真夜中の出来事/闇の叫び


 闇の叫び  真夜中の都会に突然、甲高い女性の叫び声が響き渡った。  パトロール中だった私は、早速叫び声のした所へと駆けつけていった。  そこには、すでに数人の人だかりができていて、私はその中に分け入って倒れている女 性のそばに近寄っていった。彼女には暴行された様子がなく、何か恐ろしい目に会ってそ のまま気を失ったものらしかった。私は、野次馬を追い払って、彼女を近くの交番に運ん だ。  やがて、その女性は気を取り戻し、彼女に事情を詳しく尋ねてみた。だが、女性はあま りのショックのためか虚脱状態にあり、何を尋ねてみても口を開くことすらなかった。仕 方なく女性の持ち物を調べてみたが、これもまた女性の身元を証明するものは見当たらな かった。  年は二十二歳くらい、髪は栗色をしていて肩のあたりまで伸ばし、身長百六十五センチ ほどのまれに見る美しい女性で、白いブラウスとグレーのスカートを着ている。女性に関 して判っていることはそれだけで、捜索願や保護願いが出されているかどうかを問い合わ せてみたが、今のところそういった届けは出ていないと言うことだった。  それにしても、何て美しい女性なのであろうか。まだ独身である私にとって女性はまさ に……。いや、こんな事を話してみてもはじまらない。それに私は警察官なのであり、私 情は禁物であった。  ところで、調べがまったくお手上げの時、一人の男性が交番に入ってきた。  すると、それまでぼんやりとしていた女性が、急にわけのわからない言葉を発しながら 暴れだした。私は、あわてて女性を押さえつけて静めようとした。男性は、やにわにポケ ットの中に手を突っ込んで何かを取り出した。  取り出したケースの中から出てきたのは注射器だった。  男性は私が押さえている女性に、注射器を刺そうとしていたが、男性の素性が判らない し、もしも毒薬だったらいけないので、私は男性の腕を掴んで制止した。  その時、女性を押さえている手の力が緩んで、女性は私の腕を振り切って逃げ出してし まった。  男性は蒼い顔をして追いかけようとしたが、女性が暴れだした原因ともいうべきこの男 性を呼びとめ、なおも無視して女性の後を追おうとしたので、実力行使にでて男性を取り 押さえた。  しかし、男性から事情を聞かされて、私は共に女性を追わなければならなくなった。な ぜなら、女性は殺人狂の精神異常者で、早く捕まえなければ誰かが殺されてしまうのだ。 男性は精神病院を抜け出した女性を追いかけて捕まえようとしていたのである。  女性の後を追いながら、男性から事情を聞きだしてみると、殺人狂となる発作の前触れ が、突然わけもなく叫び声を上げて気絶するということだった。
 足音が……  index  ⇒今は夜中の三時頃
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