梓の非日常/第三章 ピクニックへの誘い
(二)ピクニック  城東初雁高校。  1−A組教室内、ホームルームの時間。鶴田委員長が壇上の教卓で弁を奮っている。  黒板には、蓼科高原ピクニック・一泊二日という文字が書かれており、下条教諭は 教室の隅で成り行きを見守っている。 「というわけで、クラスの親睦をはかるために、連休を利用して一泊二日のピクニッ クを計画したのだが、どうだろうみんな」 「賛成!」 「いいぞ、委員長」 「それで、会費はいくらなの? それ次第だと思うけど」 「聞いて驚け、一人当たり七千円と格安になっておるぞ」 「まさか、旅行会社のパック旅行に便乗するんじゃないでしょね。そんなのはいや よ」 「安心しろ、ちゃんと貸し切りのバスで行く。俺達だけだ」 「ならいいわ」 「泊まるところは?」 「さる会社の、研修保養センターが連休中明いているので利用させてもらう」 「研修……まさか、合宿所に全員押し込むってのはだめだぞ」 「ちゃんとしたホテル並みらしいぞ。二人一部屋ずつだ」 「らしい……ってどういうこと? 鶴田君が決めたんじゃないの?」 「いやあ、そうじゃないんだ。実はみんなに打診する前に、どれだけ参加者が集まる かアポイントとって確認してたんだけど、その中の人に観光バス会社やホテル業界に 親戚がいるということで、格安で使わせてくれることになったんだ」 「誰なの、その人?」 「すまん。内緒にしてくれと言われてるから」  数日前の事である。  梓と絵利香を前に、相談を持ち掛けている鶴田。 「え? ピクニックですか」  絵利香が聞き直した。 「クラスの親睦を計りたいと思いまして、梓さんと絵利香さんにはぜひとも参加して いただきたいと、一番に相談にきました。お二人に参加していただければ、他のクラ スメートも参加するだろうと思いまして」 「いいよ。参加しても」 「ほんとに?」 「ああ。でも慎二も当然誘うんだよね」  ぽそりと梓が確認する。 「え? 沢渡君は除外しようかなって、みんな恐がるから……」 「なら、行かないよ」 「しかし……」 「親睦を計りたいんだろ? 一人だけのけ者にしたら意味ないよ」 「わかりました。沢渡君も誘います」 「ん。じゃあ、行く」 「あ、そうだ! わたしの親戚に旅行会社やってる人がいるから、格安でバスを借り れるようにしてあげようか」  絵利香が梓に目配せしている。 「本当ですか、絵利香さん」 「うん。運転手の日当と燃料代くらいで借りられると思うよ」 「それが本当なら、助かります」 「絵利香ちゃんがバスなら、あたしは宿を提供してあげようかな?」 「え?」 「蓼科高原に研修保養センターというのがあるんだけど、今の時期なら借りられるか も知れない」 「大丈夫ですか? 引率の下条先生も含めて総勢三十一名になるんですよ」 「三十一名か……ちょっと待ってね。携帯で確認とるから」  そう言って廊下に出る梓。 「あ、わたしも確認取るわ。公平くん、ここで待っててね」
     
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