第十四章 アクティウム海域会戦
Ⅰ  アレクサンダー皇太子が動き出したという情報は、すぐさまロベスピエール公爵 の知るところとなる。 「反乱軍が動いたというのか?」  首都星を抑えている摂政派から見れば、皇太子派の方が反乱軍である。 「皇女艦隊百四十万隻に、皇太子率いる共和国同盟軍六十万隻、総勢二百万隻に及 びます」 「ハロルド侯爵の軍は動かないのか?」 「はい。アルビエール侯国軍は、総督軍の残存部隊が侵入してくるのを監視するた めに残してきたようです」 「わが軍の総数は三百万隻だったな」 「左様にございます」 「戦術理論など考えずとも、正面決戦に誘い込んでガチンコ勝負で挑めば、数の戦 いで勝てるのではないか?」 「その通りでございます」 「よし。全艦に迎撃準備をさせろ!」 「かしこまりました!」  公爵の命令によって、摂政派に属する艦隊の集結と提督らの招集がなされた。  アルデラーン宮殿謁見の間に、ロベール皇帝(ジョージ親王)の御座たてまつっ て、出陣式が行われている。  居並ぶ将軍たちの前で、玉座の傍に立つ公爵が宣言する。 「反乱軍がついに、我らが聖都に向けて艦隊を差し向けてきた!」 「おお!」  その言葉にしばし騒めく宮中の将軍たち。 「がしかし! 慌てる必要はないぞ。我が軍三百万隻に対して、反乱軍は二百万隻 であるから恐れるに値はない。正々堂々と戦って蹴散らしてくれようぞ」  再び喝采があがる。 「艦隊の総指揮官には、カスバート・コリングウッド提督にやってもらう」  指名されて、一同の最前列中央に進み出るコリングウッド提督。  彼は、ジュリエッタ皇女艦隊の司令長官ホレーショ・ネルソン提督の片腕だった 人物で、乗艦は戦列艦ヴィル・デ・パリスである。  公爵が彼を総指揮官に任命したのは、ネルソン提督とのライバル意識を利用しよ うと考えたのだろう。  ワゴンが運ばれてきて、将軍たちに酒入りのグラスが手渡される。 「この一戦に皇太子派の殲滅を! 乾杯!(Cheers!)」  公爵がグラスを高く捧げ持って乾杯の音頭を取る。 「Cheers!」  将軍たちも同様に乾杯の仕草を真似て、そしてグラスを床に叩きつけて割った。  摂政派が行動を起こした報を受けて、皇太子派も動く。 「出陣式が行われたようです。この後、二三日中に出動開始となるでしょう」 「二三日中ねえ……まあ、戦争したことのない連中じゃ仕方ないか」  と含み笑いを漏らすアレックス。 「我が艦隊なら六時間以内には動けますよ」  マーガレットが応答する。 「同様です」  ジュリエッタも同意する。  ランドール艦隊ならどうかというと、士官学校時代模擬戦闘の頃から時間厳守が 守られてきているから、出撃発動から三十分以内には行動できるだろう。  数時間後、ランドール配下の艦艇の出撃準備は完了した。  サラマンダーの側方にインヴィンシブルとアークロイヤルが仲良く並んで出撃命 令を待つ体制に入っている。 「全艦、足並み揃いました」  パトリシア報告する。 「よろしい。全艦微速前進せよ!」 「了解、全艦微速前進!」  復唱するパトリシア。 「微速前進!」  二百万隻の艦艇が静かに帝国本星に向けて静かに動き出した。
     
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