妖奇退魔夜行/胞衣壺(えなつぼ)の怪 其の弐
2019.05.17


陰陽退魔士・逢坂蘭子/胞衣壺(えなつぼ)の怪(金曜劇場)


其の弐 地鎮祭

 数日後。
 地鎮祭が執り行われることになった。
 神主には、最も近くの神社に依頼されることが多い。
 取りも直さず、直近となれば阿倍野土御門神社ということになる。
 宮司である土御門春代が高齢のため、名代として蘭子が地鎮祭を司ることとなった。
 日曜日なので学校は休み、きりりと巫女衣装を着こんでいる。
 敷地の中ほどに四隅を囲うようにして青竹を立て、その間を注連縄(しめなわ)で囲
って神域と現世を隔てる結界として祭場とする。
 その中央に神籬(ひもろぎ、大榊に御幣・木綿を付けた物で、これに神を呼ぶ)を立
て、酒・水・米・塩・野菜・魚等、山の幸・海の幸などの供え物を供える。
「蘭子ちゃんの巫女姿も堂に入ってるね」
 施工主で現場監督とは、蘭子が幼い頃からの顔馴染みであった。
「ありがとうございます」
 つつがなく地鎮祭は進められてゆく。

地鎮祭の流れ

 係員が静かに監督に近寄って耳打ちしている。
「監督、あの胞衣壺が見当たりません」
「見当たらない?」
「はい。ここに確かに埋めたんですけど……」
 と、埋め戻した場所に案内する係員。
「誰かが掘り起こして、持ち去ったというのか?」
「胎盤とかへその緒ですよね。そんなもん何するつもりでしょう」
「中身が何かは知らないのだろうが、梅干し漬けるのに丁度良い大きさだからなあ」
「梅干しですか……でも、埋まっているのがどうして分かったのかと」
「通行人が立ちションしたくなって、角地だから陰になって都合がよいから」
「それで、掘れてしまって壺が顔を出し、持ち去ったと?」
「まあ、あり得ない話ではないが」

 二人して首を傾げているのを見た蘭子、
「何かあったのですか?」
「実はですね……」
 実情を打ち明ける二人。
「胞衣壺ですか?」
 と言われても、実物を見ていないので、何とも言えない蘭子。
「解体される前の家屋を見てましたけど、旧家だし胞衣壺を埋めていたとしても納得で
きますが」
 陰陽師の蘭子のこと、胞衣壺については良くご存知のようだ。
「長い年月、その家を守り続けてきたというわけですが、何か悪いことが起きなければ
良いのですが」
 空を仰ぐと、先行きを現すかのように、真っ黒な厚い雲が覆いはじめ雨が降りそうな
雲行きとなりつつあった。

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第三章 狼達の挽歌 X
2019.05.12


 機動戦艦ミネルバ/第三章 狼達の挽歌


 X 撃沈

 ミネルバ艦首の三連装135mm速射砲が火を噴いた。
 砲口から飛び出したAPFSDS弾は、加速ブースターとも言うべき離脱装弾筒を
切り離して、後尾翼のついたペンシル状の弾丸となって敵艦を襲う。
 砲口初速は2100m/s(7560km/h)とハープーンの巡航速度(970km/h)とは桁違いの
速度であり、しかも電波を出さず推進用の熱源もないために、着弾時の終速値がかな
り低下していたとしても、これをミサイルで迎撃するのは至難の業である。
 余談だが、かつては大砲の砲身には砲弾を回転させ安定感を与えるための旋条砲身
というもの使われていたが、最近のAPFSDS徹甲弾のように、その直径と長さの
比が大きい(L/D比が6以上)弾種は、旋動させる方が飛翔中の安定性が悪くなること
が判った。そのため旋条のない滑腔砲身が使用され、弾丸の安定には翼が付くように
なった。なおラインメタル対戦車榴弾なども滑腔砲身用である。

 APFSDS徹甲弾はザンジバルの後部エンジンに見事着弾して炎上させた。
 炸薬がないとはいえ、凄まじい運動エネルギーの放出によって、衝撃波が生じ付近
一帯をことごとく破壊する。
 ザンジバル艦橋。
 大きな衝撃を受けてよろめく乗員達。
「後部エンジンに被弾しました!」
 オペレーターが金きり声で叫ぶ。
「エンジン出力低下! 機動レベルを確保できません!!」
 火炎を上げながらゆっくりと降下するザンジバル戦艦。
 艦内では、消火班や応急処理班が駈けずり回って、何とか艦を立て直そうと必至に
なっている。
 やがて海上に着水し、加熱したエンジンに大量の海水が流入して、水蒸気爆発を起
こして火柱が上がった。

 艦橋に伝令が駆け寄ってきて報告を伝えた。
「艦長! 至る所から浸水が始まっています。艦を救える見込みはありません!」
「判っている。副長、総員を退艦させろ!」
「了解、総員を退艦させます」
「通信士。艦隊司令部に打電だ。『我、撃沈される。速やかなる救助を願う』艦の位
置も報告しろ」
「了解!」
 総員退艦の指令を受けて、艦の至るところで退艦の準備が始められた。
 救命ボートや救命艇が海上に降ろされて、次々と兵員が乗り込んでいく。
 艦橋からそれらの様子を眺めている艦長。
「だめだ! 敵艦は、エンジンから武装、その他すべてにおいて大気圏内戦闘のため
に特殊開発された特装艦だ。宇宙戦艦一隻が太刀打ちできる相手ではない」

 ミネルバ艦橋。
「敵艦、海上に着水。撃沈です」
 一斉に歓声が上がる。
「スチームの射出を停止。当艦はこのままカサンドラ訓練所のあるバルモアール基地
へ向かう。全速前進!」
「了解。進路バルモアール基地、全速前進します」

第三章 了

銀河戦記/鳴動編 第二部 第三章 第三皇女 I
2019.05.11


第三章 第三皇女


                 I

 銀河帝国領内。
 今まさに、第三皇女の艦隊が連邦軍先遣隊による奇襲攻撃を受けていた。
 貴賓席に腰を降ろす皇女ジュリエッタの表情は硬かった。側に仕える二人の侍女は、
ただオロオロとするばかりだった。
「何としても姫を後方へお逃がしして差し上げるのだ。艦隊でバリケードを築いて、後
方へのルートを確保するのだ」
 貴族と庶民との身分の隔たり。こういう状態においてこそ、その人となりが良く判る
ものだ。
 庶民を人とも思わずに税金を搾り取るだけの存在と考えたり、高慢で貴族であること
を鼻に掛けて、庶民を虐げるだけの者は、いざとなった時には誰も助けてはくれない。
庶民達は自分可愛さにさっさと逃げてしまうだろう。
 しかし、ジュリエッタを取り巻く人々には、責任放棄する者はいなかった。命を張っ
てでもジュリエッタを救うための戦いを繰り広げていた。
 気分を悪くした兵士を見かけたら、やさしくいたわり休息を与えたたり、全体が暗い
ムードに陥っている時には、レクレーションやパーティーを開いて、士気を高める努力
を惜しまなかった。常に兵士一人一人に対して分け隔てなく気配りを忘れなかった。
 ジュリエッタは民衆を愛し、かつまた民衆からも愛されていたのである。
「わたくし一人のために、多くの兵士達が犠牲になるのは、耐え難いことです。わたく
し一人が……」
「いけません! 奴らは姫を捕虜にして、自分達の都合の良い交渉を強引に推し進める
算段なのです。かつてアレクサンダー第一皇子が、海賊に襲われ行方不明となった時に
も、皇子を捕虜にしていることを暗に匂わせて、十四万トンものの食糧の無償援助と、
鉱物資源五十万トンを要求してきたのです。その後、皇子は連邦軍の元にはいないこと
が判明して、交渉はないものとなりましたが……」
 貴賓席に深々と沈み込み、自分には何もできないのか? と苦渋の表情にゆがむジュ
リエッタ皇女。そうしている間にも、数多くの戦艦と将兵達が消えてゆく。

 その頃、急ぎ救出に向かっていたランドール艦隊は、やっと中立地帯を抜け出たばか
りだった。
「銀河帝国領内に入りました」
「前方に火炎を認めます」
 銀河帝国艦隊と連邦軍先遣隊との戦闘が繰り広げられ、まるでネオンの明滅のような
光景がスクリーンに投影されていた。
「全艦に戦闘配備だ」
「了解。全艦戦闘配備」
「うーむ……。何とかギリギリにセーフといったところか。第三皇女の旗艦は識別でき
るか?」
「お待ちください」
 指揮艦席の手すりに肩肘ついてスクリーンを凝視しているアレックス。
「双方の戦況分析はどうか?」
「はい。圧倒的に連邦軍側が優勢です」
「だろうな。連邦軍にはつわものが揃っているからな」
「皇女の艦を特定できました」
「奴らの目的が皇女の誘拐であるならば、旗艦を無傷で拿捕しようとするだろうが、流
れ弾が当たって撃沈ということもあり得る。私のサラマンダー艦隊は、旗艦に取り付い
ている奴らを蹴散らす。スザンナは旗艦艦隊を指揮して、連邦軍の掃討をよろしく頼
む」
「判りました。旗艦艦隊は連邦軍の掃討に当たります」
「それでは行くとしますか。全艦突撃開始! 我に続け!」
 アレックスの乗るヘルハウンドを先頭にして、勇猛果敢に敵艦隊の只中に突入してい
くランドール艦隊。

- CafeLog -