足の甲のレントゲンも撮ったが、ヒビもなくまったくの異常なし。
整形外科の医師も診察にきたが、
「歩いていますか?」
「いいえ、痛くて歩いていません」
「極力歩いてください」
と冷たい答えが返ってきた。
苦しんでいる患者の気持ちを逆なでするような言葉。
しかし、そこまで言うなら、
「歩いてやろうじゃないか」
反骨精神が頭を持ち上げる。
痛みをこらえて、ベッド伝いに歩いてみることにする。
まずは、立ち上がらなければ始まらない。
ベッドの落下防止用の鉄柵につかまって、そろりと足をおろしてみる。
じんじんと痛みが伝わってくる。
何とか両足で立ち上がることができた。
しかし歩くために、片足だけに重心がかかるととてつもなく痛い。
それでも我慢して、ベッド伝いに歩みを進める。
少し歩いては休み、また歩いては休みしながら。
医者の方からはリハビリの話が出ないので、自己流でリハビリを続ける。
やがて短い距離なら歩いていけるようになった。
トイレにも行けるようになったので、携帯便器をさげてもらった。
足の痛みは相変わらずも、しっかりとした足取りで歩けるようになった。
唯一の救いは、今回は消化器の病気ではないので、食事は普通のものが出されていることだった。
入院中で一番の楽しみなので良かった。
とにかく痛みを抑える薬を与え、貼付剤を足の甲に貼り付けるだけ。
治療といった治療はなかった。
前回のクローン病のことで、特定疾患についていろいろ調べていた。
その中に、重症筋無力症というのがあるのを思い出した。
自己免疫疾患の一つで、合併症として「全身性エリテマトーデス」「間接リウマチ」などがある。
ということなのだが、入院している病院には該当する診療科はなかった。
つまり専門家がいないので、明確な診断を下すことができないというわけだ。
医者の煮え切らない返答も納得できた。
これ以上、この病院にいても改善の余地はないので、退院を打診した。
数日して退院の許可が降りた。
そして、久しぶりに我が家に戻ったのである。
しかし……。
想像はしていたものの、長期間閉め切っていた部屋の中は悪臭にまみれていたのである。
窓を開け換気をして、匂いを追い出す。
雑菌の繁殖した布団や、着替えた衣類は捨てるしかなかった。
夏用の布団を取り出して交換する。
さて、当面の課題としては、ともかく歩くことである。
リハビリとして、朝昼夕と付近を散歩することにした。
再三の入院で、筋力も落ちているので、体力の回復が一番である。
そして……。
再び病魔が襲い掛かる。