難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

難治性の肝炎のうち劇症肝炎/診断・治療指針(公費負担)

特定疾患情報認定基準

■概念・定義
劇症肝炎とは、肝炎ウイルス感染、薬物アレルギー、自己免疫性肝炎などが原因で、もともとの正常の肝臓に短期間で広汎な壊死が生じ、進行性の黄疸、出血傾向及び精神神経症状(肝性脳症)などの肝不全症状が出現する病態である。わが国では、「初発症状出現から8週以内にプロトロンビン時間が40%以下に低下し、昏睡U度以上の肝性脳症を生じる肝炎」と定義され、この期間が10日以内の急性型と11日以降の亜急性型に分類される。

 先行する慢性肝疾患が認められる症例は劇症肝炎から除外するが、B型肝炎ウイルス(HBV)の無症候性キャリアが急性増悪した場合はこれに含めている。また、リンパ球浸潤などの肝炎像が見られる疾患に限定しており,薬物中毒、術後肝障害、急性妊娠脂肪肝など肝炎像の認められない場合は劇症肝炎から除外している。

 なお、プロトロンビン時間は40%以下であるが、肝性昏睡T度までの症例は急性肝炎重症型と診断する。その約30%が昏睡II度以上の肝性脳症を併発するため、劇症肝炎の前駆病態として重要である。また、肝性脳症が出現するまでの期間が8〜24週の症例は遅発性肝不全(LOHF:late onset hepatic failure)に分類し、劇症肝炎の類縁疾患として扱われている。

■疫学
成人の劇症肝炎の年間発生数は1972年の調査では約3,700人と推定されたが、近年は減少傾向にあり、1989年の調査では約1,000人と推定されている。なお、厚生労働省の研究班の実施している全国調査では年間100例前後の症例が登録されており、1990年以降の年間発生数はほぼ一定と推定される。 一方、LOHFの発生頻度は劇症肝炎の1/10で、年間発生数は約100例と考えられている。

 全国調査には1998〜2003年に発症した劇症肝炎634例(急性型316例,亜急性型318例),LOHF 64例が登録された。これら症例の解析から、最近はHBVキャリア及び生活習慣病、悪性腫瘍など基礎疾患を有する症例が増加していることが判明した。HBVキャリアは急性型の12%、亜急性型の17%を占めていた。また、基礎疾患を有する症例は亜急性型とLOHFでは40%以上に達しており、その多くは薬物が投与されていた。

■病因
劇症肝炎、LOHFには成因を特定できない症例が少なからず存在する。1997年まではIgM-HA,HBs抗原,IgM-HBcが何れも陰性の症例は非A非B型に分類し、これらもウイルス性と想定してきた。しかし、同病型には自己免疫性肝炎の疑われる症例が含まれることが判明し、2002年以降はこれを独立させて、ウイルス性、薬物性、自己免疫性、成因不明例と分類することが決定した。また、ウイルス性はA、B、C、E型およびその他に分類されるが、この中でB型はさらに急性感染例とキャリア例に分類している。

  この分類に準拠すると、ウイルス性は急性型の71%,亜急性型の31%を占めている。A型は大部分が急性型に分類され、その頻度は流行の程度によって年毎に変動する。しかし、何れの病型とも最も多いのはB型であり、全体の約40%を占めている。急性感染例とキャリア例が5:3の比率で見られ、前者は急性型、後者は亜急性型を呈する頻度が高率である。薬物性と自己免疫性例は何れも全体の10%以下に過ぎず、病型では亜急性型に分類される症例が多い。また,成因不明例も未だ全体の約30%と多く見られる。特に、亜急性型とLOHFでは成因として最多であり,それぞれの42%、50%に相当した。なお、2001年以降のウイルス性の症例としてE型の登録が見られようになったが、何れも北海道からの登録例であり、成因としての比率は高くないようである。

■症状
劇症肝炎では、肝性脳症を除くと特徴的な臨床症状はない。急性肝炎と同様に急性期には消化器症状(悪心、嘔吐、食思不振、心窩部不快感など)、発熱、全身倦怠感などを認める。一般に急性肝炎では黄疸を発症するとこれらの臨床症状は軽快することが多いが、劇症肝炎では持続ししかも高度であることが多い。

 昏睡II度出現時に見られる症候で最も多いのは黄疸と羽ばたき振戦であり、全国集計では前者は97%、後者は74%で観察される。発熱、肝性口臭、腹水、頻脈及び肝濁音界消失が40〜60%、呼吸促迫と下腿浮腫が20〜30%で観察される。病型との関連では、腹水、下腿浮腫は急性型に比して亜急性型とLOHFで高率に観察されるのに対して、発熱、頻脈などSIRS(全身性炎症反応症候群:systemic inflammatory response syndrome)に関連する症候は急性型における頻度が高い。

 また、劇症肝炎,LOHFは高率に全身の合併症を併発し、多臓器不全(MOF:multiple organ failure)に陥る場合もある。合併症ではDICが42%と最も多く、感染症が40%で次いでいた。また、腎不全は37%、脳浮腫は31%、消化管出血は20%に併発していた。

■検査
診断では肝性昏睡(II度以上)とともにプロトロンビン時間40%以下が必須である。肝性昏睡発現時の肝機能検査では、急性型は亜急性型に比較して血清総ビリルビンの増加は軽度であり、血清トランスアミナーゼは高値を示す。プロトロンビン時間はいずれの病型では40%以下であるが、急性型でとくに著明に延長している。また、血清アルブミンは亜急性型で低値、血液アンモニアは急性型で高値を示す。

 腹部画像所見にも各病型間で差異が認められ、超音波やCT検査で肝萎縮と判定される頻度は、急性型が46%であるのに対して、亜急性型は82%、LOHFは83%と有意に高率である。

■治療
劇症肝炎、LOHFの治療で最も重要なのは、成因に対する治療と肝庇護療法によって肝壊死の進展を阻止することである。このため1次医療機関と肝臓専門医の病身連携が重要で、急性肝炎重症型と診断された症例は、専門機関へ移送して可及的速やかに治療を開始すべきである。昏睡II度以上の肝性脳症を併発して劇症肝炎ないしLOHFと診断された場合は、血漿交換を中心とした人工肝補助療法を開始する。また、この時点で肝移植適応ガイドライン(日本急性肝不全研究会)を用いて初回の予後予測を行い、死亡が予測される場合は家族に生体部分肝移植に関する説明を行うとともに、肝移植実施施設へ患者情報を提供する。家族内にドナー候補が現れた場合は、内科的集学的治療と並行して肝移植に向けた準備を開始する。全身状態が安定している患者では、治療開始5日後にガイドラインに従って予後を再予測し、死亡と予測された場合に肝移植を実施する。病態が急速に悪化し、特に脳浮腫の兆しが見られる場合は、5日後の再予測を待たずに肝移植を実施せざるを得ないのは言うまでもない。

  成因に基づいた治療法と肝庇護療法は可及的早期から実施するのが望ましい。A、B型の急性感染例では末梢血血小板数が減少している症例がしばしば経験される。これら症例では、肝類洞内凝固に微小循環障害が公汎肝壊死の原因であるとの想定から、肝壊死進展防止の目的で抗凝固療法を実施する。抗凝固療法にはATIII濃縮製剤と合成蛋白分解酵素阻害薬を用い、ヘパリンは併用しないのが原則である。B型キャリア例ではラミブジンを投与するが、その効果出現には数日を要するため、インターフェロンを併用した抗ウイルス療法を実施するのが望ましい。なお、B型急性感染例でも肝壊死が持続している場合や、肝炎ウイルスマーカーからキャリア例との鑑別が困難な症例では、同様に抗ウイルス療法を実施すべきである。一方、自己免疫性や薬物性の症例では副腎皮質ステロイドをパルス投与(水溶性プレドニソロン:1,000 mg)する。本療法は肝庇護や過剰免疫の抑制の目的でも有用であり、ウイルス性や成因不明例でも実施される場合がある。

  全身管理としては、中心心静脈を確保して、水、電解質、栄養及び循環動態を管理する。熱源はブドウ糖を中心とし、1,200〜1,600 K cal/日を目安に輸液する。劇症肝炎では血漿アミノ酸濃度が高値であるため、アミノ酸製剤は原則として投与しない。人工肝補助療法は血漿交換が中心であるが、単独では肝性脳症の改善効果が不十分であるため、血液濾過透析を併用するのが一般的である。血液濾過透析には、短時間に高流量で置換するHDF(hemodiafiltration)と、24時間持続的に置換するCHDF(continuous HDF)がある。循環動態が不安定な症例では,CHDFより治療を開始し、昏睡の改善が不十分な場合はHDFに変更するのが適切である。肝性脳症に対してはラクチュロスを経口ないし注腸で投与し、腸管難吸収性の抗菌薬である硫酸ポリミキシンBを用いた腸内殺菌を実施する。昏睡V度以上の症例では脳浮腫を高率に合併するため、上半身を軽度挙上させ、マンニトールを投与することにより、脳圧低下に努める。また、合併症に対する治療も重要であり、特に感染症を併発すると肝移植も実施できなくなるため,その予防に注意を払う必要がある。多くの患者は人工肝補助のためにカテーテルを血管内に留置しているが、その感染を防止するために5日以内に交換すべきである。また、誤嚥に注意し、体位交換を励行することで、呼吸器感染症の併発を予防しなければならない。

■予後
急性肝不全の予後は病型に依存しており、内科的治療のみを実施した症例における救命率は急性型54%、亜急性型24%、LOHF 12%であった。成因との関連では、A型が特に良好であり、亜急性型を含めても79%が救命されている。一方、B型キャリア例と自己免疫性疑い例は、急性型、亜急性型ともに救命率が低く、その対策が急務となっている。なお、1998年以降は生体部分肝移植を実施する症例が増加しているため、これも含めた救命率は急性型56%、亜急性型39%、LOHF 23%に達している。


難治性の肝疾患に関する調査研究班から
研究成果(pdf 26KB)
この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。

  メニューへ