難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

肺胞低換気症候群/診断・治療指針

特定疾患情報

■概念・定義
 肺胞低換気とは,肺胞レベルでの有効換気が減少して,O2の摂取と CO2の排出が十分に行われない状態であり,PaCO2の上昇が必発となる。

 広義の肺胞低換気症候群は,その原因によって,(1)呼吸中枢の異常に起因するもの(中枢性肺胞低換気症候群(central alveolar hypoventilation syndrome;CAHS)), (2)末梢神経や呼吸筋疾患に起因するもの (筋萎縮性側索硬化症などの神経筋疾患や,呼吸筋麻痺など),(3)死腔換気の増加や1回換気量の低下が肺胞低換気の要因となる肺,胸郭系の異常に起因するもの(陳旧性肺結核や強度の側弯症など)に大別される。

 難病として取りあげられる原発性肺胞低換気症候群(primary alveolar hypoventilaon syndrome;PAHS)とは,上記の中枢性肺胞低換気症候群(CAHS)のうち,明らかな器質的疾患が中枢神経系に認められない原因不明の肺胞低換気症候群である。

 その典型例は,“オンディーヌの呪い(Ondine's curse)”と名付けられた病態であり,覚醒時には呼吸は継続するが,眠ると停止してしまうというものである。これは,呼吸中枢群の障害もしくは化学受容器から呼吸中枢群への情報伝達経路の障害により,化学調節系による呼吸自動調節が円滑に作動しなくなり,睡眠時に中枢型無呼吸が発生するものである。脳幹部の呼吸中枢群の異常により呼吸出力が低下する病態であるが,脳幹部の病変が特定されることは少ない。多くの脳神経疾患においては,脳幹部網様体の異常が示されることが多いため,PAHSの確定診断のためには除外診断が大切となる。 PAHSは稀な疾患であり,1988年の本邦での集計ではPAHSとして報告されている症例は28例であった。しかし,以後多くの報告例が認められている。

■病因
 本症候群の病因の基本は,低酸素・高炭酸ガスに対する化学性呼吸調節機構のフィードバックが働かないことにあり,このために呼吸中枢出カが減弱し,肺胞低換気状態になる。PAHSでは,呼吸筋カ,神経筋伝達系,換気機能は異常を認めない。軽症の場合は,昼間のPaCO2は正常に近いが,夜間睡眠中に換気量の低下のためにPaCO2が上昇する。しかし,病状が進展すると昼間でもPaCO2の上昇とPaO2の低下を認める。

 本症候群の病因は,化学刺激に対して呼吸調節系の反応が欠如又は低下することにある。呼吸の化学刺激においては,低酸素血症は頸動脈体等の末梢化学受容器を介して,高炭酸ガス血症は延髄腹側にある中枢化学受容野を介して,脳幹部の呼吸中枢ニューロン群を賦活化させるが, これらのフィードバック機構の障害が,本疾患の主たる原因と考えられる。この結果として,患者は高炭酸ガス換気応答の欠如又は著明な低下と,低酸素換気応答の低下又は逆転した反応(低酸素による換気抑制反 応,つまり低酸素状態になると更に換気が抑制される状態)を示す。

 これらに加えて,睡眠に際し,上位中枢からの行動調節系が抑制を受けると更に重篤な肺胞低換気をきたす。睡眠時には,長時間にわたる低換気が持続するため,低酸素・高炭酸ガス血症の程度は高度であることが多く,体・肺循環系に与える影響もより重篤となる。このためにPAHS症例の多くはうっ血性心不全や肺性心を伴っている。また患者は覚醒時にも慢性の低換気状態にあり,呼吸器疾患の合併などが原因で更に呼吸状態が悪化すれば容易にCO2ナルコーシスに陥るため,意識障害が発見のきっかけとなることもある。

■症状
 20〜50歳の男性に好発する。初期には症状が軽度で見過ごされやすい。 慢性の高炭酸血症に気づかず,麻酔剤や鎮静剤の投与後にPaCO2の上昇が顕著になったため,初めて発見されることもある。しかし,睡眠時の低換気は初期より認めるため,夜間の睡眠障害の症状として,昼間の傾眠や全身倦怠感を伴いやすい。初期症状の時期を過ぎると,次第にチアノーゼ,多血症,肺高血圧症,肺性心を代表とする慢性の低酸素,高炭酸ガス血症による二次的な諸症状が観察される。主訴としての呼吸困難感は,血液ガス異常が著しいのに比して軽微で,ときとして全く欠如する。

■検査
 動脈血液ガス分析においては,肺胞低換気によりPaCO2の上昇が必発である。これに伴い肺胞気酸素分圧(PAO2)が低下し,PaO2は低下する。しかし,肺胞気一動脈血酸素分圧較差(AaDO2)は正常である。本症では,最大吸気・呼気口腔内圧を含め,肺機能検査値においては大きな異常は認められない。また自発的な過換気により,低酸素血症及び高炭酸ガス血症の改善が見られることも特徴の1つである。換気応答検査においては,低酸素換気応答及び高炭酸ガス換気応答の低下が認められる。

 睡眠時検査では,睡眠時無呼吸の合併がしばしば見られるが,一般的 な睡眠時無呼吸症候群とは異なり低換気や不規則呼吸が主体である。そのため,無呼吸・過換気という周期的な呼吸異常を伴うことが少なく,無呼吸指数の程度は軽度のことが多い。また,上気道の閉塞がないか, 閉塞を解除しても低換気が持続するという特徴がある。当然のこととして,血液ガス所見は睡眠中に増悪する。運動負荷試験では,健常人ではPaCO2は不変もしくは低下するが, 本疾患ではPaCO2はむしろ上昇する症例が多くみられる。


呼吸不全に関する調査研究班から
肺胞低換気症候群 研究成果(pdf 20KB)
 この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。


情報提供者
研究班名 呼吸器系疾患調査研究班(呼吸不全)
情報見直し日 平成20年4月25日

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