流星 index ⇒闇の叫び真夜中の出来事/足音が……
足音が…… ある蒸し暑い夜のことだった。 若い女が一人で夜の街を歩いていると、ふと後ろから誰かの足音が聞こえてきた。 女が振り向くと、その足音を響かせていたと思われる人物の影が、さっと物陰に隠れる ように消えた。 しかし、女が再び歩き出すと、待っていたかのようにまた尾行してくるのだ。 何度か女が振り返ると決まってその影は姿を隠す。 女は気持ち悪くなってというよりも恐ろしくなって、やにわに走り出した。 だが影も女の後を追って走ってくるのだった。 女は走り続けた。 が、走っても走っても、影はどこまでも執拗に追ってくる。 その間隔が次第に狭まっているのが足音でわかった。 死に物狂いで息を切らしながら走り続ける女の脳裏に、痴漢という言葉が浮かんだ。 このままではいけない。早く交番にでも駆け込む以外にはなかった。 ところが、女の目に映ってくるのは、固く閉ざされたシャッターばかりで、交番はおろ か開いている店すらもなかった。 影はすぐ後ろにまで迫っていた。女は、もう体力の限界にきていて、心臓は張り裂けん ばかりであった。 その時、目の前に交番らしきものがおぼろげにも見え、助かったと思いつつ最後の力を 振り絞って、女はそこまでたどり着こうとしたが、足がもつれて地面に倒れてしまった。 もうだめ、もうこれ以上一歩も歩けない。 影は、とうとう女に追い着き目の前に立ちふさがった。 自分は犯されるのだろうか、と絶望し疲れ果てぐったりしていると、影は警察手帳を見 せて言った。 「君の住所と名前は? こんな真夜中に一人で……。と思っていると、君は急に走り出し た。どうして逃げたりするのだ。 ちょっとそこの交番まで来てもらおうか……」