になるのではないでしょうか」
「なるほど、それは良い考えだ。それでは行こうか。全艦に伝達! 救助活動のために
中立地帯を越えて銀河帝国へ向かう。全艦全速前進せよ」
こうしてランドール艦隊発足以来、はじめての銀河帝国領への進出が、国際救助活動
の名のもとに行われたのである。
果たして、連邦先遣隊を蹴散らして、無事に第三皇女を救い出すことができるのか?
その先にある、銀河帝国との交渉の行方もどうなるか判らない。
すべての乗員の胸の内にある不安と葛藤も推し量るすべもない。
第二章 了11
- CafeLog -
2019.05.10 15:23
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