第十一章・共同戦線
Ⅳ
サラマンダー艦橋。
通信スクリーンパネルに映るケルヒェンシュタイナー。
『ここは我々の星だ。申し開きすることなど毛頭ない』
その言葉には、引くに引けない感情が溢れていたが、イオリス国とミュー族との連合軍相手では戦力差がありすぎるのも事実。
『と、言いたいが……ここは、一旦引かせて貰おうか。無駄な戦いはしたくないのでね』
と言うと、通信が途切れた。
やがてアルデラン軍は撤退を始めた。
あっけらかんとするサラマンダーのオペレーター達。
「意外とあっさりと引き下がるんですね?」
通信士のモニカ・ルディーン少尉が呆れたように言う。
「追撃しますか?」
ジョンソン准尉が尋ねると、
「いや。無駄追いをする必要はない。おそらく増援の艦隊が、こちらに向かっているはずだ。追撃すれば鉢合わせする可能性がある」
トゥイガー少佐が制止した。
「なるほど、素直に撤退したのは罠に掛けようとの魂胆なのですね」
「可能性を話しただけだ。用心に越したことはないだろう」
「ミュー族艦隊が動き出しました。アルデランを追撃するようです」
レーダー手のフローラ・ジャコメッリ少尉。
「なんだと? スヴェトラーナに繋げ!」
通信機器を操作するモニカだったが、
「だめです。繋がりません」
「通信に出れば止められると思ったか」
「独断専行は、共同戦線では御法度ですよね。いかが致しますか?」
「放っておくわけにはいかないだろう。サラマンダーで後を追う。他の艦はそのまま惑星に留まっておけ」
サラマンダーは、先の戦闘で舷側砲塔を破壊はされたが、機関部はやられていないので、高速航行を頼りにして追尾するのに最適だし、いざとなれば原子レーザー砲を撃つこともできる。
「輸送艦はいかが致しますか?」
「情勢がまだどうなるか分からない。もうしばらく待機させておいてくれ」
基地を再建するための岩盤削岩機を始めとする各種工事用機械及び建設資材を積み込んだ輸送船。安全が確保されるまでは、荷下ろしすることはできないので、待機を余儀なくされることとなった。
「サラマンダー舷側砲塔の修理が必要だ。輸送艦から技術者と資材をこちらに至急回してくれ」
「かしこまりました」
惑星クラスノダールを離れ、舷側砲塔の修理を行いつつ、軽巡洋艦スヴェトラーナの後を追いかけるサラマンダー。
「追尾しているのは、やっこさんも気づいているでしょうね」
とジョンソン准尉。
「たぶんな。特殊哨戒艇Pー300VXを出してみるか」
「哨戒艇を?」
「そうだ。彼らの戦いぶりを、詳細にモニターするんだ。特に超能力ワープに規則性がないかとかな」
「規則性? 例えば能力者の癖とかですか?」
「そうだ。それが少しでも分かれば、能力ワープで次にどこへ跳ぶかの判断がつく」
「なるほど。人間の行動には癖があることを利用しようと……。って、まさかミュー族と戦うおつもりですか?」
「今は共同戦線とか申し込んできたが、俺たちは彼らの腹のうちは読めない。どうも一癖も二癖もあるみたいだ。こちらは相手の腹の中は読めないからな」
「分かりますよ。三度も問答無用で仕掛けてきた奴らですからね」
「ともかく砲塔の修理を急がせろ!」
どうやらミュー族との戦闘があるだろうとの予測で動いているトゥイガー少佐だった。