難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

 退院はしたものの、結局正式な病名は確定していない。
 退院証明書に記載された病名はまさしく、

 「痛風」

 だった。
 確かに症状は痛風そのものだったし、筋無力症かどうかを明確に診断できる医師がいない当病院では、いたし方ないところであろう。


 長い入院生活によって、いろいろとやらなければならない事が山積みだった。
 まずは保健所に特定疾患「クローン病」の認定申請。
 今後想定される再発に対して医療費免除は必要不可避だからである。
 これ以上の治療費の出費は痛い。
 そして、市役所に生活保護の申請である。難病のクローン病を抱えながら、度重なる入院によって収入が閉ざされており、入院治療費が支払えない。税金やローンの支払いも滞っていた。
 しかし自宅があり銀行ローンを支払っているということで認定が降りないことを説明された。
 すでに消費者ローンなどにも多額の借金を抱えていたので、これは自己破産しかない。
 法律相談センターで債務整理を弁護士と相談。相談無料の三十分以内で、自己破産することに決めて、その日の担当弁護士に法律の手続きをお願いすることにした。
 弁護士に支払うべき十万円ほどの着手金が必要だったが、法テラスという法律互助会組織に申請して決済され、月々5千円の支払いで済むことになった。
 自宅を売るとなると、その後の住まいが必要になるので、アパート探しとなる。
 2Kで36000円という格安物件が見つかった。築30年以上のポロアパートであるが、我慢できないほどの物件でもない。
 5分も歩いたところに深夜1時まで営業しているサミット・ストアがあるし、何より東武東上線及びJRの駅から徒歩10分圏内というのは魅力だ。
 賃貸契約も済んだ。

 そんな忙しい毎日を暮らしていたのだが……。

 その日は朝から体調がすぐれなかった。
 やけに寒く感じていた。
 ストーブにかじり付きでも、一向に身体が温まらなかった。
 咳がひんぱんに出て、胸も締め付けるような痛みがあった。
 念のために体温を測ってみる。
 39度。
 風邪かインフルエンザか?
 尋常ならざる事態に陥っていることは確かなようだ。


 3度の入院を体験しての実感だった。
 早速病院へ向かう。
 今までは消化器外科だったが、今回は明らかに内科であろう。
 あの主治医とは、はじめて担当が代わることになる。
 内科を受診して医者は、レントゲン写真を見せながら言った。
「肺炎と胸膜炎ですね」
 え?
 耳を疑ったが、レントゲン写真は明確な答えを示していた。
 肺の映像が、蜘蛛の巣状の白い影で完全に覆われていた。
 胸膜炎である。それに肺炎を併発していた。
 以前、肺の影が薄いと診断されたことがあったが、それが具現化してしまったというわけである。

 肺炎と胸膜炎。
 後で知ったことであるが、全身性エリテマトーデスの合併症として有名な病状である。
 主治医もそのことは良く知っていたらしく、
「膠原病です。埼玉医科大学総合医療センターで、精密検査を受けた方がいいでしょう。紹介状を書いておきましょう」
 ということになった。
 埼玉医科大学総合医療センターは、リウマチ(膠原病)ではかなり有名な病院だそうである。

 レントゲン写真で、肺炎と胸膜炎であることは明確だったので、すぐさま治療が開始され順調に回復してゆく。
 膠原病の治療も必要だったのだろうが、この病院ではそれができない。
 膠原病の専門家でない医師が下手に治療をすると、病状を悪化させるだけである。
 ここでは肺炎と胸膜炎だけに絞って治療が行われた。
 そして退院の日を迎える。


 膠原病などと診断をくだされると緊張する。
 いったいどんな病気なんだ?
 早速紹介状を持って、埼玉医科大学総合医療センターを受診する。
 何せ大学病院である。
 診療科が無数にあると言っても良い。
 どこを受けたらよいのか判らないが、ともかく総合受付で手続きをする。
 で、リウマチ・膠原病内科という診療科を受診することになった。
 自己免疫疾患を専門に扱っている科であることが後に判明する。
 午前中は問診から始まって、血液検査・尿検査・レントゲン・心電図……と検査が続く。
 午後に入って、検査の結果が集計されて医師の元に戻されて、診察結果が報告される。
「全身性エリテマトーデスが疑われます。入院しての精密検査と治療が必要です」
 はじめて聞かされる病名だった。
 入院治療が必要と聞かされても驚かなかった。これまで何度も入退院を繰り返してきたのだ。また一回増えるだけである。
 病気の簡単な説明が行われる。
 自己免疫疾患の一つで、自分自身に対する抗体ができて、免疫機能が自分自身を攻撃してしまうという難病だそうである。
 明確なる根治治療方法はなく、対症療法しかないらしい。
 クローン病に続く、二つ目の特定疾患を発病したことになる。
 他にも、抗リン脂質抗体症候群も合併していることを説明された。
 診断書を書いてもらって、市役所で再度生活保護を申請する。
 自己破産の手続きの申請書のコピー、アパートの賃貸契約書のコピーも合わせて提出する。
 早急の入院が必要とのことで、急迫保護手続きが取られることになった。
 事前の相談などの手続きを経由せずに、【職権保護】が実施されるのである。
 審査は事後に要否判定が行われる。

 即座に生活保護による医療券が発行されて、それを保険証代わりに提出すれば治療費(保険適用分)が全額無料となるものだった。
 というわけで、埼玉医科大学総合医療センターに入院することになったのである。