機動戦艦ミネルバ/第五章  ターラント基地攻略戦(7)

 その頃、ナイジェル中尉の班は湿地帯から攻めてくるはずのオーガス曹長の班に対する迎撃体制を整えていた。
「中尉。湿地帯の方角にエネルギー反応です」
「来たか。十分引き付けてから攻撃を開始する。上陸するその時を狙うのだ」
「了解!」
 通信を終えて、
「さすが作戦巧者のサブリナ中尉だ。鋭い読みをする」
 と、しきりに頷いていた。
 いずれ戦わなければならないとは知りつつも、今は目前の敵に集中すべきだと、意識をオーガス曹長との戦いに専念することにした。

 湿地帯の中を突き進むオーガス曹長の班。
 足を取られながらも前進を続けていた。
「ようし、ここらでいいだろう。上陸するぞ」
 向きを変えて、湿地帯から上がろうとするオーガス班。
 およそ三分の一ほどが上陸した時だった。
 森林の奥からミサイルが飛んできて、一機に命中した。
 ペイント弾が破裂して、機体を真っ青に染め上げる。
『ガラン上級上等兵、命中です。行動不能に陥りました。隊より離脱して帰還してください』
 通信機から指示が入った。
 戦闘シュミレーションによって、攻撃を受けた場合の損傷状態が計算され、戦闘不能と判断されて帰還命令が出されたのである。
「りょ、了解。帰還します」
 隊を離脱して帰還の途につくガラン上級上等兵。
 奇襲攻撃にたじろぐ兵士たち。
「な、なんだ? どうしたんだ」
 オーガス曹長も例外ではなかった。
「奇襲です。森の奥から攻撃を受けています」
「森の奥からだと?」
 攻撃は続いていた。
 次々と撃破されて離脱する機体が続出していた。
「一時後退だ。湿地帯へ戻れ」
 湿地帯へと避難するオーガス班の機体。
 だが、違う方角からの攻撃が加わった。
「後方よりミサイル多数接近!」
「ミサイル?」
「対岸より発射されたもよう」
「対岸というと、サブリナ中尉か!」
「挟み撃ちです」
 進むもならず、退くもならず。
 進退窮まって全滅の道を急転直下のごとくに陥るオーガス班だった。

 全滅だった。

「こんなのありか……? 二班から同時攻撃を受けるなんて」
「おそらく共同戦線を張られたのかと思いますが」
「共同戦線だと?」
「はい。作戦概要の禁止条項を確認しましたところ、ルール違反にはならないようです」
「サブリナ中尉の策略か」
「そのようですね」
 通信機が鳴った。
『オーガス曹長の班は、総員帰還せよ』
 ミネルバからの連絡は、冷徹な響きとなってオーガスの耳に届いた。
「了解。帰還する」
 ペイントまみれの機体が続々と帰還をはじめた。

「オーガス班、全滅です。総員、帰還の途に着きました」
「ふふん。天狗になっているから、こういうことになるのさ」
「これから、どうしますか?」
「共同戦線はここまでだからな。この勢いに乗ってハイネの班へ殴り込みをかけたいところだ」
「C班ですね」
「まあ、ハイネは個人としての戦闘能力はずば抜けて高いが、所詮はただの下士官だ。作戦を立て、隊を指揮するなどという頭脳プレーは経験がない。ちょっとかき回してやれば、隊は混乱に陥り、士気は乱れて自滅する」
「サブリナ中尉の指揮下にあってこそのものということですね」
「その通りだ。ハイネ上級曹長、恐れるに足りずだ」
 数時間後、ナイジェル中尉率いるB班と、ハイネ上級曹長率いるC班が、戦闘の火蓋を切った。
 ナイジェル中尉の予想通り、ハイネ上級曹長率いるC班は、緒戦こそ善戦したが、ナイジェルが放った陽動作戦に見事に引っかかって、善戦むなしく敗退した。
 奮戦むなしく帰還するC班を見送るナイジェル中尉。
「ようし続いて、残るD班との決戦だ。その前に補給だ。しっかり燃料弾薬を積み込んでおけ」
 負け組みが帰還した後に残された陣地は、勝ち組が自由に使っていいことになっていた。