銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第四章 新型モビルスーツを奪還せよ VIII
2019.07.07


 機動戦艦ミネルバ/第四章 新型モビルスーツを奪回せよ


                VIII

 ミネルバが海上で奮戦している頃、丘の上の特殊部隊陣地では作戦決行の準備に余念
がなかった。銃器の手入れ、爆弾の信管のチェック、侵入ルートの再確認などである。
「ミネルバはどうしている?」
 隊長が見張りに確認している。
 丘の上からは海上がよく見渡せ、守備艦隊と交戦しているミネルバの模様が手に取る
ようにわかる。
「だいぶ苦戦しているようです」
「しかしたった一隻でこの基地にやってくるなんて無謀なのではないでしょうかね」
「作戦部の首脳達の考えだろう。ミネルバ一隻で何とかなるとね。何せ最新鋭の機動戦
艦らしいからね」
「下の者は命令されれば、どこへでも行く。たとえ困難な任務と判っていても服従する
しかない」
 その兵士が言ったことは、ミネルバもそうだが、こんな敵地に潜入している俺達も災
難だという含みを持っていた。
「まもなく作戦時間です」
 副隊長が時計を指差しながら注意した。
「よし。起爆装置をセットしろ」
 トーチカへ続く山腹に仕掛けた爆弾の無線信管を作動させるための起爆装置が接続さ
れる。
「作戦三十秒前です」
「カウント! 十秒前からだ」
「十秒前、九、八、……」
 起爆装置に手が掛かる。
「三、二、一」
「爆破!」
 起爆装置のスイッチが入れられる。
 するとトーチカのある山腹が大音響を立てて崩れ落ちた。
「よし! 突撃開始だ」
 特殊部隊が一斉に山肌を駆け下りてゆく。
「キースの班は訓練生を誘導しろ」
「はい」

 海上にあるミネルバ。
「艦長! トーチカのある山腹が爆発しました」
「トーチカのエネルギーシールド消失」
「特殊部隊が成功したようね。浮上します。アーレスのセーフティーロック解除、発射
体勢へ」
 ゆっくりと海上から浮上をはじめるミネルバ。
 海上に落とした影の中に、目標を失った数本の魚雷がさ迷っている。
「まずは右側のトーチカから叩きます。艦を右に六度回して」
 艦の真正面にしか発射できないアーレス。照準合わせは艦の方を目標に向けるしかな
い。しかし一度発射されれば山の一つや二つは粉々に粉砕してしまう威力を持っている。
「照準合いました」
「アーレス発射!」
 一筋の光輝がアーレスを発してトーチカへと向かう。実際には光の速度を持っている
レーザーなので一瞬の出来事なのであるが。
 トーチカを含む山肌が見事に吹き飛んだ。
「第二射準備。目標、左のトーチカ」
「回頭! 左三十度」
「燃料ペレット再注入」
「レーザー励起開始」
「回頭微調整、左へ三度」
 左のトーチカが砲撃してきたが、有効射程距離に入っておらず、射程を延ばすための
山なりの放物線弾道だった。弾丸スピードもかなり低下していて、CIWSで十分迎撃
が可能であった。
「アーレス発射体勢に入りました」
「発射せよ!」
 再び原子レーザーが炸裂して、二つ目のトーチカも吹き飛ばした。
「邪魔者はいなくなりました。バルモア基地へ突入します」
 ミネルバの基地への総攻撃が開始された。
「第三砲塔は地上基地を直接攻撃、第一砲塔は山肌を攻撃して山崩れを起こしてくださ
い」


銀河戦記/鳴動編 第二部 第三章 第三皇女 IX
2019.07.06



第三章 第三皇女


                 IX

「それでは、一つには私の配下の二百隻ほどの艦艇を、銀河帝国領内での運用を許可頂
き、マーガレット皇女様保護の先遣隊とさせて頂きます。二つ目に、ジュリエッタ皇女
様の艦隊を、私の指揮に委ねて頂きたいのです」
 マーガレット皇女を保護するには、その旗艦に急襲接舷して白兵戦で乗り込むしかな
い。その白兵部隊を持っているのは、ヘルハウンド以下のサラマンダー艦隊しかなかっ
た。また援護射撃としてのジュリエッタ艦隊も必要とされたのである。
「よろしいでしょう。その二つとも許可いたしましょう。ジュリエッタも構いません
ね?」
「はい。喜んでランドール提督の指揮に従いましょう」
 こうしてアレックスの指揮下で、内乱の首謀者であるマーガレット皇女を保護すると
いう作戦が発動されたのである。
 連邦軍によるジュリエッタ皇女艦隊への襲撃があったばかりである。事態は急を要し
ていると判断したアレックスは、インヴィンシブルでエセックス候国の軍事ステーショ
ンに戻り、待機していた配下のサラマンダー艦隊と第三皇女艦隊に対して、アルビエー
ル候国への進軍を命令したのである。
 歴史上初の国家間を越えた混成軍が動き出した。

 ここで銀河帝国の国政についておさらいしてみよう。
 まず政治を語る上で忘れてならない暦の制定である。
 人類が太陽系を脱出して最初の植民星としたのが、太陽系から5.9光年の距離にある
バーナード星系であった。その第三惑星にはじめて植民船が着陸した日をもって、銀河
標準暦元年としたのである。
 銀河の自転において、1/2880秒角自転するのに掛かる時間をもって一銀河年とした。
これは地球・太陽暦の一年にほぼ等しく、歴史上の混乱を避けるための方策である。
 ○月○日という月日は特に定めていないが、各惑星都市の事情に合わせて独自に制定
するものとした。
 そしてもう一つが銀河帝国暦。
 ソートガイヤー大公が銀河を統一して銀河帝国樹立を宣言したその日を元年としてい
る。一年は銀河標準暦に同じである。
 銀河帝国の領土は、皇帝が直接支配する直轄領と、皇家御三家と呼ばれるウェセック
ス公国、エセックス候国、アルビエール候国の自治領とで構成されている。
 御三家は、第二次銀河大戦後に連邦や同盟との国境防衛のために、皇室の分家を辺境
地域に赴任させたのがきっかけとなって、やがてエセックス候国、アルビエール候国と
いう自治領へと発展した。もちろん国境防衛であるから、艦隊の保有も当然として認め
られた。また銀河渦状間隙が天然の防衛障壁となっている地域にも、念のためにとウェ
セックス公国が自治領を得て、艦隊三十万隻を持って監視の網を広げている。もっとも
銀河間隙の向こう側にあるのは、三大強国には加担せずに、永世中立を訴える自由諸国
連合で、他国を侵略するほどの艦隊も持ち合わせていない。
 また直轄領及び自治領内には、委任統治領というものがあって、子爵以下伯爵や男爵
などの高級貴族が任命されて統治に当たっている。ただし世襲制ではないので、統治領
を維持するために皇帝や皇家にご機嫌伺いする必要があった。さらに委任統治領には銀
河帝国への上納金が義務付けられており、民衆から徴収した税金の一定額を、銀河帝国
へ納めなければならない。
 この上納金制度は時として悪政をはびこらせる要因ともなっている。民衆からの税金
から上納金を納めた残りが貴族の報酬となるので、上納金をごまかしたり規定以上に税
金を搾り取ったりして私腹を肥やす者が少なくなかった。賄賂の授受が横行し政治の腐
敗を引き起こしている委任統治領もあった。


 ※注 かつてバーナード星系には惑星が存在すると信じられていたが誤りであること
が判り、現在まで惑星が存在する証拠は見出されていなかった。

ところがその後、スペインのカタルーニャ宇宙研究所などからなる国際研究チームが
2018年11月14日に再び惑星があることが確認された。しかも、地球の3.2倍以上の質量
のあるスーパー惑星であるらしい。


11
妖奇退魔夜行/胞衣壺(えなつぼ)の怪 其の玖
2019.07.05


陰陽退魔士・逢坂蘭子/胞衣壺(えなつぼ)の怪



其の玖 現場百回


 神田家の玄関先の両側に立てられた葬儀用花輪。
 行き交う人々は黒衣に身を包み、厳かに家の中に入ってゆく。
 近場には、井上課長も覆面パトカーの中で待機している。
 訪問客に不審な者がいないかチェックしていたのである。
 そこへ蘭子が訪れて、井上課長と何事か話し合った後に、葬儀場へと向かう。

 今日は同級生としてではなく土御門春代の名代としての出席である。神田家は土御門
神社の氏子だったからである。
 受付に一礼してお悔やみの言葉を述べる。
「この度はご愁傷様です」
 懐から取り出した袱紗(ふくさ)から香典を出して渡す。
 案内係の指示に従って着席する。
 棺に近い場所には父親と美咲がおり、重苦しい表情をしている。
 やがて住職が入場して、読経がはじまる。
 ほぼ出席者が揃ったところで、読経が止まり故人と最も親しかった関係の深い人の弔
辞。
 弔辞が終わると再び読経、僧侶が自ら焼香をしたら、喪主・遺族・親戚・そして席次
順に焼香がはじまる。
 やがて蘭子の番となり、恭しく前に進んで喪主に軽く挨拶してから焼香をあげる。
 美咲は終始俯いたままで、一度も顔を上げない。
 焼香が一巡したところで僧侶が退場。
 喪主が立ち上がって、最後の挨拶を行って閉会となる。
 出席者は別室に移って、遺族たちの故人との最後のお別れが行われる。
 それが済むと出棺となる。
 一同が玄関先に集まって、棺が霊柩車に納められ、喪主の最後の挨拶。
 全員の合掌・黙祷が行われる中、静かに霊柩車と遺族の車は静かに出発する。
 見送る蘭子に井上課長が近づいてくる。
「何か変わったようなところはなかったかね」
「いえ、何もありませんでした」
「ふむ……もう一度、現場に行ってみるか」
「そうですね、現場百回と言いますから」


 というわけで、神崎美咲の母親の遺体発見現場へとやってきた。
 住宅街の一角にある児童公園の片隅、木々の生い茂った場所。
 一部に「チョーク・アウトライン」がうっすらと残っていた。
 遺体の周りをチョークで囲うアレである。
 しかし実際の現場検証では、チョーク・アウトラインを引くことはない。
 警察などの現場検証が終わった後に、新聞記者などが写真撮影で分かりやすくするた
めに書いているのがほとんどである。
 被害者の血液なども流れでていた跡がうっすらと残っている。
「ここが遺体発見場所ですか」
「その通りだ」


- CafeLog -